第3話 さぁ来世に期待(1)
「ぐぅ〜。今回もダメだったぁあ」
スマホ片手に斉橋 奏江は項垂れた。
一日に何度もマッチングアプリを確認したが、新着情報はない。
婚活ツールとしてリリースされているアプリも、最近は「先ずは恋人から」というスタンスの恋活目的が増えた。
しかも既婚者が火遊び目的で、気軽に登録していたりする。
それ普通の出会い系じゃん。
既婚者が未婚のフリして登録するとか、許されざる大罪だ。
見つけ次第、八つ裂きにして、ネット上に『この顔にピンときたら、ソイツは既婚者だ!』と指名手配班のように顔写真と名前を公開してやりたい。
身元を偽って登録とか、それはもう詐欺師だ。詐欺師は犯罪者だ。
犯罪者は法で取り締まるべきだし、できないならネットで公開処刑も止むなしである。
婚活に必死な女性相手に遊びたいなら、自分の結婚生活を賭けるべきだ。
奏江は結婚したくて、出会いを求めている。
その為の効率的かつ合理的な手段がマッチングアプリや結婚相談所なのに、アプリで出会う相手が既婚かどうか探るところから始めるなんて、それはもう普通の恋愛と変わらないではないか。
結婚願望の強い彼女だが、恋愛願望はない。
彼女が求めるのは、結婚した先に続く穏やかで安心できる家庭生活であって、それまでのドキドキやときめき、すれ違いに胸を焦がす云々は全くもって興味がない。
恋愛は自分が体験するのも、フィクションとして触れるのも面白いと思えない。
彼女が唯一楽しめるラブストーリーは、裏切られて復讐する系のざまぁ物だ。
あれは相手がクズであるほどスカッとする。
彼女は元サヤ派ではないので再起不能なレベルに叩きのめすことに躊躇いはない。
いいぞ、もっとやれ! ボロ雑巾にして捨ててやれ!
子供が欲しいわけでもない。
夫と子供と過ごす時間は素敵だと思うし、子供を育て上げる苦労と充足感は何物にも代え難いと思うが、そこまで固執してはいない。
子は
彼女の基準で子育てのメリットとデメリットを比較すれば、トントンどころかややマイナスなので、居たら良いけど、居なくても構わないくらいのもの。
産んでしまえば後戻りできないのだから、デメリットに目がいってしまううちは、まだ母親になるべきではない……とか思っているうちに、年齢的なタイムリミットが来てしまった。
母体と生まれてくる子のリスクを考えて、奏江は三十五歳にしてキッパリ出産という選択肢を捨てた。
良いのだ。最近は産まない選択をする夫婦も増えてきた。
子供を愛でたければ姪も甥もいる。
それに相手が再婚だった場合、連れ子を心から歓迎できるというものだ。
子供に老後の世話をさせるのも忍びないし、それなら育児にかかる資金を夫婦の老人ホーム代にすることで気兼ねなく余生を過ごしたい。
うん、ものの見事に合理化している。
結婚相談所も
未婚なのは確実だが、アプリよりも敷居が高いために登録者の総数が少ない。そして奏江の仕事だと、イベントや相談所に顔を出すのは難しい。
Web小説家が本業を持っているように、奏江も婚活の傍らバリバリ仕事をしている。
バリバリ過ぎて、アプリや相談所に登録している男性陣の年収上位層に食い込むレベルだ。
皆さん、絶滅危惧種の3K(高学歴高身長高収入)がここにいますよ!! ……但し性別は女だけど。
彼女が今の働き方を維持するなら、結婚相手は余裕で専業主夫になれる。
しかし年収に見合うだけあり、その仕事は超ハード。
数ヶ月ごとに日本各地を飛び回り、月単位でホテル生活もザラ。
一応週休二日だが、二日連続して休むことは稀で、年末年始ですら三日間以上休んだ覚えがない。
年収を大幅に下げて安住の地を見つけることもできるが、人生何があるかわからないのだから、奏江は体力があり稼げるうちは稼ぐつもりだ。
あと平凡な仕事はつまらない。
只でさえ労働なんて面白くもなんともないのだ。
少しでもストレス少ない環境で荒稼ぎして、ついでに休日には現地で観光したい。
お前そーゆー、とこだぞ。
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