「料理長」「大使」「フルパワー」

〈今回の単語〉

料理長

フルカラー

街宣車

フルパワー

持ち物

登山鉄道

赤鉄鉱

チームワーク

大使


〈料理長、大使、フルパワー〉


高級レストラン「Le meilleur」。

最高の料理と最高のおもてなしをモットーとする、街で一番のレストランだ。

 従業員は皆人当たりがいいし、何を食べてもほっぺたが落ちるほどおいしい。

 高めの値段設定だが、いつも客が満員で経営も順風満帆にみえた。

 しかし最近、料理長の悩みのタネとなっている問題があったのだ。

 それが、本場フランスから来た大使だ。

彼は日本人が伝統的なフランス料理を作っている、しかもそれで大儲けしていることが、気に食わないらしく、大使の立場を使って半ば嫌がらせのような事を日夜行ってくるのだった。

 この前は「こんな物、本物のポトフではない!」と皿をひっくり返したし、その次は「違う!」とブチギレて帰ってしまった。前回に至っては「料理に虫が入っている!!」なんて難癖をつけて来たのだ。

 しかし、相手は本国のお偉いさんである。なにか、対抗しようものなら国際問題に発展しかねない。

 それは、料理長の望む所ではないのだ。

 なにかいい方法はないか、料理長は唸るほど考えた。そして、何日も経過した後、ようやく、いい考えが浮かんできたのだった。


「おじゃまするよ。」


 その日、フランス大使はクルンと曲がった口髭を触りながら、嫌味ったらしく入店した。


「いらっしゃいませ。お待ちしておりました。」

「フン。今日こそはちゃんとした料理をだしておくれよ?以前のように異物混入などされちゃあ困るからな。」

「はい。もちろんでございます。」


 料理は次々と運ばれていく。

 鴨のコンフィ、ブイヤベース、エスカルゴにフォアグラ。

 どれも輝いてみえるほど美しく、それ以上に美味しそうだった。

 フランス大使も褒めないように褒めないようにと我慢しているのか、食べるたび目を見開いていた。

 事件は大使がデザートを口に運んだ時に起こった。


「ガリッッ」


 明らかに食べ物から発せられる音とは思えない固い音がした。

 間違いない!食べ物の中に何か入っている!


「がっ、げほっ、げほっ、、、なんだ!何を入れた!説明しろ!」


 フランス大使は口に入っていた固いものを吐き出し、そのまま料理長につかみかかる。

しかし、料理長はいたって冷静な顔でこう言った。


「おお、当たりですね。おめでとうございます。」

「何が当たりだ!この件は世間に公表させてもらうぞ!この店は異物混入を平気でする店だとな!」

「異物混入?よく見てくださいよ。」


 大使が吐き出したものをよく見るとキラキラと光るコインだった。


「コイン?コインがなんだ!結局異物混入じゃないか!」

「はい。コインがガレット・デ・ロワの中に入ってたんですよね?じゃあ当たりじゃないですか。」

「は?」

「ガレット・デ・ロワに陶器の人形が入っていたら、当たりという風習がフランスではあるそうじゃないですか。それにならって私の店も入れてみたんですよ。さすがに陶器の人形は用意できなかったので、マイナーチェンジとして使われることがあるというコインで代用ですがね。」

「それは…そうだが、店で、しかも日本の店でやる所なんてほとんどないぞ!頭がおかしいのか?!」

「はい。確かにそんな店は少ないでしょう。しかしまた、本物のガレット・デ・ロワでないと言われないように勉強を重ね、フルパワーで腕によりをかけて作ったのですが、なにかお気に召しませんでしたか?」

「………」

「それとも、本場の料理がお気に召さなかったのでしょうか?」


 料理長がそういうと、大使は何も言わずに帰っていってしまった。

 今でも、大使はよく「Le meilleur」に訪れるが黙って静かに食べて帰るらしい。

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