第21話 さようならテンプレハンターD

 コンビニのイートインコーナー。二人の男性がおでんとサッポロゴールデンスターで盛り上がっていた。なお、通常コンビニのイートインでの飲酒は禁止だ。


「いやー、ラノベって難しいですね」

「せやな」

「いっそ、テンプレ尽くしで書いてみようかと」

「ええんとちゃうか?」


 関西弁の男が程よく味のしみた卵を頬張る。


「でもね、そもそも、どこまでテンプレなのかわからないのですよ」


 作家志望の男がゴールデンスター2本めに突入する。男は「最近のビールもどきうまいっすね」とつぶやく。


「基本、主人公はハーレム。努力無用。ヒロインはツンデレやら天使やら。幼馴染、妹。そんなとこちゃうか?」

「ええ。そんなとこですかね。もう少しあるかもしれませんが、基本はそうですね」


 関西弁の男の方も安ビールをぐびっと飲んだ。


「ま、どのラノベも似たようなもんや。異世界転生、VR、学園ラブコメ、多少ジャンルに差はあっても主人公は基本若い男性でチートでハーレムやな。小説として終わっとんな」

「そうですか? テンプレには意味があるんじゃないでしょうか。時代小説だって、戦国か江戸時代、幕末テンプレじゃないですか。正長の土一揆で私徳政を実現した奈良の百姓の物語とかじゃないですよ。読みたいですか? 惣村もの時代小説。百姓みんなで自治する、ほのぼの農村ライフな時代小説」

「そんなん、誰も読まへんわ」


 作家志望の男がため息をついた。


「そこなんですよ。テンプレ以外読みたくないんです。なのに、書く方はテンプレはやだ、オリジナリティを出したいと。それってなんだろうと。自分だってテンプレ好きなんじゃないのかって」

「ほほう」

「音楽だって、メタル好きな人って、旧態依然としたツーバスドコドコ、ディストーションギターぎゅわーんな、ザクザクギター好きじゃないですか。革新的なメタルって、殆ど無いです」

「ドリームシアターは革新的やで?」

「ああ? あれは基本、ラッシュですよ? ラッシュ+キング・クリムゾン。ていうか、ドリムシそのものが古いっすよ。せめてベビメタくらい例に出してください」

「ベビメタなあ。初期の方が好きや」


 関西弁の男は腕組みをして唸った。


「ベビメタはともかく、メタルは様式的だから人気なんです。速弾き系なんて、イングヴェイ・マルムスティーンの劣化コピーか進化コピーでしかないですやん」

「でもな、イングヴェイは先駆者やんか」

「いやいやいや、ヤツはデビュー当初、服装からギターまで、リッチー・ブラックモアのコピーですよ。で、演奏は意外にウリ・ジョンロート風」

「そういえばそうやな」

「我々はテンプレを殲滅できないんです。テンプレを積み重ねるべきなんです。つまり、様式美を求めるべきなんです!」


 様式美。

 王道。

 テンプレ。


 難しいですな。


 しかし、それがラノベ。テンプレは死なない。これが真理。

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