第23話:宴と決意と真実

「じゃんじゃん飲め!!今日は宴じゃ!」


「うおぉぉぉ!!」


城内にある大食卓、ここで飯を囲む人間と亜人達。各々の酒が入ったのか、さっきまで殺し合っていたのを忘れて楽しいそうに雑談したり馬鹿やったりしている。フォルネウスも僕の膝の上で寝ている、酒が入ると寝るタイプか。

「さぁさぁフォルネ殿も!遠慮せず一気に呑んでくだせえ!」


「いえあの… 僕アルコールはまだ呑めなくて…」


「むむ、そうであったか。では急いで他のを用意させましょう、何がいいでしょう?」


ガガギズさんもすっかり丸くなって、さっきまで刃をぶつけ合いながら死闘を繰り広げてたなんて想像がつかない。

「それならお水を…」


「ゲウラ!水だ!水を持ってこい!」


へい!と下っ端の亜人が答えるとすぐ扉を飛び出て水を取ってきてくれた。

「本当は盃を交わしておきたかったんですがね… まぁ我らの絆はそうそう千切れまい!ガハハハハハ!」


「ガガギズさん、別に敬語は大丈夫ですよ。僕の方が歳下ですし」


「それは了承しかねますな、吾輩はフォルネ殿の家臣ですぞ?むしろフォルネ殿がタメ口で喋った方がいいまである」


「タメ口でも家臣は家臣ですよ、それにそっちの方が気軽に話せそうですし」


「うーむ、それならそうするとしましょう…いや、そうしよう!フォルネ殿、これからもよろしくだな!」


「はい!」


洞窟で待機中だった残りの人たちも合流した。怪我人は別部屋で手当してもらっているみたいだ。宴会場に入ってきたアラヒサ達が目に入った。

「アラヒサくん!もう歩いていいの?」


「いや、少し顔だけ見ておこうかなと思ってな。それより伝達は本当だったんだな…」


「うん…」


敵だった亜人と和解し仲良く職を囲んでます、なんて罠でしかないような伝言を頼んだ。疑心暗鬼になるのも仕方ない。

「ところでだが、この槍君のだろ?」


「そういえば忘れてた!ありがとうアラヒサくん」


「礼には及ばん。少しベッドで横になってくる」


「うん、気を付けてね」


そういえば僕は結局役に立たなかったな。僕の技は一つも通じてなかったし、クーフーリンさんにも迷惑かけたし…

「フォルネ殿」


後ろからガガギズさんが声をかけた。

「少し話さないか?」


「いいですよ」


奥のテラスへと向かった、そこからは白い山々が見える。空は暗く、そして光の斑点がそこら中にあった。

「吾輩はずっと人間と暮らしたいと思っていた」


そう語ったガガギズはどこか懐かしい目をしていた。

「我ら亜人は皆そう思っていたと思う。だがそれは自分らの非を認め、罪を忘れるのではなく償うつもりで乗り越えたからだ。今の亜人は皆ある男に騙されておる」


「… それは現国王ですね」


「ああ、奴がこれまでの歴史は嘘であったと国民に教え、我らが迫害されてるのは不当な理由からだと国民を洗脳した。吾輩らはそれを信じるつもりはなかったが、否定する材料もなかった故従った。だからどうか、勘違いをしないでほしい。これ以上の不要な争いはしないでほしい」


「でも僕らが今王都に行って『国王は嘘をついています』なんて言っても信じてくれるわけがないじゃないですか」


「ああ、だから方法は一つしかない、フォルネ殿も理解しているであろう?」


「…ペルナドくんを王座に戻す」


「国王はペルナド殿に関しては謀反人として吾輩ら士族長に伝え、国民には死んだと公表した」


「なぜ謀反人という定で国民に公表しなかったんですか?そちらの方が危険は少ないはずですが」


「王家から謀反人が出たとなれば国民からの反発も大きくなると考えたからだろうな」


ペルナドくんを王の座に着かせる… それじゃあ根本的な問題の改善には至らない。遅かれ早かれ魔王は復活する。

「フォルネ殿が言っておった魔王の件だが、明日には出発した方が良いだろう」


「それはどういう」


「伝承だ。魔王復活には幾万の魂と満月が必要となる、と熊族の伝承にある」


満月だと!?そんな話ペルナドくんは言ってなかった!でもそれだと魔王を復活させてなかった理由にも説明がつく。

「それと秘密裏に王都へ人の姿をした大岩が運ばれてきていた、つい最近のことだ」


「もう準備は万全ということですね」


「ああ、満月は明後日だ、もう時間は残されてないだろう」


「分かりました、ガゼロさんに伝えときます。それと… もしついてきてくれ、って言ったら一緒に戦ってくれますか?」


「服従を誓った家臣故、是が非でもついていく、たとえその道が吾輩の死につながっていても」


「… 分かった」


ガガギズさんはベランダを出て僕を1人にした。

僕には世界を救う英雄になりたくて参加したんじゃない。ただ、単純にただそこに居合わせただけだった。僕を慕う理由なんてどこにもないのに、何でみんなここまで僕を信用し、命をかけるなんて簡単に言ってしまうんだ。

「みんなあなたが好きだからッスヨ」


「… 君は本当に何者なんだ、イアソン」


「僕はただの旅人ッスヨ」


「… 答えてくれ、僕はどうすればいい?みんなが期待するほどの人間じゃないんだよ僕は、なのに何でみんな僕を…」


「ぼくは、本当は船長の器じゃなかった。あの場にはもっと適人が居た、ぼくよりも勇敢で、強くて、信用にたる人間が… でも彼は船長の座をぼくに明け渡した。彼は見抜いていたんッスヨ、ぼくが知らないぼくの可能性を。自分を信用してくれる人ってのは自分には見えないものが見える人なんッス、時がくればそれが何かが自分にも分かるはずッス」


「それは間違いだとしてもか?」


「あなたはガゼロ大隊長やクーフーリンさんがそんな間違いを犯すと思ってるんスカ?」


「…」


「今は信じてみるのが得策だと思いますがね」


振り返ったがイアソンはそこには居なかった。幻聴か?いや確かにそこに居た。あの人も世話焼きな人だな。

「ははっ…」


悩んでる暇はない。今は進むことを考えよう。全ては魔王復活を阻止するため。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る