第22話:亜人の極意

獣人化ズヴェエル』、亜人が先祖に近づく奥義。『獣人化ズヴェエル』を発動した亜人は体毛が増え、顔が変形し、五感全てが5倍になる。

くぞ」


その巨体に呆気を取られていた時、クーフーリンさんは瞬時に動きガガギズの背後を狙った、が『獣人化ズヴェエル』で増した防御力は簡単に刃を通してはくれない。

「マジかよ…」


「隙ありッ!!」


体勢を崩したクーフーリンさんをハンマーで飛ばした。

「次は貴様さ、童ぁッ!!」


ガガギズはフォルネウスを討伐最優先事項と定めたのだろう、フォルネウスに猪突猛進していく。

「阿呆がッ!わちを舐めるなッ!」


向かってくるガガギズにびくともせず、拳を構えながらガガギズを待っている。ガガギズは右手のハンマーを構えて今でも振り下ろさんとしている。

「うおおおお!!」


「『豪海盟主ランブリングサーペント』ッ!!」


ハンマーと拳がぶつかり、ハンマーが砕け散った。フォルネウスの拳からは青い竜のような幻影が見え、それがハンマーを食ったのだ。

「なんのこれしきィ!」


「李国流『鳳凰風乱フェニックス』ッ!」


「グッ!貴様ら人間は…!」


ガガギズが左手の斧をフォルネウスに叩きつけようとした瞬間、ガリレオが斧をバラバラに斬った。僕も飛び出しガガギズの胴体を狙って槍を突き刺したが、『獣人化ズヴェエル』した皮膚は硬く、上手く刺さらない。一瞬の隙をつかれ、僕は薙ぎ払われ壁に叩けつけられた。飛ばされる瞬間にフォルネウスと目が合った、彼女は心配そうな、怒ったような顔をしていた。

「『豪海荒波ランブリングマリーン』」


「ッ!」


フォルネウスの背後から水が波のように押し寄せてきた。それに飲まれたガガギズは身動きが取れてない。加勢するなら今だ!と思ったが水が部屋を満たす勢いで増え続ける。

このままじゃ全員溺れる!ええと、使えそうな魔術は… 『ウィンズ』だ!だけどそれだけじゃ足りない。なら『ファイア』との合わせ技で…

「『バーニングウィンズ』!」


自分の周りに突風を発生させその外側に高熱で水を蒸発させる。水が火を消さないように『ウィンズ』で3cmほど水を浮かせる。これで簡易的だけどエアバブルができる。早くマッカーティさんたちの遠路に行——

「ぬぁ!」


ガガギズが壁に打ち付けられてる!?

「貴様… 只者ではないな」


ガガギズの目線の先にはフォルネウスが水の中のはずなのに歩いていた。

「フォルネウス!一旦水を抜いてくれ!じゃないとみんなが…」


「…ああ、分かった」


水が段々と割れたガラスから出ていった。そうか、水で満たされてたんじゃなくて、満たされたと錯覚するほどの勢いと量で水を出し続けてたのか。じゃあ下ではきっとパニックになってるだろうなぁ…

「何故水を抜いた? あの中では貴様の方は有利だっただろうに」


「わちはフォルネに従っただけじゃ」


「…お前らは主従関係にあるのか?意外だな…」


「ん?わちは誰の手下じゃないぞ?ただフォルネとは友達じゃからな」


「… ふっ、そうであったか… 結局は… 自国の復権など夢のまた夢であったか…」


ガガギズは酷く消耗している、『獣人化ズヴェエル』も半分解けかけている。

「殺せ」


驚いた。まさかガガギズの口からそんな言葉が出るなんて思ってもいなかった。

「吾輩は負けた… お主らも… 吾輩を殺しにきたのだろう?早くしてくれ… 戦士として、族長として… この時間は耐え難い」


これが戦士の、ガガギズのケジメか。

「少し質問に答えてくれ」


「…息のあるうちなら」


クーフーリンさんが横腹を押さえながら歩いてきた。服もいつもの黒に戻っている。

「何故魔王を復活させたい?アレはお前らをも破滅に導くものだろ。お前ら自国の民を犠牲にして魔王を復活させる理由はなんなんだ?」


「さっきから… なんの話をしている…?」


「とぼけんな!お前らは魔王復活のために動いてるのだろう?」


「吾輩らは… グレナドの… 国権復帰と… 人権の取得のために…戦っている」


「嘘をつくな!話は大体掴んでんだよ、いいから言え!」


ガガギズは嘘をついていない。彼は本当にそれを目的に動いていた。確証はない、けど彼の言動と精神から、彼は嘘をついていないとわかる。

「クーフーリンさん、彼は嘘を言っていない」


「はぁ!?何言ってんだお前!」


「彼は根っからの武士道を身に宿してます。それはこれまでの戦いを振り返ればわかります」


「… 一理あるな」


「『ヒール』」


ガガギズに回復魔術を施す。

「ガガギズさん、協力してください」


「吾輩は貴様らを信用できん… だが、フォルネよ、貴殿なら信じてみよう。国王は本当に魔王復活を企んでおられるのか?」


「ええ、こちらでも魔王復活に兆候が見られました」


「そうか… 貴殿に従おう」


するとガガギズは片足をつき僕に跪いた。

「熊族現族長ガガギズ・バームヘッド、只今よりフォルネ殿に一生の忠誠をここに誓う」


「え?ええ?えええええ!?」


「貴殿のその男気、勇敢さ、そして心の広さに吾輩は胸を打たれました」


突然、僕には家臣ができた。とりあえずガガギズさんには表をあげてもらい、今外で起きてる戦いを終わらせに行くことにした。広場に出ると両者一歩も譲らない戦いだった。

「皆の者ォォォ!!!手を止めよォォォ!!!」


一斉に両者共々攻撃の手が止まった。目線は全て僕達にいくのが伝わる。

「吾輩はフォルネ殿に負けたッ!!そして、家臣となったッ!!」


ざわつく場。無理もない、急に自分らの大将、或いは敵将がひょっとでの子供の家臣と言い出したのだから。

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