第19話:敵か味方か
戦闘は終わってから約1時間半経過したと聞かされた。200人いた遠征隊も124人までに減った、死者のほとんどが経験の浅い兵士か魔道院生らしい。
「いやぁ、災難でしたねぇ。ぼかぁ無傷なんスけどね」
「伊達にあの魔海を生きて帰って来たわけじゃないですね」
今は洞窟の最奥で医療班が傷の手当てをしてくれてる。アラヒサくんは重症で今は寝込んでるらしい。僕の場合殴られたりしただけだから軽傷で済んだけど、四肢がなかったり視力を失ってたりと戦士としては死んだ人間も少なくない。
「で、なんでフォルネウスは復活できたの?」
「んー…?なんでじゃろうな?」
聞けばフォルネウスは一種の魔力枯渇状態によるスリープモードに入ったらしい。バルバトスに閉じ込められてた檻には魔力を遮断し、対象からも魔力を燃やす作用があったとフォルネウスは語る。でも悪魔の魔力は人間の数百倍、それを一気に削り切る魔術も魔術だが、とても一ヶ月で取り戻せるとは思わない。強いて考えられるのは…
「龍の墓場…」
「龍の墓場?確かに龍の骨がわんさかある場所なら説明がつくのぉ…」
あとは雪だ。あれは多少なり魔力を含んでいたのが確認されてた。そういうのもあって急速に回復したのか。
「おう、フォルネ!ちょっといいか?」
「ガゼロ大隊長!?」
「大隊長は肩っ苦しからやめてくれ、さん付けでいいぜ」
「じゃあガゼロさん、どういったご用件で?」
「実は怪我人や辞退者をラースに帰還するってぇ話になった。だからこうして聞き回ってんだ、どうする?ラースに帰るか?それとも残るか?」
「…僕は、他の人に比べて軽症ですしまだまだ心は折れてません。どうかご同行をお許しください」
「ハハハ!んな畏まらなくてもいいだぜ!じゃあ決定だな。そういやそっちのガキ、出発ん時に居なかったろ?」
ガキ、フォルネウスの事だな。さぁてどう誤魔化したものか。
「わちは!ガキじゃないッ!!」
「そうかいそうかい、これは失礼しましたマドモアゼル」
なぜかフォルネウスが誇らしげに顔をあげた。ガゼロさんはフォルネウスのことは聞かず、別のことで頭がいっぱいに見える。
「まぁそこんとこの事情は知らなくていいかな。1番気になるのは… おいテメェ、誰だ?」
一瞬誰に喋ってるか分からなかった、が目線の先にいたのはイアソンだった。どういう事?
「なーに言ってんスカァ、ぼくですよぼく!」
ガゼロさんは抜刀しそれをイアソンの首元に近づけた。イアソンは怯えながら手を上げた、いやどこか自信に満ちた目だ。
「あんまコケにしてくれんなよ?こう見えてオレは人の顔と名前は全部覚えてるんでな…」
「ありゃりゃ… これは困ったスネ…」
「さっさと答えろッ!!テメェは誰だッ!」
「そんな事よりも、この鎧の落ち主のことは気にならないんスカ?」
「!!二人はどうした?ジャックとイヴだよ!テメェのその鎧の主!あいつらの顔を見かけねぇと思ってたんだ… おいどうした!答えろ!」
「殺した…」
次の瞬間、ガゼロさんが大振りで首を狙いに行ったが、鉄と鉄のぶつかる鋭い音が鳴った。あの一瞬でイアソンは抜刀して、首に降りかかる剣を受け止めた。
「ダメじゃないッスカァ、そこはちゃんと刺さないと」
「只者じゃあねぇな」
力の押し合いで剣同士がジリジリと鳴く。負傷兵も関係なくその光景にただただ呆然と観ている。そこに遠くから火の玉が飛んできて、それを察知したガゼロさんは当たる前に宙を舞い距離を取った。なんとこの魔術を使ったのはメディアさんだった、しかも魔法の杖を持っている。
魔法の杖とは、本来魔法の軌道に必要な魔法陣をクリスタルに保存しておき、魔術のように少ない時間で発動できる代物。あれは六龍の騎士しか持てないはず…
「とりあえず、ぼくらはここでおいたまッス」
メディアさんが浮遊しながらイアソンに近づく。
「テメェ…」
イアソンは紙と鍵をガゼロさんに投げた。
「ラース・セントラル3丁目にある宿の302号室にいるッス。大丈夫ッス、ちゃんと生きてるはずッス」
「…敵ではないのか?」
「さぁ?ぼかぁ誰の味方でもなく敵でもない、けど同時にみんなの味方でみんなの敵、そんなとこッス」
するとこっちを向いた。
「またいつか会いましょ!今度はいつになるやら分からないッスけどね。じゃあメディアさん、転移魔法を」
跡形もなく消えてった。あれは高難易度の魔法だ、それを補助演唱もなく…
ガゼロさんは剣を鞘に納め深呼吸をした後に作戦本部(仮)のあるテントまで歩いて行った。
後ろから突然誰かが抱きついて来た、それはペルナドくんだった。
「…」
「どうしたの?」
「…死んだと思った…」
あーそりゃ、あんな倒れ方したら勘違いされるか。
「僕は大丈夫だよ、ほら」
「…ほんとに?」
「本当だ!ちょっと疲れちゃっただけだよ」
「うぐっ… うぅ… うえーん!よがっだよ〜」
あらら、泣いちゃった。
「なんじゃこやつ、亜人のくせに泣き虫じゃの」
「こらフォルネウス、そんなこと言わない」
「ちぇ、お主はわちの母かっ」
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