第20話:進行
「とりあえずイアソン・パスファインダーの事は置いておくとして、これからの方針が決まった。食料は予定通り、帰りの分を除いてあと2週間分残ってる。裏を返すと、残り2週間で魔王復活を阻止しなければならない」
結構シビアなスケジュールだ。先の戦闘で兵士も体力も士気低下しているというのに。
「斥候兵が襲撃して来た亜人の根城を発見した、場所はここから3kmのとこだ。今晩そこに夜襲をかける」
奇襲だと?絶対無理だ。
「敵は、オレらがここにいる事を知らない、少なくともグレナドにいる奴らはな。確証は奴らの性格だ。ペルナド王子曰く、熊族はまず自分の利益を考える、だから上への報告は全部片付いてからのはずだと、そして明日には再度攻撃してくると。今が絶好なんだ、増援の来ない今が」
もしそれが本当だとしてもこの状態での奇襲は成功率が低い。
僕らはその後、詳細な戦略を伝えられた。まず揺動隊が正面から相手を威嚇し、その隙に少数精鋭で死角から入る。根城と言っていたが、それ相応のデカさを有している元城で今は防衛を担う要塞らしい。今回の作戦で選抜された少数精鋭はクーフーリンさん、マッカーティさん、ジィルキさん、ガリレオさんそして僕だ。僕はクーフーリンさんの推薦らしい。この5人で中に入り熊族の長を殺す。今更殺すことに躊躇いはないが、それでも気が引ける。思えばラース襲撃の日も…
「ラース襲撃…」
「どうした、今更怖気付いたか」
「クーフーリンさん!ラース襲撃時の亜人を覚えていますか!?」
「急にどうした?そんなの… いやまさか」
「ええそうなんです、あの場にいた亜人は存在しない亜人なんです!!」
そう、以前ペルナドくんから聞いた話では亜人は4氏族しかいないと聞かされていた、亜人国は熊族、虎族、鳥族、獅子族で構成されておりそれ以外の亜人はいない。だがあの場にいたのは豚や牛に似た亜人だ。
「存在しない亜人だぁ?んなもんいちいち気にしてたらキリがねぇだろ」
「ガゼロさんは分かってない、もし家畜や他の動物をさせることができるのなら、敵の戦力は大幅に上がる!作戦遂行が難航します!」
奴らの戦力はそこまでではないものの、数があれば十分脅威になる。
「噂程度ですが、以前4氏族長がそのような話しているのを耳にしたことがあります。ですが夢見話だと最終的に断念されたはずです、それが実現したとなれば…」
「うーん… だからと言って今出来ることは限られる、計画通り作戦を実行する」
ガゼロさんに直談判しても結局はこれだ。仕方ない、大隊長命令だ、僕らはガゼロさんに従わなければならない。とりあえずアーシャさんに聞きたいことがある。
「え?なんで『忘却国家』なのかって?うーん… わたしも確かなことは知らないけど」
「なんでも良いんです、噂話でも推測でも」
「うーん… 以前、わたしの友人の歴史オタクから聞いた話、といっても彼の憶測が大部分だけど、それでも良いか?」
「構いません」
「じゃあ… 昔あった大亜帝との戦争で勇者一行は魔王を封印することに成功した、彼らの憶測では数百年で魔王を完全に殺せるだろうと踏んでいた。だが蓋を開ければ、この魔術は封印された者の名が完全に忘れられた時にやっと殺せるというものだった」
「つまり裏を返せば、一人でも覚えてたら殺せない…ですか」
「うん。これを知った勇者一行は大陸に広まっている亜人と魔王の存在を消そうとした、だがそんなものは完全に消せるはずもなく、中途半端にしか消せなかった」
「だから図書館にある亜人の資料は少なく、魔王について書かれているのも英雄詩しかないのですね」
「そうだ、それで忘却国家についてだが… すまないがわたしも知らない」
「いえいえ、大変役に立ちます、ありがとうございます」
特に新しい情報はなかった。恐怖から復活することは前にクーフーリンさんから聞いたし、結局は僕の推測通りだった。
「出発だ!」
おっと、もうそんな時間か。
「フォルネくん!」
「アラヒサくん!もう動いて大丈夫なの?」
「あぁ心配無用だ。それよりあのマッカーティという男… 気をつけたほうがいい」
「なんで?君を安地まで送ってくれた人でしょう?」
「あぁそうなのだが… いやいい、忘れてくれ。今から出発なのだろう?ワタシたちは同行できないからせめて一言をと思ってな。ご武運を」
「うん、行ってくるよ」
立ち去ろうとした時僕を呼び止める声がした。振り向くとそこにはガレスくんがいた。
「あー、そのなんだ… まだ2回戦目やってねぇんだから死ぬんじゃねぇぞ」
「うん、そのつもりだよ」
「じゃあ…」
「ちなみになんで服穴だらけなの?」
「これは… 色々あったんだよ!んな事よりさっさと行きやがれ!」
アラヒサくん達と別れ、僕たちは日の日の入りと共に出た。この時間帯の外は意外と寒い。厚着をして皆黙々と森を進んでいく、目指すは敵の根城。
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