第14話:イアソン

結局昨晩は一睡もできず日の出を迎えた。身体がグッタリとしてきて歩きずらい。

「どーしたの?げっそりしてるわよ?」


「ミランダさん…」


「本当にどーしたの?悪夢でも見た?」


言える訳ない!!昨日お姉さんと口論してたところを盗み聞きしてたなんて言える訳ない!とりあえずここは…

「いやぁ、ちょっと体力が回復しきれてないみたいで…」


「そーなの?じゃあ私が楽にしてあげる」


そう言うとミランダさんは両手の人差し指と中指をくっつけてバツ印を作り僕の胸に当てた。

治癒リゲイン


身体が楽になった。これは一種の手印魔術だ、今より前の時代で主流だった魔術動作方法。今でも使ってる人がいるのは知ってたけど、ミランダさんも使えるなんて…

「どう?大した魔術じゃないけど」


「うん、とても楽になった。ありがとう、ミランダさん!」


「ふふ、それはよかった」


「手印魔術なんてどこで覚えたの?もう後継は途絶えたと思ってた」


「私の家系が手印魔術の祖なの。まぁとっくの昔の話だけど」


そんなこんなしているうちに隊が出発の準備を始めた。ミランダさんはどっか、多分お姉さんのところに行き僕はテントを片付けた。

「すみませーん!こっちにぼくのお手拭き、飛んでこなかったッスカぁ?」


糸目で目元まで伸ばした銀髪の男がやってきた。鎧を来ているので魔道士側の人間ではないのだろう。ちょうどさっき足元にお手拭きが飛んできたので多分これがこの人のだろう。

「これですか?」


「そーですそーです!いやーありがとうございますぅ。おや…?」


「な、なんですか?」


「君ぃ、もしかしてフォルネさんじゃないッスカ?まさか間近で見られるとはッ!いやーぼくも運がいいッスネェ!」


「えーと、どこで僕の事知ったんですか?」


「ほらほら、この前都市内で派手に戦ってたじゃないッスカ!あの時にぼくも近くに居たんですよぉ」


「あーあの時、で貴方のお名前をお聞きしても?」


「あーこりゃ失敬!ぼくぁイアソンって言います、今後ともお見知り置きを」


聞けばこの男は元船乗りでヨーロシア大陸との間で貿易や荷物の運送をしていたそうだ、つい最近入隊したばっかの新人と自称している。あそこの海域は海賊も多く危険と言われてるため、あそこを生きて帰ってきた者は猛者だと噂されてる。イアソンさんは別に強そうにも見えないが弱そうでもない。なんと言うか、あまり隙を見せない感じの男だ。

「いやぁね?ぼかぁこんな危険な任務、本当は嫌なんスヨ、でもぼくの奥さんが金稼ぎに行くぞー!って聞かなくて… あ、ちなみにこの人がぼくの奥さんのメディアッス」


紹介されたのはいわゆる美魔女。歳はイアソン同様30はと言ってるがメディアさんはどっからどう見ても20代半ばの容姿だった。

「ところでフォルネさん、あの魔術はなんなんでスカ?ほら何もないとこから槍を出したあれッスヨ」


「あー、あれは亜空間貯蔵ポケットディメンションです。虚数空間より劣る魔術ですが」


「そーなんスネ!いやーかっこよかったッスヨー、こうブォォン!スッ!シュパァ!って感じで!」


「そ、そうですか… ありがとうございます」


「ぼくも魔術が使えたらなぁ… あれ?あそこにいるの、あなたの知人さんでは?」


「え?本当だ!ミランダさんと…誰だろう」


遠くでミランダさんと女性が口喧嘩してるのが見えた。内容的に多分お姉さんだろう。

「私は帰らない!」


「往生際が悪いよ!もう話はついてんだから、大人しく馬車に乗れ!」


うわぁ、周りに人集りができてきてる、ちょっとミランダさん達の中に割って入んないと。

イアソンさんとはそこで別れて僕はミランダさんのところに向かった。

「ミランダさん!ちょっと落ち着こう。ほら、人が見てる」


「フォルネは黙ってて!お姉ちゃんと決着付けるまでは引き下がれないッ!!」


見た目にもよらず力強く僕の手を振り払う。ちょうどそこにアラヒサくんとガレフくんが来た。人集りもどんどんと増えてく一方だ。

「アラヒサくん!そっち持って!」


「了解!」


僕とアラヒサくんでミランダさんの両腕を封じたが予想以上に暴れ回る彼女の拳がアラヒサくんを一発KOした。ガレフくんはミランダさんのお姉さんを宥めてる。義弟だからか、素直に聞いてもらえたっぽく、引き下がってくれた。ミランダさんは相変わらず駄々こねる子供みたいになってる、この状態を維持するのが精一杯だった。

「おいおい、何騒いでやがる!早く支度をしないか!」


「ガ、ガゼロ大隊長…!」


騒ぎを聞きつけて来たガゼロ大隊長に叱られ全員支度をしに散っていった。やれやれという顔でガゼロ大隊長も帰っていった。数分もしたら皆の用意はでき、いつでも出発できる状態になった。これから1週間かけて魔王が封印されている洞窟へと向かう。


(忘却国家グレナド 王都アイルーズ・フェロンにて)

廊下を歩く四人の亜人、一人は虎の如く,一人は鳥の如く,一人は熊の如く,一人は獅子の如く。各々の一方向に歩き目の前のドアを開ける。

「族長を連れて参りました」

虎の亜人は言った。

「ご苦労」

王座に鎮座する虎は一言そう言い放った。

「今日招集したのは他でもない大亜帝国復活についてだ」

族長と呼ばれる者たちは膝を突き聞いている。

「我が弟が裏切りを企てていた、捕えることはできたが甥と少数の民を捕らえ損ねた。従来の計画には何ら支障はないが、人間どもがこちらへ遠征しているとの噂もある。万が一の保険として獅子族と熊族で南に防衛戦を築いてもらう、他の者は充分な警戒体制の中計画を進めてもらう」


「御意」

一通り言い終えると族長たちは一斉に声を上げた。

「解散だ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る