北部遠征

第13話:旅の出会い

「待って!待ってくれないか!ボクたちは避難民だ!」

小さな亜人は言った。亜人と言っても人間と大して変わらない、獣耳と尻尾があるかどうかだ。

「そちらの兵の武器を下ろしてくれるならこちらも応じよう」


「貴様の目は節穴か?こちらには兵が10人も居ない、そちらには200は居るでないか」


「…分かった。オレらが武器を下ろす、だからあなた方もそうしてくれ」


互いに徐々に武器を下ろしていった。どちらも疑心暗鬼になっている。

「あなた方はどういった理由でここにいる」


「ボクらはグレナドから逃げてきた市民です。どうか信じてください!」


「あなたのその服装、王家の衣だ。王家の亜人が何をしに来ている」


「だからボクらは…!」


これはダメだ。どちらも疑心暗鬼ゲージがマックスだ。ここは一旦…

「まぁまぁ大隊長さん、ここは一旦話を聞きましょう?ほら向こうもお腹が空いているようですし、そろそろ夕飯の支度をしましょう」


「…それもそうだな。よし、ここにキャンプ地を設営する!荷台から物資を運び出せ、話は飯の後だ!」


これで何とか場は丸くおさまった。1時間もするとあたり一帯にテントが立ち並び焚き火の準備もできていた。地平線の向こう側はまだオレンジ色に光っている。

「あ、あの!」


振り返るとさっきの貴族風の亜人がいた。見た感じまだ幼い。

「さっきは助けてくださってありがとうございました」


「いやいや良いですよ。それに敬語はよして下さい、王家の人なら僕なんかより地位が高いはずです」


「そう…ですね。ボクはペルナド、あなたのお名前は?」


「僕はフォルネです」


「あのぉ、できれば敬語はよして下さい。お互い、同等に接しましょ?」


「それじゃお言葉に甘えて」


なんだか打ち解けた気がした。彼は色々と僕に教えてくれた、グレナドでの暮らしや文化を。一番驚いたのはペルナドくんは僕の一つ歳下だという事だ。それにしては幼く見えるが亜人と人間ではそういう部分が違うのだろう。

「私たちと一緒に食べない?」


ミランダさんも仲良くなろうと努力してくれてる、これでペルナドくんも少しは楽しんでくれると嬉しい。そういえば同い年ぐらいの子は見かけない、避難民はみんな大人だ。

「気づいたか、フォルネ」


いつのまにか隣で夕飯を食べてるクーフーリンさんに驚きを隠せない。

「ガキの世代が異常に少ない、変だと思わないか?」


「確かに不思議ですね、大人の世代なら分かりますけど子供が少ないのはなんででしょう」


赤ちゃんや大人そして老人の世代ばかりで不思議だ。どうして…

「そろそろ宜しいかな?」


大隊長が寄ってきた。ペルナドくんの事だろう、予告した通り夕飯後に話し合いに来たのだろう。

「ええ、まずは自己紹介から。ボクはペルナド・グガンダ、グレナド王国の第一王子です」


「オレ… 私はガゼロ・ホーンソン、北部遠征大隊の大隊長です。ではなぜグレナドから逃げてきたかお伺いしても?」


「皆さんもご存知の通り今北地は魔王復活の儀式を行なっております。まず大前提としてですが、魔王復活には主に三つの重要なファクターがあります。一つ、人々の恐怖。一つ、適切な魔力濃度。一つ、生贄。人々の恐怖を沸きただせるため過激派はそちらに軍を派遣しました、そして魔力濃度に関しては10年前から急激に上がっています。最後に生贄ですが… 過激派は亜人を生贄にしようとしています」


「だからここには子供の世代がいないのですね。でもなぜ子供なんです?」


「魂の重さが違う、或いは魔力的な要因とも言われていますが詳細は判明していません」


長い沈黙が続いた。最初にそれを割ったのはペルナドくんだった。

「どうかあの子達を助けて下さい!ボクたちは魔王復活には関与していないんです、彼らも過激派の被害者、あなた方は魔王復活を阻止しにきたのでしょう?ならどうか… どうかあの子達を助けて下さい!」


「言われなくても、私らはそのためにいる。救出作戦と制圧作戦を同時進行で行う、市民の方はマララキ隊に任せて先にラース・セントラルに帰還させます。誰か道案内のできる者を一人留まってくれれば、あとは私らでなんとかします」


即答だった、それに誇らしげに胸を張って言った。

「ならボクが行きます!」


「ペルナド様!」


「収容施設なら他の者に頼めますが、過激派の所在である城の内部はボクがよく知っています。ガランシも分かっていますでしょ?」


「… ならこのガランシ、地の果てまでお供します」


今日はそこで解散し各々自分のテントに入り寝た。テントは2人用で僕とアラヒサくんが同じテントだった。僕はあんまり寝れずボーッとしていた。外から声が聞こえてきたので悪いと思いながらも耳を澄ませた。

「あんた、お母様にはなんて言って出てきたの」


「それは… なにも…」


「はぁー… その様子じゃ魔道院には来た事も知らなさそうね」


一人はミランダさんって事は分かったけどもう一人は誰だろう?

「明日マララキ隊がラースに帰還する、それについて行きなさい」


「なんで!?私は戦える!」


「バカ言うな!あんた、どれだけこの遠征が危険か知ってて言ってんの?あんたみたいなひよっこが居ていいような場所じゃないのよ!」


「危ないのはみんな一緒でしょ!?私だけ安全圏って訳にはいかないのよ」


「明日マララキに言って連れてってもらう、何がなんでもね」


「おねぇちゃんはいっつもそうやって私を置き去りにして行く。なんで、なんでぇもっと話してくれないの…?私は家族よ?なんであの日…家を出たの?もっと…話してよ…」


「あたしにはやる事がある。分かってもらおうなんて思ってないから」


「そうやって毎回逃げて!!卑怯者ォ!!」


うーん、寝れないなぁ…

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る