第12話:北地忘却国家グレナド

「お父上!魔王が復活なされとは本当でございますか!?」

小さな亜人は言った。

「ああ、本当だ」

燃え盛る城が後ろに見える。

「なら… 早く逃げなければ!魔王の復活には10万の命が必要と記されていました… それにもしまたあの怪物が暴れでもしたら… 今度こそ北地は壊滅します!」


「ああ、そうだ。ペルナドはちゃんと勉学に励んでいて偉いな… だからどうかお前だけはこの地を出てくれ」


「そんな… お父上も逃げましょう!」


「ダメなんだ… 私には鎖が繋がっている。それは古来より王のみに課された罰と罪の証だ、これによって私は北地を出れない」


「そんな…」


「だからどうか… どうかお前だけは逃げてくれ!!南に行けばいずれ人の都市に出るだろう、そしたら… 匿ってもらいなさい」


「でもぼくらは人と分かり合えないって…」


「大丈夫だ、お前ならきっと人と亜人の架け橋になってくれよう」


「嫌です!お父上を置いて逃げるなんて…!」


「すまない、息子よ… アドレグ、息子を… ペルナドを頼んだ…!」


「待って!嫌だ!お父上!お父上ぇ!!」


ラース・セントラルを出て3日になる。僕の隊にはミランダさん、アラヒサくんそしてガレフくんが居る。それとアーシャさんという魔道騎士も僕らの隊に配属された。移動中の馬車で何度かガレフくんに戦闘をふっかけられそうになったが、その度にアラヒサくんかジョバニール隊長、僕らの所属する隊の隊長、が間に入った。北部への道は意外にも整備されており所々村や前哨基地が点在していた。僕たちは総勢200人、一班10人構成だ。一班に必ず一人は魔道士が同行する形だ。

「ほんと長閑だな」

不意にガレフくんが言った。

「そう言えばガレフくんってどこ出身なの?」


「あぁん?んなこったぁどーでも良いだろ」

やっぱり言わないか。僕が何か言うといつも不機嫌そうに返事する、なんか悪いことしたかな?

「ガレフは私と同じマミヤで育ったのよ」


「ばっ…何で言うんだよ!」


「あら?別に良いじゃない?」

ミランダさんが知っていることに驚いた。

「何で知ってるの?」


「なんでって… そりゃあね。私の命の恩人だからよ」

ガレフが照れくさそうに怒った。

「私の家は元々落ちこぼれの貴族だったの。父が統治していた村は貧乏で村人は父に対して強い憎悪をぶつけてたの。それである日家が襲撃されて私は家族とバラバラになったの。私は運悪く敵に見つかってもうダメだって思った時、ガレフが助けに来てくれたの。ガレフはその時、父が雇っていた傭兵部隊の一員だった。それでマミヤまで逃げて今まで過ごしてきた」

そんな事情があったのか。って事はミランダさんは元貴族のお嬢様って事?

「あん時はただ組織のために働いてただけだよ、特に思入れがあるわけでもねー。あくまで依頼人と仕事人の関係、だったはずなんだが…」


「お父さんがガレフを養子に迎えたの」


「あくまで護衛役として、な」

そうだったのか。こんなに大きな事とは思わずにいてしまった自分が少し恥ずかしい。

「魔道士、もうすぐで北部の地に入る、レーダーの準備を頼む」

ジョバニール隊長が馬で馬車に近づき報告した。レーダー、魔力探知魔術は半径10m以内に居る全ての生き物を把握できる。これを用いて接敵する前に敵を見つける作戦だ。特に北部は大地が荒れていて視覚ができやすい。

「何かあったら逐一報告してくれ、全てが命取りだ」


「はい!」

最初は特に異常もなしに進めた。だが10分ほど進んだ所に大きな反応があった。

「あー反応の正体はあれだな」


指の先には大きな竜の骨は横たわっていた。魔力探知魔術は魔力を帯びていれば全て反応する、だから微小な魔力なら弾かれる仕組みになっている。それでも反応したこの骨… 一体どれほどの魔力を帯びているのだろうか。

「先に進むぞ、あの近くに長居したら病にかかる。特に俺らのような一般人には有毒だ」


ここら一帯は強大な骨が散乱している、大概は雪に埋もれているがごく稀に剥き出しのがある。そういうのは分かりやすく迂回できるが、埋もれてる骨は魔力探知のみでしか発見できない。だから慎重に進行していくので目的地までは長旅だ。

「あれ?そう言えば私たちってどこ目指して歩いてるんだっけ?」


「数千年前に栄えた亜人の国よ」

アーシャさんが答えた。

「その国は数千年前、世界で随一の魔学を誇っていた、そして魔王を産んだ国」


「今からそこに行くんですか…?少し危険では?」


「確かに危険だけど、魔王復活を目論む輩がいるとしたらそこよ」


「国の名前はあるんですか?」


「今はこうして記録されてるはず、『忘却国家グレナド』と」


忘却国家…?どういう意味があるんだろう。

「接敵!」


軍の最前列からその声が響いた。兵は皆馬車から降りて戦闘対戦に入った。僕ら第二遊撃隊であることから最前列に近く、接敵時は真っ先に前に行くことになっている。向かった先にいたのは複数の市民と思われる亜人と数人の鎧を纏った亜人、そして貴族風の格好をした亜人だった。

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