第11話:北部遠征大隊

今日はエンランド魔道院で魔道生から魔道騎士まで全ての人が集められた。どうやらマラクス大魔道騎士から何か重大な話があるらしい。

「まずは諸君、今日は集まってくれてありがとう。今日は皆に重大な話をしなくてはならない、それはワシらが長年隠してきた秘密じゃ」

マラクス大魔道騎士の話に皆じっと耳を澄ませながら聴いている。

「北地で魔王復活の兆しがあった」

会場がざわめく、信じられない声や動揺を隠せない声、中には絶望する者もいた。僕は田舎育ちだから分からなかったが魔王復活は相当ヤバいものらしい。

「発見当時はまだ封印の5%も解けていない状態であったが、日を重ねるごとにその数値は増え続け今では67%と言う結果じゃ。これらの原因は北地に住う魔王を崇拝する種族、亜人系によって引き起こされたと見ておる。それで我々は魔王復活を目論む者を殲滅しに向かう、今日はそれの選別じゃ。無論、無理にとは言わない、志願したいものだけが前に出てくれ」

さっきまでざわついていた会場も静まり返った。魔道騎士達は迷いなく歩き出しマラクス大魔道騎士の後ろに整列した、そこには勿論クーフーリンさんも居た。彼らの顔は覚悟の決まった顔、なににも恐れていない顔だった。だが僕らはどうだ?皆顔が暗かった。まだ制定限の戦闘力と魔学しか習っていないのに死ぬかもしれない戦いに出るのは気が引ける。


ミランダくんやフォルネくんはどうしているだろう?ミランダくんは…流石に無理そうだ。顔を見ればわかる、あれは恐怖の顔だ。まぁ無理は良くない、無理せず残ってくれ。それでフォルネくんは…流石と言うべきか、覚悟が決まっている。


フォルネ、お前はそうでなくちゃな。伊達にの弟子じゃないだろう?それにこの歳で二度も命のやり取りをしている、今更なんてことないだろう。


だめだ私… いっつも肝心な場面で楽な方を選んじゃう… そんな私はあの日卒業したはずなのに… どうして足が動いてくれないの!?私だって… 私だって…!


最初に足を踏み出したのは僕だった。棒立ちする人たちを通り抜けて真っ直ぐマラクス大魔道騎士の後ろに整列する魔道騎士の最後尾に行く。それを見た人達が一人また一人と歩き出した。そこにミランダさんとアラヒサくんの姿もあった。

「これで全員じゃろうか?残ったものは会場を退室してくれ」

心なしか、会場を出ていく人たちの顔は後悔に満ち溢れていた。

「では諸君、誠にありがとう」

マラクス大魔道騎士が振り向き頭を下げた。

「諸君らの健闘を祈る。北側ゲートにて国軍が待っておる、作戦概要はそこの指揮官から言い渡されるじゃろう」

マラクス大魔道騎士は行かないのか。確か数年前に大きな怪我を負って戦闘には参加できないって言ってた気がする。

エンランド魔道院を出ると街は英雄の凱旋かのような歓喜に包まれてた。それは北側ゲートまで続いた。

「フォルネくん!」


「ミランダさん!やっぱり君だけは残ってた方が…」


「いいや、私は魔道騎士志望者よ?これぐらいちゃんとしてないと」

さっき覚悟を決めたみたいだ。

「フォルネくん、ミランダくん」


「アラヒサくんなら絶対来てくれるって信じてたよ」


「ああ。ところでこれからの話なんだが、この作戦は正直ワタシら学徒にはまだ早すぎる気がするんだ。だから…」


「分かってる。何かあったら迷わず逃げる、でしょ?」


「ああ、命の危険がある以上これは絶対覚えておくべきだろう。参考書にも書かれているぐらいだからな」

そう、初日に配られた魔道騎士の概要や目標などが記載されたテキストブック。ここの最重要項目として『作戦行動中、自身の部隊が何らかの理由で戦闘続行不能或いは行動不能になった際、速やかに撤退せよ』とある。これは古くからの教えらしく、昔は魔道騎士は存在せず魔の使える戦闘員は少数だった。それが理由で、貴重な戦力温存のため危険な状況下に置かれた場合速やかに逃げる教えができた。今となっては要らない教えとなったがまだ学生の間はこれが最重要項目となっている。

ゲートと街の間には大きな軍の駐屯地がある。大体家5つ分の長さで広さは軍に必要な全てを兼ね揃えるだけの広さを有している。馬小屋、宿舎、検問所、倉庫、地下牢獄、訓練所と色々と揃っている場所、通称ゲートポストの前に白い鎧を纏った騎士達が居た。

「お、君たちが参加者か」

青いケープを付けた男が近づいてきた。やたらと僕の顔をジロジロと見てくる。

「う〜ん、いい顔だ!」


「え…?」


「何と言うか覚悟の決まった顔というか… 視線をくぐり抜けてきた顔というか… まぁとりあえずそんな感じだ!」

何だこのやたらと元気のいいおっさんは。

「おいガゼロ、さっさと作戦内容を説明しろ」

クーフーリンさんが来てくれたおかげでこのおっさん、ガゼロ、が引いてくれた。

「悪い悪い、そう言えばそうだったな」

ガゼロという男は後ろ下がりこう言った。

「オレはガゼロ、此度の北部遠征大隊の大隊長に任命された。これから君たち魔道士達にはオレが考案した隊に入ってもらう。この隊の大部分は魔の使えない一般兵士で構成されている。君たちの任務は北部にいる脅威を退けること、オレら一般兵はそれを全力でサポートすることだ。これにて以上だ、隊分けはその隊長達が直々にスカウトしてくる」

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