第15話:北地、到達
荒れた大地を3日ほど歩くと風景はガラッと変わり、あたり一帯が雪で覆われてた。この事については以前村の図書館で読んだことがある。荒れた大地は「龍の墓場」と言われていて、ここは何故か気候に左右されない。本当ならラースを出て2週間のところから雪が降る地域になるはずだがここだけ乾燥している。龍の呪いだがなんだが言われているが詳細は不明らしい。そんな地域を抜けやっと木や自然のある雪地へやってきた。こっからは本格的に亜人領なので慎重に行かなければならない。ちなみに馬車は雪の中走行不可能になったため乗り捨てて荷物を背負う事になった。
「今日は吹雪が強い…」
ペルナドくんが言った。
「そうなの?本ではこんなもんだと書かれてたけど」
「まずいよこれ、早めに洞窟やら見つけないと…」
「寒さにやられて死んじゃう、だよね?北に行くにつれて寒さの殺傷力は高まるって本に書いてあった」
「ええ、その通りです。ちょっとボク、大隊長さんに言ってきます」
僕たちのいる場所から先頭はそう遠くないのでペルナドくんの側近だけを護衛につかせて向かわせた。ペルナドくんが僕らと同じ班にいるのは大隊長さんが仲のいい僕らを見てそう決めたからだ、なるべく親しい者といた方は安心するだろうとのことだ。
「でもまずいですよね、今の状況」
「そうね」
アーシャさんが答えた。
「この吹雪、魔素が含まれてる。魔力探知が機能してない、いつ襲われてもおかしくないわ」
「当然そりゃ大隊長も知ってんだろうな?」
「流石にね、現に隊の進みが慎重になってる」
しばらくしてペルナドくんたちが帰ってきた。
「左側に山が見えたのでそちらに移動するそうです!皆さん、もう少しの辛抱ですよ!」
ペルナドくんが後方の人達に大声で伝えた。
「山があるからって運良く洞窟があるとは限らないんじゃ…?」
「そんなもん魔術やら魔法やらで何とかなるだろ」
15分ほど進んだとこで山の斜面に着いた。正直ずっと上り坂だったのでしんどかった。
「高さよし!ここに洞窟を掘るぞ。魔道院生、頼んだぞ!」
「俺一人で充分だ」
クーフーリンさんが前に出て拳を作った。なんかいつもと雰囲気が違う気がするけど、何だろう?
「遮音魔術を頼んだ、少し派手にやる」
遮音魔術をかけ終わったと同時にクーフーリンさんの拳から青いダガーの形をした光が生成され、勢いよくそれを山に向かって殴った。山は衝撃で削れてった。殴る前になんか言っていたが遮音魔術のせいで聞こえなかった。クーフーリンさんが遮音魔術をかけた生徒に目を合わせた、多分魔術を解けという合図だろう。
「こんなもんでいいか、ガゼロ」
「おう!みんな中に入れ!」
一通りの荷物は運び終え焚き火も焚き終えた。念の為カモフラージュ魔法をかけており、外からはこちら側を認識できないようにしてある。
「そろそろ作戦会議をするか」
そうやって開かれた作戦会議。参加者はペルナドくん,各隊の隊長と魔道騎士、情報漏洩を避けるべく洞窟をさらに掘り、何重もの結界と遮音魔術をかけた。僕らは当然この会議には参加できず外で待ってるだけだった。
「そういえばガレフくんはどんな魔術使うの?」
「あ?んなもん聞かなくていいだろ」
なかなか話してくれない。まぁ自分の得意魔術を教えるってことは手の内を教えるっていうこと。戦闘面では不利になる、そりゃ教えないだろうな〜。
因みに得意な魔術/魔法は魂の色形で変わる。僕の場合、空間魔術が得意だ。だからと言って他の魔術が使えないって事はないが、相反する魔術は威力が下がる。少し前に出た論文だと、魂に合った魔術/魔法は約2倍ほど威力が上がるがその魔術/魔法と相反する魔術/魔法の威力は半減する。これはつまり、水系統が得意な者は炎系統が苦手ということ。僕の空間魔術は闇系統に該当するらしい。だから僕は光系統である構築魔術は不得意になる。
「いやぁ〜、寒かったッスネ!」
「あれ?イアソンさん、メディアさんと一緒じゃないんですか?」
「少し疲れたらしく、もう寝てるッス。にしてもクーフーリンさんは凄いッスネ!一発でこんな洞窟を掘っちゃうんだから」
「そうですねえ、でもあの技、見たことない技でした。何でしょうあれ」
「おやや?魔の天才フォルネくんでも分からない魔術があるとは意外ッスネ」
「そういえばこの前船乗りをしていたと言ってましたよね?その話聞かせてください」
「あー、聴いてもつまんないッスヨ?あいやでも帝国軍に襲われた話ならありますッス」
「聞かせてください!」
(フォルネ一行の仮拠点より2km先にある防錆ラインにて)
「グラーダーのダンナァ!北地の入り口付近にて人間のものとみられる馬車を発見しますたー!」
丸い耳、丸い尻尾の人間、熊だ。
「そうか!いよいよだな!ガハハハ、我らが先に人間どもを殺すぞ!ジーング!集められるだけの戦闘員を連れて向かい撃つぞ!」
熊だからか、あるいは戦闘員だからか、彼らの身体は筋肉で覆われており鎧は最小限だった。武器は剣を使うものは少数派で主流は斧やハンマーだ。
「人間狩りだぁー!!首は100ゼル、内臓は350ゼル、荒稼ぎの時間だぁ!」
ゼルとはグレナドの通貨。彼ら亜人は肉なら同族以外食べる、つまり人間の肉は彼らの食糧であり通貨だ。この戦闘でどれほど稼げるかを競っている。そう、熊族にとって戦闘は狩りであり稼ぎ時だ。亜人が全てそうとは限らないが熊族は特に人間の肉に固執している。
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