第3話:デットヒート
とりあえず今日は寮に戻った。クーフーリンさんの申し出は一旦保留にしてもらっているけど、正直僕は魔道士コースを選びたい。僕には自分の夢を犠牲にしてまでも人類を救うなんてできない。
「身勝手すぎるよね…」
もし本当に魔王が復活したのなら僕は己を呪うだろう。でも僕一人いるかいないかで結末が変わるとは限らない。あぁ師匠、僕はどうしたら…
「あのー、ここフォルネ君の部屋であってますか?」
「ミランダさん?どうしたの?」
「夜ご飯まだ食べてないんじゃないかなと思って。よかったら!私と食べに行きませんか…?」
「あー確かにまだ夜は食べてなかった。うん、いいよ。ここら辺の土地勘ないけど、大丈夫?」
「大丈夫よ!今日の失敗から学んで寮母さんから地図もらったの」
「じゃあ安心だね、行こうか」
空はもう暗かった、街の明かりでちっとも夜とは思えない。僕にとってはこれも新鮮だ、村は夜になると真っ暗で外も安易に出歩けない。
「あそこが安くて美味しいって寮母さんが言ってたよ」
「マリーンズフィールドっか。魚料理が主流なのかな」
「そうみたいね」
中に入り空いてる席に座った、店内は客で賑わっていた。渡されたメニューを見る。
「へー結構種類あるんだね、このエビのシチューが気になるなぁ」
「私この新鮮刺身にしようかな」
店員さんを待っていると奥から騒ぎ声がした。どうやら喧嘩らしい。
「んだぁテメェ!謝りやがれ!」
「ビールをワタシの衣服にかけたのはそちらだ。謝りもしないようなので殴ったまでだ」
「生意気なんだよガキぃ!」
「『金風』」
怒りで暴走するおじさんがナイフを取り出した。ヤバいやつだこれ!どうする?助ける?と悩んでいた時、東洋風の顔立ちの男が席を立ち腰に掛けてた剣を抜いた。ヒュイっと綺麗な太刀筋でおじさんを切った。
「う、うわぁぁぁ!こ、こいつ人を斬りやがったぞ!」
「安心しろ、峰打ちだ」
男の言う通りおじさんからは血は一滴も溢れていなかった、服が少し切れただけだ。
「ワタシの名前はシマズ・アラヒサ、斬ったものには名乗るのが礼儀だ。では失礼する。そこの店員、飯代と謝礼のつもりだ、受け取ってくれ」
「え?こ、こんなに頂けません!」
「良いのだ、こんな素敵な店で戦闘をしてしまったせめてもの償いだ」
凄い技だった、見たことのない。でも一瞬だけ見えた、あの剣には刀身がない。多分魔術で風を生成してたんだろう。
「凄かったわね、あの技」
「うん、相当練習してきたんだろうね」
そうだ。本来魔道騎士になる者は彼みたいな才能溢れる人間違いない。僕が行っても良いところではないんだ。
「フォルネ君は本当に魔道士コースに進むの?」
「え?そのつもりだけど…」
「ならこの先会えなくなっちゃうね、お互い忙しくて… 初めてできた男友達だからあまり上手く言えないけど… なんか寂しくなるね」
「そうだね、でもたまには夜ご飯に誘うよ」
僕達は夜ご飯を食べ寮に戻った。ベッドに潜り今日言われたクーフーリンの提案を考えてみる。本当に僕は魔道騎士なっても良いのだろうか?才能のないものが行ってどうにかなるものなのか?
「本当に僕は…」
すると外から爆発音がした。窓から外を見るとあたり一体が燃えていた。
「なにが…」
巡回中の騎士がゾロゾロと集まってきて市民は逃げ惑っている。敵影は見えないし煙がひどくて外に出れそうにない。ふと目に入った、女の子が1人道の真ん中で泣いている。ちょうど騎士たちが見えない位置にいる、今にも建物が崩壊しそうだった。
「え?え?どうする、どうするフォルネ!」
いや考える時間はない。今すぐに助けに行く。窓を破って外に飛び出して女の子の所へ飛んでいった。
「大丈夫?今安全なところに…」
最悪だ、家の陰で見えてなかった。街には大量の亜人が徘徊していた。市民を切りつけながら歩き建物に火を放っている。
「大丈夫だよ、安心して」
一旦この子を騎士がいるところに預けてから亜人のいるとこに向かった。
「『
村を出る時に師匠からもらった槍。正直使う気はなかったけどやむを得ない。
僕は迷いなく亜人共に向かい殺した。一匹一匹丁寧に、確実に。大して強くない有象無象の雑兵だろう、きっと親玉がどこかに居る。
「そこの君!」
声をかけられたのは店にいた東洋風の男だった。
「君は魔道騎士か?」
「僕はただの魔道院生ですよ、貴方こそ魔道騎士じゃないんですか?」
「まだ魔道騎士ではない、ワタシも君と同じ魔道院生だ」
「そうですか。そんなこんな話してたら増援来ちゃいましたよ」
「仕方ない、とりあえずこの危機を脱するぞ」
敵はざっと50匹、僕は左を対処した。
「春三風『
ふと東洋風の男の方を向いた。あの攻撃は一直線に切り裂く斬撃、いや強風か。
「春二風『
範囲攻撃型か。よその観察はよそう。僕は僕の問題に対処しないと。
「『
これで大部分は片付いた、あとはあの堅物か。この小隊の親玉だろうな。
「そいつは君に任せた。僕にはそいつを対処しうる技はない、援護はするよ」
「うむ、承知した」
まずは僕が
「春奥義『
デカい一撃だ。だが流石に仕留め切れないな。注意がシマズに行った瞬間を狙って、本当は使いたくなかったけど、
「『
これは相手の魂を見定めてそこを突く技。魔力が大幅に持ってかれるし戻ってくるダメージもでかい。でもなんとか倒した。
「なにが『僕にはそいつを対処しうる技はない』だ、ちゃんとあるじゃないか」
「そうだね、ただ僕が使いたくなかっただけだ。嘘をついてごめん」
「別に良い、結果が全てだ。ワタシはシマズ・アラヒサだ」
「知ってるよ、昨晩店で名乗ってたろ?僕はフォルネ・ボイル」
「それで、この状況を俺に説明してくれるのか?フォルネ・ボイル、シマズ・アラヒサ」
「え、クーフーリンさん!?ってか遅いですよ。来るならもっと早くきてくださいよ」
「お前やっぱり俺の事舐めてるだろ… まぁいい、俺は魔道院の方で戦っていた、こっちに来る余裕などなかった」
「じゃやっぱり敵の本命は魔道院ですか」
「?察していたのか?」
「えぇまぁ。街のあちこちで火の手が見えましたのでもしかしたらこれは揺動で本命は魔道院じゃないのかなって」
「そうか、よくやってくれた。お前をスカウトした俺の目に狂いはなかったな」
「そのことなんですけど、僕魔道騎士になります」
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