第32話 『本名』

 遅れぎみで、ホント申し訳ありませんm(_ _)m


 ◆ ◆ ◆



『フフ……あなたの8る気に満ち溢れた顔、久し振りに見たわ。他の精霊を解放すれば、レンの呪いは解けるわ』


「話が早くて助かる。てかアンタ、迷宮にいたんじゃなかったのか?」


『私は水の精霊よ。水があるなら、どこでも顕現できるわ。そうね……エルフの森から海を越えて、東に向かえば“風の谷”があるわ。ここから一番近い精霊の住処すみかね』


 フム、貴重な情報だ。俺たちの住んでる地域は、ケベック領含むアンドロスという大きな島だ。生活は標準並みで、治安も一部を除いていいほうだ。


 アンドロスから東地方は、アケメネスという大きな大陸だ。天下(笑)の帝都サマのお台所で、現在も各地に勢力を拡大してると聞く。


「そこに乗り込むわけか。面白くなってきた」

「ちょっと、アレク……」


「ん? 何を勘違いしてるんだ、セレナ。別にドンパチしに行くわけじゃねぇ。俺たちの『邪魔』さえしなければ、大人しくしててやる(笑)」


『私もレンを通して、サポートするわ。けど、精霊の力は消耗が激しいから、使い所は慎重にね。私も早く、他の精霊に会いたいわ』


 精霊の声が消えると、レンは糸が切れたように落下した。俺は慌ててキャッチする。表情はだいぶ良くなったので、恐らく精霊が呪いの侵攻を抑えてるんだろう。



 ◇ ◇ ◇


 儀式の後、レンに特に異常はなかった。若干衰弱していたので、大事を取って一晩、バッツん家に泊めてもらうことにした。

 俺はベッドに横になったが、あれこれ考えてしまい寝付けなかった。


 呪い……それに神ねぇ。なんかキナ臭くなってきたな。大体、レンとどんな関係があるってんだ。俺は夜風に当たる為、外に出た。



 ◇ ◇ ◇


 夜の森は、静まり返っていた。こうして見ると、俺の地元より自然豊かだな。

 どこからともなく「おおぉん」という呻き声が聞こえてきたが、ありゃリラだ。まだ回復してないあたり、よほど兄貴の技がキマったか。


「アレク……? まだ起きてたの?」

「ん? セレナか」


 偶然か、ばったりとセレナと会った。


「ちょっと夜風に当たりたくなってな」

「奇遇ね、私もよ」


 しばしの沈黙。


「……本当は、俺に『話』があるんじゃないのか?」

「何故、そう思うの?」


 逆に訊き返すセレナ。分かりやすい反応リアクションだ。


以前まえから直々、セレナの態度が気になってな。何かを『隠してる』ように感じた。『仲間』の俺にも、打ち明けられないことか?」


 これを聞いたセレナは、目をしばたいた。


「……相変わらず、勘が鋭いのね。ええ、そろそろアレクに話そうと思ってたところよ。けど、その前に一つだけ聞かせて。どうしても大陸に渡るつもり?」


 セレナは真っ直ぐ、俺を見据えた。俺の『覚悟』を問い質してるようだ。


「もちろんだ。レンは俺の『全て』だ。セレナやリラも、それに次いで大切だ。レンの為なら、世界の裏側だって行くさ」


 一陣の風が舞った。セレナは小さく嘆息した。


「……止めてもムダみたいね。まぁアレクらしいけど。分かったわ……あなたに全てを打ち明ける。その前にあなたが行こうとしているアケメネス大陸は、今も帝都が隅々まで『侵略』を進めているわ。その『悪逆無道』さは、貴族連盟が『可愛く』見えるほどよ」


「随分、詳しいんだな?」


 俺にセレナは、「そうね」と自虐的に微笑んだ。


「帝都は切っても切れない縁……私の『本名』はセレナ・ディクス・アケメネス。元帝都の『皇女』で、今は棄てた家名よ」

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