第29話 『兄妹』

「お兄ちゃんあぁああああんっ!」

「レェエエエエエエエエんっ!」


「……………………」


 一ヶ月ぶりの我が家。俺とレンの『儀式』をセレナは、生暖かい目で見守った。


「レン、聞いてくれ! ついにレンの病が、完治するかもしれないんだ!」


「本当っ!? 嬉しいよ……お兄ちゃん。でも一番嬉しいのは、お兄ちゃんが無事に帰ってきたことだよ」


 レン……自分のことより、俺の心配をするとは。出来た妹で、俺は感無量だ。


「あなた達、本当に仲がいいのね。なんだか羨ましいわ」


「……? 俺たちは『いつも』こんな感じだぞ。てか、セレナ。ケベックを発つ前から様子が変だが、どうしたんだ?」


 俺にセレナは、微笑を浮かべた。


「心配してくれてありがとう。アレク、あなた変わったわね?」


 そうか? と返す俺にセレナは、「ええ」としっかり頷いた。


「以前のあなたは、“自分たち”以外に興味を示さなかったわ。けど、今は『他にも』目を向けている」

「そりゃセレナもリラも、大切な『仲間』だからな」


『裏切られる』のは、俺だけで十分だ。


「そう……私もあなたの言う『仲間』かしら?」


 俺は「当然だろ」と答えるも、セレナはどこか煮え切らなかった。


「お兄ちゃん……? 『リラ』って誰なのかな? かな?」

「え"…………?」


 レンが満面の笑みを浮かべて、ナタ準備スタンバイをしていた。


「名前の響きからして、“女の人”だよね? お兄ちゃんとどういう『関係』なのかなぁ?」


「いや……リラは俺の『一番弟子』でな? てかレン、狭い家で鉈の素振りは止めような。お兄ちゃん、怖くて寝れないから……」


 レンに事情を説明して、なんとか納得してもらった。その後、俺は避難しているエルフが気になって、様子を見にいくことにした。



 ◇ ◇ ◇


 エルフはギルドの『緊急保護』を受け、河川敷かせんじきの仮説テントで生活していた。


 お世辞にも環境がいいとは言えないが、エルフらは奴隷時代に比べたら『天国』だと、口をそろえていた。何より、表情に『生気』を取り戻した。元気そうで安心したわ。


 ギルドで『ランクアップ』を果たした俺は、一週間の休暇が認められた。レンとこんなに『穏やか』に過ごせるのは、シーカーになって以来初めてだ。


 俺たちはバッツらから『吉報』を待ち続け、ついに『その時』が来た。ギルドを通じてバッツら『反抗組織レジスタンス』が、故郷の奪還に成功した!


 思ったより、早かったな。そりゃカネの力でオラついてる『ド素人』が、バッツが鍛え上げた『精鋭部隊』に敵うわけがない。

 得意の『ゲリラ戦』で、貴族どもを血祭りに上げたか。ざまぁみろってな^^


 本当によくやった! この時が来るなんてな……レン。完治したら、お兄ちゃんが『広い世界』に連れていってやるからな!

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