第22話 『立派な才能』

「セレナ。エルフの引率、ご苦労だったな」


「別に大したことじゃないわ。依頼より、よほど『やり甲斐』があったもの」


 セレナは、わずか『一週間』で戻ってきた。常人なら『一ヶ月』かかるのに、流石だ。


「それよりアレク、これはどういう『状況』なのかしら?」


 セレナは眼下の光景を見て、小首を傾げた。


 広間では上半身裸の『健康』なエルフらが、訓練に励んでいた。筋トレや『射撃訓練』などバッツの号令下、きびきび動いている。


「ん? 『来るべき日オペレーション』に向けて、訓練中さ。そこら辺のシーカーより、よほど見込みがある。俺の元メンバーなら、半日で逃げ出してるな」


 長い奴隷生活の『反動』かもな。何より全員が、水を得た魚のように生き生きとしてた。


「そーいやセレナ、なんでお前が『秘術』について知ってたんだ? エルフに知り合いがいるってワケでもなさそうだし」


「それは……今は『詳しく』話せないわ。『情報通』がいるのよ……幹部クラスのね」


 セレナは、曖昧あいまいに言葉を濁した。俺はセレナのことをほとんど知らない。まぁその内、話す気になるだろ。


「あら? アレク、あれって……」


「やっと戻ってきたか。遅ぇぞ、リラ! 余裕で周回遅れだ!」


 俺は今にも4にそうなツラのリラに、発破を掛けた。鉄ゲタに重い荷物を背負ったリラは、その場にかがみ込んだ。


「なーにやっとんだ、リラ! 『逃げ切る』まで止まるなって、何度も言ったろ? 敵は『一瞬』たりとも、待ってはくれねぇぞ。だから、止まるんじゃねーぞ」


「そ……そー言われましても、もう限界ッス……」


 その場にバタンキューするリラに、俺は嘆息しながらポーションをぶっ掛けた。


「……うぷ!? ヒドいじゃないッスかぁ、お師匠!? 道中でも散々、魔物に追われるし……」


「荷物は絶対に手放すなよ。手放したら、見捨てるか『見捨てられる』かのどっちかだ」


『かつての俺』みたいにな……。


「うぅ……やっぱ私にはムリっす。打たれ強いしか取り柄がないし……」


「自分でムリだと思ったら、“そこまで”だ。誰もお前を止めたりしねぇ。『足手まとい』を増やしたくねぇしな。それに」


 俺は珍しく、真剣な口調で言った。


「打たれ強いだけ? 結構じゃねぇか。それは、お前リラにしか出来ねぇことだ。いくら俺が師匠っつっても、お前を『打たれ強く』することは出来ねぇ。『立派な才能』だ」


「…………ぁ…………」


「リラ、俺はな。いつの日かお前が、俺たちと『肩を並べる存在』になるのが楽しみなんだよ。お互い『背中を預けあう』……そんな日が来るのがな」


 それは『かつての俺』が、果たせなかった『理想』でもある。


「お師匠……感激ッス! 身内には6職と変わんねーから、メシ抜きとか言われてたのに……」


 感傷に浸るリラ。俺は満面の笑みを浮かべながら、最下層を指差した。


「そうか。んじゃ“もう一周”、いってこようか?」

「ずっごーん!? 私の感動返して……!」


 リラはその場に卒倒した。まだまだ『元気そう』だな。



 ◇ ◇ ◇


 一週間後。エルフらは、着々と『反抗』の準備を整えていた。豊富な『資源』を惜しみなく活用し、装備もかなり『近代風』となった。


 あれから貴族連盟に、目立った動きはない。そんな大人しいタマでもねーし、そろそろ『本格的』に仕掛けてくるハズだ。


「どうだアレク、愚妹リラの様子は?」


「なかなか『見込み』があるぜ、お前の妹。少なくとも、“荷物持ち”としては使えそうだ」


 バッツに俺は、腕組みをしながら答えた。


「フム? またすぐ音を上げるかと思ったが、アンタに預けて正解だった」


「そっちも順調そうだな。単独でも、凶悪種とやり合える種族なんてそうそういねぇぞ? 『こっち』もそろそろ、仕上げの段階だ」


 俺は丁度、戻ってきたリラを横目に呟いた。


「お師匠、戻ったッス。……てか、いつまでこの『基礎訓練』やるんッスか?」


「基礎をおろそかにすんなって、何度も言ってんだろ。それにリラ、お前気づいてねーのか? 最下層までの“100往復”、晩メシの時間まで余裕で間に合ってるじゃねーか」


 俺の指摘にリラは、「あっ」と声を出した。最初なんて、四分の一すらいかなかった。


「お前は『着実』に力をつけてる。そろそろ試してみっか。今から『模擬戦』を始めるから、準備しろ」


 俺に促され、リラはドッコラセと荷物を降ろし鉄ゲタも脱いだ。


「お……? おぉ! お師匠、体が……体が『浮く』ッス! 今なら空も飛べるかも! あいきゃんふら~~いっっ!!」


「そりゃ良かったな。『誰にでも出来る』ことは、きわめれば誰も届かねぇ『個の極致』となる」


 ここで俺は、表情を変えた。浮かれてたリラも、“空気が変わった”ことを察した。


「さて、準備いいなら早速始めるぞ。相手は『俺』だ。憎っくき貴族だと思って、56すつもりで来な」

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