第21話 『拠点 & 修行』

「さて、これで全員か。なんとか生きてるみてぇだな?」


 私兵どもが消えて、俺とリラは奴隷のエルフを解放した。リラに持たせていたポーションを飲ませると、流石はエルフ。回復も早い。


「……解放してくれた礼は言おう。だが、我らは完全にアンタを信用したワケじゃない」


 リーダー格とおぼしきエルフは、まだ俺を警戒していた。金髪の長髪で、長身な上に全身はムッキムキの筋肉質だ。

 エルフって色白で細いイメージがあったが、目の前の男はそれを覆している。長年の奴隷生活で、こんなにいかつくなったのか。


「兄者ぁ、ご無事で何よりッス!」

「……リラ、どういうことか説明しろ」


 へ? この二人って兄妹けいまいなのか? よく見ると、確かに面影はある。リラがカクカクシカシカと経緯を説明すると、ようやく兄貴は警戒を緩めた。


「成程、まーウソではあるまい。エルフがウソ吐いたら、耳を噛み千切りられるからな。申し遅れたが、俺はエルフ族長代理のバッツという者だ」


 バッツはニカッと笑いながら、俺とガッシリ握手をした。全身に生傷が絶えず、笑ってても結構な迫力がある。


「アレクだったか? 見返りはなんだ? プロがタダ働きをするとは思えん」


「鋭いな。俺にも義妹いもうとが一人いてな? 生まれつき体が弱く、普通の薬じゃ完治は見込めない。エルフの『秘術』なら、あらゆる病が治るって聞いた」


 俺が話した途端、エルフたちは目の色を変えた。ありゃ? 地雷を踏んだか?


「何故アンタが、秘術を知ってる? リラぁ、まさかとは思うが……」


 バッツに睨まれ、リラは激しく首を横に振った。よほど兄貴が恐いみたいだ。


「落ち着けバッツ、リラはバラしてねーよ。セレナっていう、もう一人の仲間がいてな。そこから秘術について聞いたんだ」

「……いまいち信用できんな。その仲間が、ウラで奴らと通じてるかもしれん」


 不信感MAXのバッツ。まぁ奴隷を長くやってりゃ、人間不信にもなるわな。


「それはねぇって。俺たちが貴族連盟だったら、アンタらを解放するメリットがねぇだろ? それに後で、その仲間と合流する。その時に訊いとくわ」


「……成程、言い得て妙だな。一応、アンタを信じよう。ここにリラがいるのが、何よりの証拠だ。不遜ふそんを詫び、改めて人質を救出してくれたことを感謝する」


「分かってくれたなら、それでいい。で? アンタらは、今後どうするんだ? 住みの森も、貴族が占領してんだろ?」


 俺の指摘にバッツは、腕組みをして唸った。思った以上に深刻そうだな。


「……ウム。故郷はなんとか奪還したい。幸い人質がいなくなって、我らも動きやすくなった」


 悩んでるバッツに、俺はある『提案』をした。


「なんなら、俺が手を貸そうか?」

「……どういう意味だ?」


「そのままの意味さ。俺と組めば、アンタらは『確実』に故郷を取り戻せる」

「その代わり、我らの秘術を求めるか。フーム……」


 バッツはまた腕組みをして、思案にふける。


「……悪いが、一旦保留させてくれ。いくら『代理』とはいえ、俺の一存では決めかねる。それに俺たちの故郷は、自らの手で取り戻したい。幸い遺跡ここは、火薬などが豊富だ。ドワーフから得た知識を以てすれば、強力な火器を造れよう」


 フム? 確かによく見ると、エルフに混じってドワーフもちらほら居た。犬猿の仲で有名だが場合が場合だったし、そんなことも言ってられんか。


「OK。俺もここを『拠点』として使わせてもらう。いつ連中が第2、第3波を送ってくるか分からんしな。アンタらは、反撃の準備に専念してくれ」


「恩に切る、それとアレク。不躾ぶしつけな頼みで悪いが、愚妹リラを鍛えてやってくれないか? エルフ随一の耐久力を誇るから、運用次第で化けるかもしれん」


「兄者ぁ……ホメてるのか、ディスってるのかどっちッスかぁ?」


 俺は快く引き受けた。よかったなリラ、正式に俺に弟子入りできて。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る