第19話 『生き残った奴』が強い

 リラを救出してから、三日後。


 ようやく遺跡への潜入が許可された。俺たちは三日前の見せ物小屋火災について、ギルドに根掘り葉堀り訊かれたが、適当にスルーした。

 なんせ『当事者』は、俺らを除いて全身大火傷。今頃、屋敷でウンウンうなされてるだろう。


 悪ィな、人前に出れねぇ面にしちまって(ゲス顔)


 迷宮に潜るのは、俺とリラの二人のみ。救助したエルフたちはセレナが同伴して、俺たちのホームタウンギルドに『緊急保護』してもらうことにした。


 リゼさんなら、セレナが事情を話せば分かってくれるだろう。セレナも保護してもらったら、急いで俺たちを追うと約束した。



「ここが遺跡か。前の迷宮より、遥かに深そうだ。ん? どしたリラ、緊張してるのか?」


「うぅ……迷宮は、仲間と生き別れになった以来ッス。 ……っ!? お師匠っ、敵意が接近してるッス!」


 お師匠……? 確かに『強くする』とは約束したが、もう『弟子入り』気分とは。まぁヤル気は買うか。

 それに人間離れした『感覚』……流石、エルフといったところか。


 リラの忠告通り、ぞろぞろと迷宮の魔物が出てきた。どうせなら、私兵を狙えばいいのにな。


「熱烈な歓迎ぶりだな。リラ、お前だったらどうする?」

「へ……? どーするも何も、戦うか逃げるかのどっちかじゃないッスか!?」


「そーだな。まずは、お前の『お手並み』拝見といこうか? 一人で頑張ってみろ」

「はいッス! お師匠のお手並み拝見って……えぇ!? 私ッスかぁ!?」


 目が点になるリラを他所よそに、俺は魔物の間隙かんげきを縫って先に進んだ。後方からリラの抗議が聞こえたが、さてどうする?



 ◇ ◇ ◇


「ヒドイじゃないッスかぁ、お師匠っ!? 開幕から、放置プレイするなんてぇ!?」

「おー、無事に逃げ切ったか。ご苦労さん」


 肩で荒く息をするリラを、俺は迷宮のマッピングがてらねぎらった。


「いやいや、マジで4ぬかと思いましたよっ!?」


「それでいーんだよ。迷宮じゃ強い奴が生き残るんじゃねぇ。『生き残った奴』が強ぇんだ。お前は『一瞬』で、逃げなきゃならねぇって判断した。その感覚を忘れんな」


「……そんなもんッスかぁ? 森にいた頃は、しょっちゅう皆の『盾』にされてましたが」


 しょんぼりと肩を落とすリラ。


「ん? そりゃどーいう意味だ?」


「そのままの意味ッス。森では狩りなどしながら生活してたんッスけど、私は何をやってもダメでした。弓も外しまくりで、身内からも『お前は何もするな』とか、突っ立ってるだけの『無能』とか言われる始末ッス……」


 フム? エルフは弓とか、得意そうなイメージあるけどな。


「唯一、私が他の仲間より秀でていたのは『打たれ強さ』ッス。状態異常にも強い『耐性』があって、前線でひたすら魔物の攻撃に耐えてました。お前はいくら殴られても、勝手に治るとか……コレってヒドイと思わないッスかぁ!?」


 成程……確かにリラは全身に生傷があったが、もう『再生』している。魔物にボコボコにされながら、なんとか逃げ切ったか。


「よく分かった。4なないように耐えて、ヤバくなったら逃げろ。以上」

「なんの助言アドバイスにもなってねぇッス!? と……とにかく仲間は、この奥ッス」


 リラの案内通り進むと、何やら金属音が聞こえてきた。遺跡の空洞には、巨大な採掘場があった。貴族の私兵に監視されながら、男のエルフが重労働を強いられていた。


「みんなもう限界ッス……。そういえば、お師匠はなんで私たちを助けてくれるんッスか? 『見返り』がどうとか、仰ってましたが……?」


「お前の仲間を救助した後、まとめて説明する。まずは、眼下の有象無象を『掃除』しなきゃな。『新しい』状態異常も試してみたいしな」


 俺は唇の端を吊り上げた。奴らに『迷宮の掟』を教授してやろう。『命』という授業料と引き換えにな。

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