『リラ編』

第15話 ケベックの街

「止まれィ」


 門番の野太い声が響き、俺たちは荷馬車を止めた。壁の内側が、貴族連盟が実質『支配』しているケベック地方だ。


「ここからはケベック領。何用か?」


「探索者ギルドに、用があって来ました。紹介状もあります」


 俺がリゼさんから預かった紹介状を見せると、門番は胡散臭そうな顔をした。


「フゥム? 本物だな。しかも☆1か」


『☆1』とは、迷宮を攻略した証だ。☆の数が多ければ、それほど熟練したシーカーだ。


「しかし、どこぞの若造に女か。悪いことは言わん。引き返した方が身の為だぞ?」


「ご忠告どーも。俺ら『強い』んで、問題ねーノープロブレムッス」


「ホンマかいな? しかも異臭がするが、これはどういうことか?」


 俺は門番に事情を説明した。


「何ィ? 賊に襲われた行商だとォ? フン、下らんウソを吐きおって。お前らが8ったんだろう? ひっ捕らえィ!」


 面倒臭ぇな、紹介状見せただろーが。するとセレナが、「ここは私に任せて」と荷馬車を降りた。本人もヤル気だし、お言葉に甘えるか。


「女ッ、ケガをしたくなければ……」


――シュン!


 瞬き厳禁、セレナの『一閃』で門番どもの鎧はキレイに割れた。兜も真っ二つに割れ、呆然とする門番ども。俺は「ヒュー」と軽く口笛を吹いた。


「な……何? 一瞬で『四連』だと?」


「どこ見てる……てか、そもそも見えてねーか。正解は『十六連』だ。その気になれば、お前らなんかいつでもダルマ・・・に出来るぞ?」


 俺の脅しに門番は、「失礼しましたぁ」とあっさり通した。ったく、時間泥棒が一番タチ悪いよな。



 ◇ ◇ ◇


 街に入った俺たちは、まず行商の遺体を自警団に引き渡した。根掘り葉掘り訊かれたが、セレナが適当に言いくるめた。


 次いで、探索者ギルドにおいて『迷宮潜入』の審査が行われた。迷宮にはそれぞれ『ランク』があり、ギルドが危険と判断すれば潜ることは出来ない。


 俺とセレナは、余裕でクリアした。だが、遺跡は『迷宮認定』されたばかりで、潜れるのは最短で三日後。俺たちは、それまで『情報収集』することにした。


 酒場などで『エルフ』の情報を募ったところ、今夜中央広場にて『見せ物小屋』が開催しれると聞いた。

 見せ物……『奴隷』のエルフが絡んでそうだな。俺たちは適当に時間を潰し、街の中央に向かった。


「にしても、治安の悪さや衛生面は噂以上だな。路地裏はゴミの山で、足の踏み場もねぇ。そこら辺でカツアゲも横行してるし、自警団も見てみぬ振りだ」


「今度はお節介を焼かないのね?」


「そりゃシーカーは、ボランティアじゃねーからな。利益にならんことで、動く奴は少ないだろ。そもそも振り掛かった火の粉くらい、自分でなんとかしろ。少なくとも、俺はそうして来た。って、アレがそーじゃねぇか?」


 俺が指差すほうに、華やかなネオンが灯る派手なテントがあった。開演前で行列が出来ていて、並んでチケットを買った。

 ぼったくか? と思うほどの値段で、カネを払ったのに俺たちは最後列で、立ち見する羽目になった。


 前列は貴族という名の『ヒマ人』どもで、ヤギが草食う勢いで何やら駄弁だべっていた。132イミフな話がこっちまで聞こえて、俺たちは「ハァ?(=゚ω゚=)」である。


 やがて、舞台の中央がスポットライトで照らされた。


「皆様、お待たせしました! 今宵は奴隷エルフによる『生の上映』をお楽しみくださいませ! 損はさせませんよ!?」


 ここで俺たちは、あるエルフと出会うことになる。

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