第13話 4人にクチなし

「出張申請? アレク君、これまた急だねぇ」


 俺の『出張申請』にリゼさんは驚いた。ギルドは夕刻6時までなので、俺は翌朝出直した。セレナはあれから小言を繰り返したが、適当にスルーした。


「すみませんね、昨日の今日で。どうしても、北の遺跡に行かなきゃならなくなりまして」


 俺はリゼさんに、事情を説明した。


「成程ねぇ……レンちゃんを完治させる為かぁ。気持ちは分かるよ、アレク君。お薬を買ってたら、日当分がなくなるもんねぇ。ちょっと待ってて」


 リゼさんは、デスクから資料を取り出した。


「あったあった、北方地方のケベックだね。幸いアレクの言う遺跡は、迷宮『認定』されたばかりさ。なんでも魔物が出没して、思うように作業がはかどらないらしい。探索者ギルドもちゃんとあるよ」


 それを聞いて安心した。シーカーは『無断』で、迷宮に潜るのは許されない。懸念すべきはエルフが、魔物の餌食えじきになってなけりゃいいんだが。


「……ただ、あまりいい噂は聞かないね。あの地域は貴族連盟が、牛耳ぎゅうじっているからね。『紹介状』は書いておくけど、気をつけるんだよ」


「何から何まですみません、リゼさん。助かります」


 俺はリゼさんから紹介状を受け取り、早速ケベックに向けて出発した。こうもすんなり話が進むのは、俺が一つの迷宮を攻略した『実績』があるからだ。

 他のギルドでも融通が効きやすくなり、迷宮にもすんなりと潜れるだろう。



 ◇ ◇ ◇


 俺は街道をひたすら北上している。レンの薬は多めに買っておいたから、しばらくは大丈夫だ。と、後ろから俺を呼ぶ声が聞こえた。


「……アレクぅ!」

「ん? セレナか。まさか態々わざわざ追ってきたのか?」


 街まで、結構な距離がある。尋常な脚力じゃねぇな。


「ハァ……ハァ……やっと追いついた。行くなら、一言掛けてくれてもいいでしょ?」

「個人的なことだからな。セレナはなんで、俺を追ってきたんだ?」


「なんでも何も、あなた一人じゃ何を仕出かすか分からないもの。ギルドに『例の件』は言ってないから、安心して」


 フム? お節介の割には、ちゃんと配慮してるんだな。


「別について来るのは構わんが、俺の『やり方』には極力口を挟まんでくれよ?」


「それはアレクの動向次第ね。あなたって他人から見れば、かなり無茶ぶりするもの。って、早速聞いてないわね……」


 セレナが何やら呟いているが、俺は道中で『あるもの』を発見した。何やら馬車の回りを、柄の悪いモヒカンどもが囲んでいた。

 状況から見て、路上強○だろう。さらに間が悪いことに、行商はすでに事切れていた。これは4刑案件の強●か。


「なんて酷い……! アレク? 何してるの……?」

「ちょうど『移動手段』を探してたんだよ。ちまちま歩いてたら、いつケベックに着くか分からんしな」


「まさか略奪者から奪うの……!?」


 目を丸くするセレナに、俺は唇の端を吊り上げた。


「何か問題でも? どのみち4刑になる連中なら、遅かれ早かれだろ? 馬車も俺たちが、有り難く使わせてもらう。4人にクチなしってな」

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