第11話 俺の妹がこんなに可愛いわけがある

「レン、今帰ったぞ!」

「お兄……ちゃん?」


 久々の我が家。リゼさんから聞いて、なんと俺が迷宮に潜って『3ヶ月』も過ぎていた!! いやぁ迷宮内だと、マジで時間の感覚がバグるわ。タイムスリップした気分だね、マジで。


「本当に……お兄ちゃんなんだよね……?」

「ああ、正真正銘の俺だ。待たせて悪かった」


 レンは口元に手を当てて、涙ぐんだ。俺とは5歳差の15歳で、紫色のセミロングにつぶらな瞳が印象的だ。


「お兄ぃいいちゃぁああああああんっっ!!」

「レェエエエエエエエエエエエエンッッ!!」


 俺とレンはガシッ! と強く抱き締め合った。嗚呼……お互い生きてるんだと実感する。俺のレンは可愛い……そして、何よりも尊い。


「ずっと待ってたよっ、お兄ちゃん! リゼさんから、お兄ちゃんが迷宮で『行方不明』になったって聞いて、心配してたんだ! でも無事で本当によかったよぉおおっ、ふぇええええんっ><」


「レンっ、心配かけてごめんなぁ!? お兄ちゃんもずぅううっとレンに会いたかったんだぁ、うぉおおおおんっ( ノД`)…」


『再会』を全身で表現する俺ら。


「えっと……そろそろいいかしら?」


 セレナの一言で、俺たちは現実に引き戻された。俺はセレナを見据えた。


「空気読んでくれねぇかなぁ? 折角、レンとの再会を祝してるっていうのに」

「てか、お兄ちゃん。この女、誰?」


 レンが53を見るような目で、セレナを一瞥いちべつした。セレナは特に意に介さず、小さく嘆息した。


「声を掛けなければ、終わりそうになかったわ。初めまして、レンちゃん。私はセレナ・ストラスブール、アレクとは迷宮内で知り合ったわ」


「なんで、初対面の人に『ちゃん』付けで呼ばれるのかな? かな? そもそも貴女、セレナさんだっけ? お兄ちゃんのナニ?」


「レン……頼むから『真顔』で、包丁研ぐのやめような。マジ怖いから。セレナの話は本当だ。ひょんなことで知り合ってな」


 俺はレンに経緯を説明した。レンも「うんうん」と素直に聞いてくれた。


「そうだったんだぁ。お兄ちゃんが言うなら、信じるよ!」

「ありがとな、レン。お兄ちゃんは嬉しいぞ!」


「…………なかなかコミカルな兄妹けいまいね」


 セレナが何やら呟いたが、まぁ聞かなかったことにしよう。


「それにしても、アイツらも酷いよね! 迷宮内で、お兄ちゃんを見捨てるなんて! 私が元気だったら、お兄ちゃんの代わりに血祭りに上げてたのに(`Δ´)」


「レン……その気持ちだけで、お兄ちゃんは嬉しいぞ。俺の妹がこんなに可愛いわけあるよな、タハハ」


 レンはキッチンで、エプロンを身につけ始めた。


「お兄ちゃん、お腹空いてるでしょ? 迷宮からの帰還をお祝いして、レンが腕にりをかえてお料理するね!」


「おぉ! 3ヶ月ぶりのレンの手料理っ! うぅ……帰ってきて本当によかったぜ!」

「よかったら、セレナさんもどうぞ。大丈夫、毒なんて混ぜたりしないから♪」


「……なんて言うか、この兄にしてこの妹ありね」


 レンは準備に取り掛かろうとしたが、急にうずくまり咳き込んだ!


「レンっ!? 大丈夫か?」

「うん……平気。たまに『発作』が起きるんだよね」


 俺が背中をさすってやると、レンの発作は治まった。


「ありがと、お兄ちゃん。もう大丈夫だよ」

「……レンちゃんは、昔からこんな感じなの?」


「これでも大分、マシになったほうだ。俺が迷宮に潜ってる間は、リゼさんに無理を言って薬を届けてもらったんだ」


 忙しい中、本当に頭が上がらんね。なんとか報いたいもんだ。


「……ただ担当医によると、レンの持病は『完治』しないようだ。薬で病状を抑えるのが、関の山みたいだ」


「……それでアレクは、危険を省みずシーカーを続けているのね?」


 セレナに俺は、目頭を押さえた。


「俺はな……レンさえ元気なら、それでいいんだよ。薬が高かろうが、いくらでも買ってやる。以前、ギルドでどこぞのバ○が『妹さえいなけりゃ豪邸も買えるのになw』とか抜かしやがったから、“屋上”へ招待してやった。その後、そいつはいつの間にかギルドを辞めていた。うぅ……」


「……どういう意味で泣いているのか、あえて訊かないわ」


 セレナはしばし考え込み、“聞き捨てならないこと”を口にした。



「……もしかしたら、レンちゃんを『完治』する方法があるかもしれないわ」

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