第6話 セレナ・ストラスブール

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 ◆ ◆ ◆



「この迷宮も、だいぶ静かに・・・なったなぁ」


 俺はブーメランをもてあそびつつ、独りごちた。道中には、死屍累々の死骸の山。皆、俺に挑んでは返り討ちに遭った魔物だ。


 俺はフードを深く被りながら、ひたすら進んだ。途中で力尽きた探索者から、服を頂いた。後ろめいた気持ちは、一切ない。俺に出来ることは、彼らの無念を晴らすことだけだ。


 レベルも順調に上がり、今は推測で45前後といったところか。ギルドに戻って、計測してもらわないと判らない。

 既に迷宮の適性レベルは余裕で超えているので、そろそろあのカマキリに雪辱戦リベンジマッチにいくか。『状態異常』も色々、試せたしな。


 ここまで確認したのは、以下の通りだ。


『猛毒』『睡眠』『混乱』『麻痺』『幻惑』『沈黙』『鈍化』『吸収』『炎上』『凍結』『感電』『魅了』『石化』『挑発』『脱力』

『悪夢』『錯乱』『浄化』『無効』『破壊』


 この中でもヤバいのが、悪夢・錯乱・感電だ。それぞれ睡眠・混乱・麻痺の『上位互換』で、行動を封じてダメージも入る。


 次いで、脱力・無効・破壊だ。脱力は全ステータス低下、無効は全属性の耐性を無くし、破壊は一定時間経過後、問答無用で死ぬ。


 他にも使いどころによっては、有効なのが魅了。相手を操れるので、混乱よりタチが悪い。浄化は不死アンデッド系に滅法強く、石化は何も受けつけないが、解除も出来ないのが強みだ。


 とまぁエトセトラだが、やはり上位互換は発動しづらい。まぁその辺は『重ね掛け』で、どうにでもカバーできるが。


 ん……? ここで俺は、誰かが戦っている気配に気づいた。一方は忘れもしない、あのカマキリだ。

 もう一方は……誰だ? 俺以外にこの迷宮で、カマキリと『互角以上』に戦える奴がいるのか? 俺は気配を殺しつつ、慎重に進んだ。



 ◆ ◆ ◆


――キキンキキンキキンキキンッッ!!


 広間に出ると、カマキリと初顔の女剣士が激しい剣戟けんげきを展開していた。スゲーな……あのカマキリと正面から打ち合うとは。


 そーいや奴らが、俺の『代わり』を雇うとかのたまってたな。彼女がそうか……奴らには勿体ないな。

 それに肝心の奴らが見当たらない。大方、カマキリにビビって逃走バックれたんだろう。もう関係ないとはいえ、嘆かわしいにも限度がある。


――キキンッ!


 そう考えてるうち、剣士の太刀が弾かれた。おまけに、壁際まで追い詰められている。カマキリは二本の前肢を広げ、獲物を逃すまいと退路を封じた。


 成程……俺の二の舞は、演じないってワケか。しかも眼がガチだ……ありゃ仕留めにいくな。彼女は目測で、太刀との距離を測った。

 その一瞬をカマキリは見逃さない! 前肢が残像を残し、一閃する……ハズだった。


――ビシッ!


「「…………っっ!?!?」」


 剣士とカマキリの動きが止まった。剣士は『想定外』の出来事が起きたことに。カマキリの右腕は、状態異常の『麻痺』で物理的に動けない。


「何が……?」

「ジャマするぜ。余計なお世話だったか?」


 剣士は俺の登場に驚くも、それは一瞬だった。


「あなた……もしかして、アレックス・メンフィス?」

「はて? アンタとは、初対面のハズだが?」


 俺は小首を傾げるも、剣士は澄ました顔で太刀を回収した。


「ゴートから聞いたわ。『必中』スキルの使い手がいるってね。けど、今の・・は何……? 必中以外にも何かしたの?」


 見かけによらず、目敏めざとい剣士だ。


「初対面の探索者に、手の内を晒すと思うか? して、“商売仇”になるかもしれないのに」

「それは失礼したわ。私はセレナ・ストラスブール。つい最近・・、シーカーになった者よ」


 フム? 嘘はいてないようだ。俺もそれなりにシーカーを長くやってるが、ギルド内でセレナを見たことがない。


「最近なった割には、動きにムダがないな」


「……元々、私は『冒険者』だったのよ。色々とワケありで、シーカーに転身したけどね。さぁアレク、次はあなたについてよ」


 成程、隙のない剣士だ。今のところ『敵対』はしないだろうから、俺としては話しても構わんが。


――ザンッ!


 カマキリが動く左腕で、麻痺した右腕を切断した! なかなか利口な奴だ。使えないなら、早々に切り捨てるか。

 ギロリと血走った眼を向けるカマキリ。まだ殺る気満々だな。俺はセレナに、ある提案を持ち掛ける。


「とりあえず、コイツをなんとかしないか? 話すと長くなるからな」

「別にいいけど、あなたは手を出さないで。さっきだって、カウンターで一気に仕留めようとしたのよ?」


 やっぱり、余計なお世話だったか。セレナは見た目に反して、相当戦い慣れてるな。


――ブゥウウウウッ!


 カマキリはハネを広げて、耳障りな音を立てた。状態異常だと思い、身構えたが違った。

 奥から、ワラワラとミニカマキリが湧いて出た! どうやらカマキリの幼虫らしい。そーいや、迷宮のあちこちに『産卵』してあったな。


『それだけ』なら、大した問題じゃなかった。ミニカマキリの中に『不純物イレギュラー』がいた。


「「「ふぉお"お"お"お"っ!? 虫をムシしたら、乗っ取られたでござるぅう"う"う"う"っ!? ワイらは、どーすればえ"え"んじゃあぁあ"あ"あ"あ"っっ!?!?」」」


「……っ!? アナタたち、まだウロウロしてたの!?」


「………………………………………………」


 驚くセレナとは裏腹に、俺は『悪夢』を見てる気分だった。どういう経緯か微塵も興味はないが、何故かミニカマキリの群れに『珍獣ゴートら』が紛れていた。


 どーやらカマキリ的に物量カズで圧す作戦らしいが、この時点で『間違い』を犯している。

 なんせ呼び寄せた連中は、敵より『邪魔な味方』の代表なのだから……(汗)


 ◆ ◆ ◆


 Next……ざまぁ回



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