第5話 『蹂躙開始』

     ◆ 元メンバー視点 ◆


「「「56されるぅううううううううううううっっ!?!?!?」」」


 迷宮下層。アレクの元メンバー共は、魔物から『全力逃走』していた。普段はロクに働かないが、こういう時だけ『本気』を出す。


「ゴートっ、話が違うじゃん! 何が俺たちのレベルなら余裕よ!?」


「ウルセー、とにかく逃げろっ! てか、ルウ! お前の魔術でなんとかしろ! ライノスも、なんでタンクが後列なんダヨっ!?」


「ムチャ言うなっ! あんなの喰らったら、即○だ! てか、リーダーのお前が体張って俺らを守れや!」


 互いに責任を擦りつけ合う三バカ。彼らはムダにレベルだけ上げて、“実戦経験”など皆無・・だった。


 それもその筈……迷宮では、希少種以外との遭遇エンカが圧倒的に多い。彼らはあろうことかアレクを『囮』にして、希少種以外からは『全逃げ』してた。


 要するにアレクにだけ・・・希少種を狩らせ、飯ウマ状態だった。全くどっちが『経験値泥棒』なのやら……(呆)


「クソー、どーしてこうなった!? 本来なら、セレナを盾に俺らが迷宮ボスを倒す予定だったのによッ!?」


「もうダメっ、追いつれるわ! ライノス、アンタの『犠牲』はムダにしないっ!」


「勝手に56すなやっ! さらば荷物ッッ!!」


 ライノスがイキおいよく荷物を放り投げ、魔物が殺到した。


「ア"ーッア"ア"ア"ア"ッ!? ナニさらしトンじゃワレェエ"ェエ"エ"エ"エ"ッ!? 探索者が迷宮内で荷物を手放すとか、自●行為だろッ!?」


「4んだら意味ねーだろうがッ! てか、思いっきり3564ミゴロシにしようとシテたよナァ!?」


「……アンタら、本当に迷宮ボス倒す気あんの?」


 無意味な口論を繰り広げる三バカ。そもそもザコ相手に逃げ回ってるのに、ボスに敵うハズがない。


「って、言い争ってる場合じゃないでしょ? 早くしないと、セレナに獲物を横取りされるよ!」


「そーだった! いくらセレナでも、ボス相手に苦戦必至ッ! ギョフの利狙いでイこうぜッ!?」


「どの道、ギルドからもそろそろ目に見えた結果を出せって、ハッパを掛けられてるしな」


 その場のノリで決める三バカ。この先、さらなる『地獄』が待ち受けてるとも知らず(南無)



 ◆ ◆ ◆


 迷宮の精霊から新たなブーメランを得た俺は、手頃な『獲物』を探していた。適当なザコでもいいんだが……いた。『打ってつけ』が。


 巨大なハンマー牛頭ゴズ、クロスボウの馬頭メズが徘徊していた。二匹とも見るからにタフそうで、状態異常を試すには持ってこいだ。


「ンモッ……!?」

「ブルル……!」


 二匹とも俺を発見し、殺気立つ。縄張りに侵入した俺を『敵』と見做みなしたか。まぁ俺もそっちの方がやり易い。


 牛頭が勢いよく突進してくる! 予想以上にはやい! 奴らと長く組んでたせいか、俺も勘が鈍っている。

 逆に言えば、リハビリには丁度いい相手だ。こういう『強すぎず弱すぎず』な敵は、なかなかいない。


 俺は機敏に牛頭の鎚を回避する。正直、回復前にコイツらに遭遇してたらヤバかったな。同時に馬頭が、正確無比にクロスボウで俺を射抜いてきた!


 流石にかわし切れず、俺は掠り傷を複数負った。連射式か……厄介だな。それに上手く連携してるじゃねぇか。

 この時点で、元メンバーより全然強い。この二匹なら、迷宮ボスのカマキリともいい勝負をするだろう。


 並みのシーカーなら絶望するだろうが、俺は唇の端を吊り上げた。そう来なくちゃ面白くない。ずっと奴らの『お守り』をしてきたので、“全力”を出せなかった。


 牛頭が回転して遠心力をつけながら、俺に迫った! 俺はこれをかがんで回避し、カウンターで牛頭に一撃入れた!


「ンモ? ンモォオォ……!」


 俺の反撃が安すぎて、牛頭はお冠だ。どうやら舐めプされたと思ったようだ。猛りながら、俺に迫ろうとするが……


「ンモッ……!?」


 突然動きが止まり、その場に膝をつく。牛頭の全身は見るみるうち、紫に変色していった。これは『毒』か。しかも即効性ときたもんだ。

 牛頭は猛毒に侵されながらも、鎚を振るった。明らかに動きが鈍くなっており、牛頭の体力は凄まじい勢いで削られていった!


「ブルルル……!」


 馬頭が鼻息を荒くする! ちょっと気づくのが遅ぇな。それに完全に、戻ってくるブーメランの存在に気づいてない。


 後頭部に炸裂し目の色を変えた馬頭は、牛頭をクロスボウで蜂の巣にした。これは『混乱』か……牛頭もまさか、相方に射たれるとは思わず錯乱した。


 こうなったら『一方的ワンサイドゲーム』で、俺は眺めてるだけでいい。牛頭はやがて鎚を手放し、豪快に倒れ込む。

 馬頭は何が起きたのか分からず、俺に猪突猛進してきた! 俺はあっさり躱し、馬頭は壁に激突した。


 俺は一切情けなどかけず、馬頭にトドメを放った。馬頭は頭部から盛大に血が噴き出すも、立ったままイビキを掻き始めた。

 これは『睡眠』か……馬頭は重症だから、そのまま『永眠』するだろう。


 やがて二匹は完全に動かなくなり、静かに俺のレベルが上がった。まさか突然現れたパンイチにたおされるとは、夢にも思わなかっただろうな。


「まぁ恨むなら、俺を見捨てた元メンバーを恨んでくれ」


 俺は確かな『手応え』を感じた。確実に状態異常を付与する武器に、俺の『必中』スキル。 

 この二つがあれば、“ 先制=確殺”だ。負ける要素はない……というか、負けるほうが難しい。


 この世界に『神』などいない。あるのは、残酷なまでの『理不尽』さだ。なら、俺はそれを『利用』するまでだ。

 いかなる者でも、俺の前に立つなら容赦はしない。それにもう『経験値』も、さほど必要ない。『欲しいもの』は、手に入った。



 死のふちから舞い戻った怪物シーカー誕生の瞬間だった。



 

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