分化 〜 ふり出しにもどることの意味 〜
分化 (differentiation) とは、単一・単純なものが多様化・複雑化する過程であり、生物の場合は、単一・万能の受精卵・胚が、細胞分裂と成長を繰り返して特殊化することにより各々何らかの機能を獲得していく過程である。この世界を見回すと、ありとあらゆるものが分化して多様性と複雑性を獲得する方向に「発展」しているように見える一方で、やがて「おわり」を迎えて「ふり出し」にもどっているようにも見える。
星の一生を考えても、万有引力によって気の遠くなるような時間をかけて集まった物質の固まりが、自らの質量を支えきれずに起きる核融合により「スター」として輝き始め、やがては「燃え尽きて」一気に潰れる結果、十分な質量があれば華々しく「超新星爆発」を起こしてブラックホールと新たなスターの種(それまでは存在しなかった重い元素も含む)を宇宙にまき散らすのだそうだ。星のおわりが、新たな星の誕生(しかも同じことの再現ではない形で)につながるのである。
中生代白亜紀末の「大絶滅」にしても、環境の激変により大型恐竜は(環境に過剰に適応していたが故に)絶滅したようであるが、地球の生態系がリセットされたおかげで新生代と人類の躍進(?)につながったのだ。その人類は、20世紀後半以降、「生命の設計図(DNAの暗号)」を解読するとともに、ES細胞(未分化の万能細胞)や日本発のiPS細胞等の研究を通して、自ら細胞分化のリセットボタンを押せるようになりつつある。
ひねくれた見方をすると、天寿を全うして世代交代により新時代をつくる(滅びの美学?)のではなく、負けが込んでくるとすぐに「リセットボタン」を押して再チャレンジの無限ループにはまりゲーム機を友人に譲ろうとしない「往生際の悪い子ども」のように、自分だけは「永遠の生命」を手に入れるべく悪あがきしているようでもある。そもそも、「人生は長ければそれでよいのか」という問いに答えることも、一筋縄ではいきそうもない。
昔、数学者の遠山啓先生が、科学的方法(デカルトの「方法序説」(理性を正しく導き、学問において真理を探究するための方法の話))を解説しつつ「ふり出しにもどること」の大切さを論じておられた。21世紀になりあらゆる課題が多様化・複雑化する中で、行き詰まって自分たちの手に負えないと思ったら、ふりだしに戻って出直すべき時かも知れない。その際、①どこまでもどるのか、②「誰が」再チャレンジするのか、という二点が重要であるように思われる。
個人的には、「往生際の悪い老害」扱いされぬように、アドバイザーに徹して「愛される老人」になることを目指している。戦後80年近く経ち、見慣れた既存の秩序が音を立てて崩壊(まさしく瓦解!)しつつある今、人類のフロントランナーともいえる「少子高齢化先進国日本」の真価が問われている。
保守も革新も、右も左も、文字通り「右往左往」して滑稽なまでに「陳腐化」しつつある (少なくとも次世代の若者たちに相手にされなくなりつつある) ように見える令和の先に、熱力学の第二法則に従って全てが水と二酸化炭素(細かいことをいえば炭酸カルシウムetc.も)にもどる「涅槃(ねはん)」が待っているのだろうか。それとも「脱構築」を成し遂げて「善悪の彼岸」が見えてくるのだろうか。(ささやかな願望はあるにせよ) それを予測することは難しい。
仮に「向こう岸」に漂着したとして、そこは「幸せに満ちた」パラダイスなのか、「立派すぎて退屈な」ユートピア( = ディストピア)なのか。「愚かな人類」の一人である私にとって想像力の限界を超える世界ではある。
2022.8.6
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