第2章∶傷だらけの勝利と2度目の始まり(1)
あれからも負け続けた。
何度も死んでは蘇り、片道1時間かけて魔王城に向かい、戦う。その繰り返し。
…52戦目、業火をもろに浴び、敗北
…58戦目、両手と首を切り落とされ、敗北
…64戦目、腹を貫かれ、敗北
…78戦目、致死量の雷を受け、敗北
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しかし…………
100戦目になると魔王にもかなりダメージが蓄積された。僕は魔王の心臓目掛けて聖剣を突き刺した。
魔王は断末魔を上げ、大量の傷口から黒い邪悪な魔力の霧が放出された。
命が尽き、魔王の肉体は次第に崩壊を始める。
「やった……、やっとだっ!遂に、ハァ…、魔王を倒、したっ!」
今思えば、長かった。魔王と戦う前の3年間の冒険も、過酷を極めた。
歴代の勇者のように強くなれず、身体能力も高くなかったから、強い魔物と遭遇したときは逃げるしかなかった。
身体能力の不足を補うために、色々な魔道具に、
魔王戦前も、弱い魔物の素材や旅先で拾った鉱石を売って得たお金をすべてそれに注ぎ込んだ。
確か、準備に1年はかかったかな。
そう思っている内に、魔王の肉体と共に、玉座の間は光に包まれていく。
ああ、やっと終わるんだな。魔王の死をみんなに伝えれば、平和を記念して宴が開かれるだろう。
僕も全力で宴を楽しもう。
宴が終わったら、静かに暮らしたいな。
もう戦わなくていいのなら、気ままに旅をするのも悪くない。
役目に急かされたのもそうだが、死と隣合わせだったから、ゆっくりと冒険を楽しむ暇もなかった。
今の僕の戦闘経験なら、冒険者として働いてもそれなりに稼げるかも。
ああ、これからが楽しみだ。
そして光が止み、僕は目を開けた。
「………え?」
しかし僕は目の前の景色に驚愕した。
本来なら、薄暗い不気味な空気を漂わせた、主の居ない魔王の玉座の間が写ってるはず。
でも現実は、済んだ水の流れる樹の根で構成された、緑色の優しい光で照らされた神秘的な部屋だった。
僕は、この景色を嫌と言うほど見てきた。
そこは、僕の復活のポイントであり勇者の目覚める場所、「勇者の棺」。
ここにいるということは僕は死んだのか?
だが今着ている装備に違和感がある。
魔王戦の時に着ていたのは、身体能力向上の秘術のかかった旅人の服だったのに、今着ている物は絹の糸で作られた素朴な半袖シャツと皮のズボンだった。
腰につけていた魔法の収納袋も無いし、勇者の剣も無い、何だがいやな予感がする。
そして理解した、これは僕が目覚めたばかりの姿だった。
そう僕は、4年前まで巻き戻っていた。
ーーー「え?」
しばらく頭が真っ白になって、そしてようやく思考が働く。
(嘘だ、そんなこと!でもこの服装、やっぱりそういうことだよね…、つまりあの苦労は水の泡?でも何で?)
何故時が遡ったのか分からない。
魔王の仕業なのか?
魔王を倒したのに何故?
最悪だ、自分でも壮絶な4年間だと思っていたが、この瞬間だけは、人生1番の不幸だ。
いや、不幸で収められる状況じゃない。
急に全身の力が抜けて、膝が崩れた。
(……嘘だ。負けの連続だっ4年、100回の戦いで果たした魔王討伐…、でも……。)
心は絶望に埋め尽くされていた。
もうどうでも良かった、勇者の使命を果たすためにひたすら頑張った。
それなのに、全部が水の泡。
また魔王討伐?
あれほど苦労して倒した魔王を?
いや、そんなことあるはずがない。
とりあえず外に出よう、これは魔王が死に際にかけた幻術に違いない。
まだ希望を捨てるわけにはいかない、じゃないと壊れてそうだ。
僕は清らかな水で満たされた棺のある部屋を後にして、外に出た。
ショックで視界が暗く感じる、今通っている廊下も眺める余裕もないままひたすら進む。
信じたく無かった、この今を、信じたく無かった。
やがて目の前が光に満たされた、気がつけば外に出ていたのか。
人の手がついていない美しい森の空気が肺を満たす。その感覚が現実だと思わざるをえない。
(……もう良いか、やっぱり現実だ。不思議と使命を果たさなければという焦りは感じない。何だが心が軽い。)
心が折れすぎてなんか軽くなった。
魔王なら倒したから、2度目は別に良いだろう。
そして僕は決意した。
「魔王討伐はもう放棄しよう、これからは自由に生きるんだ。」
2周目なので魔王討伐、放棄します バジルソース @bagiru
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