2周目なので魔王討伐、放棄します
バジルソース
第一章∶魔王と勇者フラガ
邪悪な空気が漂う玉座の間で二つの影が激しくぶつかり合っている。1つは少年の、もう1つはおぞましい怪物の物だった。
怪物は両手から2つの業火を生み出し、少年に投げつける。
浴びたら灰になる地獄の業火に怯まず冷静に避ける少年の姿は、勇者以外何者でも無かった。
そう、少年は「勇者」だ。
神をも超える力を持つ魔王を倒すために、創造神が死に際に創り出した不滅の騎士。
何度も復活を繰り返す魔王を鎮めるために戦い続ける英雄。
人類の存続を賭けた戦いは今、始まっているのだ。
金色の入った青髪が業火の熱風に触れ、緑眼の勇者フラガは魔王を睨む。
あれから10分、未だに魔王に攻撃を与えられずに劣勢。このままではまた負ける。
自分だけの勇者の特性「
蘇ると聞くと最強ではあるが、この「
歴代の12人の勇者全員に備わっていた共通の特性である、“どんな重傷も再生する力“と、“戦う度に身体能力が上がる力“がない。
だから戦っても常人と同じレベルでしか強くなれないから、今まで武器やポーションだよりで戦ってここまで来た。
歴代にいた、特殊な戦闘技である戦技を扱う勇者や、秘術と剣を扱う勇者のような固有の戦闘系の特性が無かった。身体能力もそこらの騎士や冒険者と変わりない。
それでも勇者の使命を果たすために、何度も死んでは挑んでいる。
もう46回は魔王と戦っているから、魔王もかなり消耗しているはず。
魔王からしたら、殺したと思った勇者が数時間後には挑んで来ているから、たまったものじゃないだろう。
それでも攻撃速度が落ちていないのは流石魔王だと思った。現に45回は死んでるし。
そして魔王の猛攻は止まらない。禍々しいローブの魔王は、指揮者のように構えた。
『ドルナーブファイル』
どす黒い声に反応して魔王の背後に出現した3つの魔法陣から雷の矢が嵐のように発射された。
フラガは盾を構えるも、光の速度で放たれた雷の矢は疲弊した鋼鉄の盾を大きく削った。
盾が壊れた頃には魔法が止んだ。
当たれば死ぬ、とゆうか魔王の攻撃はどれも僕にとっては即死級。
(攻撃が止んだ今がチャンス!)
この刹那を見逃すまいと、「ネベルの弾薬」を魔法の革袋から取り出し、起爆させる。
魔法の爆弾は濃い煙幕を生み出し、魔王の視界を塞ぐ。
自分の視界も塞がれてしまうが、一番愛用してきたアイテムだ、僕は感覚で魔王の位置を特定し、全速力かつ静かに魔王の懐に入り込み、勇者の剣を突き立てる。
魔を払う純白の聖剣は、魔王の肉体に傷を付ける。魔王の黒い衣が深緑に染まり、一瞬だが苦痛で悪魔の顔が歪んだ。
魔王の体力はもう半分も無いはず、勝利の糸口は見えている。
だが油断は出来ない、早く距離を取らないとまた死ぬ。
魔王の反撃が来ない内に、僕は左手袋に仕込んだ仕掛け器具のフックショットを背後に撃ち、地面に刺さった瞬間を狙って離脱を試みた。
しかし離脱を始めるより先に、僕の右肩に魔王の剛腕が襲う。
人知を超えた暴力は、人間の肩を粉々にするには充分過ぎるほどの一撃だった。
「っ!!」
声にもならない叫びを上げてしまったが、フックショットが刺さったおかげで離脱は成功し、致命傷は免れた。
「…、あ゙ぁ゙、ぐぞッ!」
しかし右肩は潰れた。もう右手で剣は振れない。
(でも、まだ左腕がある。
勝てるまで挑むつもりだ。これ以上は強くなれる見込みもないから、倒すまで諦めない。
僕は闘争心を燃やして、もう一度剣を向ける。
『タナト・グラソンクゲール』
魔王の手から、氷の刃が放たれた。
重症を負った僕には避けれるはずが無く、氷の刃は僕の身体を貫く。
僕は46回目の敗北を期した。
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