4.
「ここらへんだよな?コンの家…」
見知らぬ景色に、泰晴と比賀は戸惑っていた。学校が終わり、2人はスマホの地図を頼りに鋭の家を捜している。
(もう…ここまで来たら、天然とか変わってるとかじゃなくて、ただの非常識なヤツだよな…)
鋭は横にいる比賀をちらりと見やる。
「今野くんは体調が悪いのだと思うのです」
今日の1限直前。泰晴に比賀が自身満々に言った。
「…いや、それは分かんないでしょ。てか、なんで俺?」
「?手塚くんは今野くんとよく話しているでしょう」
「はあ」
返事にため息が混じったけれど、比賀はそれに気づかない。
「とにかく、今野くんの家に行かなければ!一緒に行きましょうね!!」
「いやいやいや、なんでそうなるの!?」
頭おかしいの、と言いたくなったけど飲み込んだ。比賀は鼻息を荒くしていて、そんな彼女を泰晴は半目で見つめていた。
「あ、あと1分で授業始まる!それでは、放課後よろしくお願いしますね!」
「……………は?」
堂々とした彼女の背中を呆然と眺めていたら、頭を打つようなチャイムが鳴り響いた。
(なにこの展開……)
「そういえば、比賀さんはなんでコンの家知ってたの?」
朝のことを思い出していて、浮かんだ疑問を聞いてみる。
「数少ない友だちに聞いてみました!!」
「…そうなんだぁ」
…怖っ!どこの情報だよ?誰だその友だち…。
「あ、今野くん!!」
頭の中でツッコんでいると、比賀が大きな声を出した。
「え?…あ…!」
道の先に目を向けると、こちらを凝視して固まっている鋭の姿があった。
「なんで、ここにいるの…?」
泰晴たちがゆっくりと近づいていくと、鋭のゆがんだ表情がはっきりと分かった。
「あー、ごめん、コン。なんか、比賀さんに連れてこられてさ…」
「なんで来たのっ」
「え?」
ひときわ大きい声を出した鋭の顔は、耳まで真っ赤だった。そして、比賀に顔を向ける。
「比賀さんっ。な、なんで俺のこと、そんなにっ、そんなに追いかけるんだ?と、図書館でもそうだよ!初対面なのに…」
しどろもどろでも、鋭の目は冷たい。比賀は見慣れない彼の様子に、固まっている。
「コン…?」
「ヤスハル。……もう、帰ってほしい…。ごめん、2人とも…」
鋭は、そう吐き捨てると、泰晴たちを抜いて駆けだして行った。
「…コン、どうしたんだ?…まあ、比賀さん。帰ろう」
「…はい…」
憔悴しきった彼女に同情の気持ちが浮かんできたが、すぐに消える。
(いや、こうなること分かって来たんだよな?分かってなかったのかな?)
泰晴は鼻の頭をかいた。すると比賀が、泰晴に満面の笑みを浮かべて言った。
「大変ですよ…」
「は?」
「今野くんは、心が疲れてるんですよ!今はそっとしておかなきゃ!!」
「そう、だね…。あはははは」
(マジで大丈夫か、この人…)
ひとりのきつね @sock-4723
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