第8話 ピュグマリオン
「ピュグマリオン?」とどこかで声がした。ピュグマリオン?…そうだ、その通りだ。うまいことを云う、確かに今を伝えるならピュグマリオンの状況を引くにしかずと云えるだろう。ギリシャ神話にあるキプロスの王ピュグマリオン王の逸話…王は現実の女性には見向きもしないでひたすら自分の理想とする女性像を彫り続けたという。やっと彫り上がったその女性像を王は寝食を忘れるほどに愛し続け、鑑賞し続けるのだが、やがてその像に生命(いのち)がこもり…。などと要らぬことを夢想したがすぐに我に返り改めていまの「ピュグマリオン?」なる一声を誰が発したのかに思いを致す。しかし誰がが何も此処にはもとより俺と眼前の若いバーのママしかいない。すれば…と、身体を凝視しながら焦点の合っていなかった彼女の表情に目をやると、そのママが(以降女をママと呼ぼう)「そうよ、私よ」とばかりに微笑んでいる。そしてそのピュグマリオンの愛を求めるかのように両腕を背中に廻したままで上半身をひねりさきほど同様に目線で背中のジッパーを上げてくれるよう、至って催させる姿態ををして見せる。再びの、肌に直接触れ得る期待(というか強引にでも…)に胸を震わせつつ足元を乱しながら俺はママの側へと寄った。俺の動きに合わせて両腕をさげ背中を向けたママだったが俺はジッパーを上げる代わりにそれをおろしてしまう。そして両の手で背中を満遍なくまさぐったあと今度は両肩紐を横にはずしてドレスをも下げてしまった。
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