第20話 ユリナの過去・前半

意識を失った後、俺は数時間で起きた。

もう一度【戦神】を使おうと思ったが、まだ少し体に疲労が残っていたため、これ以上使うと、流石にやばいと思い、やめておいた。


はぁ.....疲れた。





宿に戻ると、ユリナがそわそわしていた。


何か宿の前を右往左往してるんだが........

何してるんだよこいつ。


「何してるんだ?完全に不審者だぞお前」

「あ!やっと帰ってきました!遅いですよ!もう日が沈みそうなのに、どこをうろついていたんですか!」

「お前は俺の母親か!」


なんでこんなに過保護になってるんだよ。

ちょっと数時間いなくなっただけだぞ?


「この前、イスカさんがずっと眠っていた時に、私考えたんです!

あの時どうすればよかったんだろうって」


ん?


「私が、【魔物大進行スタンピード】についていけば、イスカさんは左腕をなくさないで済んだのかなって、私がついていけば何か役に立てたんじゃないかなって」


あーなるほど。俺についていかなかったことを後悔してるのか。

だけど....


「お前が自分を責める必要はない。俺がお前が行くことを許さなかったから、お前は来れていなかっただけだ。仕方ない」


あの時は、俺が説得したから来れなかっただけだ。

俺が何か不測の事態が起きたときにユリナを守ることができないかもしれないから、おいていった。

だから、ユリナがそこに責任を感じる必要はない。


「仕方なくないです!!!!!!!!!!!」


今までにない大きな声を出してユリナが言った。


俺はその声にびっくりしたが、その後のユリナの覚悟を決めたような顔を見て聞く姿勢に移る。


「私......本当は怖かったんです。また目の前で大切な人を失うのが......」









数十年前


私は、特に良いところもなく、悪いところもないそんな普通の村に生まれました。

毎日、友だちと遊んだり、祭りをしたり、お父さんが狩ってきた動物をみんなで食べたり、そんな生活をしていました。


どこにでもあるような村の毎日。

私は、このままこの村の誰かと結婚して、幸せに暮らすんだろうな。


そう思っていました。























その日は曇りでした。

あたりが薄暗くて、朝から不気味な雰囲気だと思っていました。

そんな日に私は、六人の友達と遊んでいました。

すると、


「なぁ!今から森に入ってみないか?」


友人のガルくんがそう言ってきました。

私は断りました。


今日はなんか不気味だよ。

やめておいた方がいいよって。


だけど、みんな行く気満々で、私だけが森に行くことを反対していました。


そして、みんな森の中に入っていきました。

私も一人でいるのは嫌なので、みんなの後に続いて、ついていきました。



今でも後悔します。なんであの時必死に止めなかったんだろうって。






十分後、私たち三人は、もう三人とはぐれてしまいました。


「あいつらどこに行ったんだろうな?」

「わからない。この辺りをうろついておけば見つかるんじゃねぇか?」

「..........」


私はこの時、耳が変な音をとらえていました。


「ねぇ。なんかクチャクチャみたいな音がするんだけど....」

「はぁ?そんなもん聞こえないぞ?空耳じゃないのか?」

「そうなのかな?」


そういわれて私は耳を澄ませました。

だけど、何も聞こえません。


何だ。空耳だったんだ。


そう思い、探そうとしていると、





クチャッ




「!!」

今度は確実に、さっきよりもはっきりと聞こえました。

横にいる二人も、聞こえたのか、びっくりしたような顔をしています。


私たちは、音の聞こえる方に歩を進めました。

そこには.....


「ゴブリン...」

緑色の肌をした醜い姿の魔物。ゴブリンがいました。


その見た目に嫌悪感を覚え、顔を顰めていると、目に、ゴブリンの持っている肉が映りました。


そのゴブリンが食べているものを見て、私は吐きそうになりました。


真っ赤な血で染められている肉を見て、私は幼いながらに理解してしまったのです。












、と









詳しく言えば、先ほどまでいた友達です。

はぐれてしまったところをゴブリンに捕らえられたのでしょう。


人肉を食っているゴブリンの横には、複数のゴブリンたちに犯されている少女もいました。


「そんなッ!エリちゃんが!」


その子は気が強く、男の子にも負けない活発な女の子でした。

そんな子が、目に光を失い、絶望していました。


私は、そんな様子に我慢ができなくなり、泣き出してしまいました。


他の二人は、ただただ呆然と立っていました。


そんな中、いち早く正気を取り戻したガル君がこう言いました。


「ユリナ。お前は村に帰ってこのことを報告しろ」

「え?でもガルくんたちはどうするの??」

「俺たちは後で行く。先に帰って報告してくれ」


ガル君の覚悟を決めた表情を見て、私は村に向かって走りました。



数十分後、私は村の大人たちに言いました。

しかし、

「今日はこれから天気が悪くなりそうだから、森に入るのは危険だ」


そういってみんな森に入ることはありませんでした。

だから、私は


「もういい!私一人で行く!」

そういって村を飛び出していました。






















私は、迷っていました。

「ここ、どこ?みんなはどこにいるの?ガルくん。どこにいるの?」


私は薄暗い森の中を一人でさまよっていました。

心細くて、寂しくて、怖い。でもみんなを探さなくちゃいけない。そんな風に思いながら、歩いていました。


すると、後ろの草むらから、ガサッっと音がしました。


「何!?」

草むらを見ると、そこにはゴブリンが3匹いました。


「グギャ?グギャギャギャーーー!!!」

「グギャ!」

「ギャ!」


ゴブリンたちは私に下卑た笑みを浮かべ、近づいてきました。

ゴブリンたちは私の体を拘束すると、服をやぶこうとしてきました。


「嫌ッ!!」

私は嫌がって抵抗しました。しかし、ゴブリンに力で叶わず、服を破かれてしまいました。


ああ。私はこれからこのゴブリンたちに犯されて、死んでしまうんだろうな。

そう思い、何もかもどうでも良くなってしまいました。


そんなとき、ゴブリンの力が緩みました。何事かと力の緩んだゴブリンを見ると、そのゴブリンは胸を貫かれて絶命していました。


「大丈夫か!!!」


そうして、私は助けられました。

助けてくれた人たちは冒険者で、たまたまここを通りかかったそうです。

助けてもらった後、ガル君たちを探しました。


そして、やっと冒険者の人たちと一緒に探して、ガルくんを見つけました。









辺りにはガルくん以外の子たちの死体も見つかりました。


このときにはもう限界に近かったのでしょう。




その後の出来事で私はのですから。





私は、冒険者の人たちに連れられて、村に戻っていました。

その時の私は、まだ現状を飲み込めていませんでした。


いえ、現実から目をそむけていたと言ったほうが正しいですね。


私はまだ心の何処かで、みんなが生きていることを信じていました。

そして、またみんなで村で遊んだりそんな生活ができると信じていました。


だけど....







そこには村が




正確に言えば、村全体が真っ赤な炎で包まれていました。

あとで話を聞くと、盗賊が来て、村の金品を強奪し、女を連れて行って、村を燃やしたんだそうです。


あちこちに火が燃え移り、どの家も崩れていました。


私の頭に真っ先に浮かんだのは家族のことでした。


私は自分の家に、今出すことのできる最大スピードで帰りました。


だけど、そこにはやはり家はありませんでした。


私は焼き崩れている自分の家を見て、崩れ落ちました。





なんで


なんでなんでなんで








なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで












なんで私だけが生き残ったの?

どうしてみんな死んだのに私だけ生き残ってるの?












ねぇ、なんで?






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