第4話 ハハハ……

 ヤバイやつを召喚してしまったかもしれない。


 召喚2日目にして、城の偉い人たちに【勇者】の危険性が広まった。



 英雄色を好む。

【勇者】と言えど若い男。

 彼を懐柔するため、厳しい選抜を潜り抜けた選りすぐりの女性たちが彼にあてがわれた。


 最初は大規模なお見合いパーティーが開催される予定だったが、他でもない【勇者】が時間の無駄だと拒否をした。

 代替案として大量の釣り書きを持ってこられたので、【勇者の従者】である俺が渋々整理して彼に差し出した。


 最終的に【勇者】が選んだのは3人。


 俺は釣り書きを持って、宰相のところへ行った。

 異世界に来てまで何やってるんだと思わなくもないが、俺は神に命じられた正真正銘のパシリである。虚しい。



 *



「ひと目見たときから素敵なお方だと思っておりましたの。誠心誠意お支えいたします」

 少し幼い感じの美少女。


「私を選んでいただき光栄です。必ずや勇者様を満足させて見せますわ」

 セクシーお姉様。


「勇者様のような素敵な男性と結ばれるのが夢でしたの。我が家は全面的に勇者様を支援いたしますわ」

 正統派美女。


 選ばれた3人の女性は、教皇の姪、富豪の娘、公爵家の令嬢。

 要は宗教、金、権力だ。


「……よろしく頼む。全員に自己紹介をしてくれ」


【勇者】が彼女たちに自己紹介させたのは、俺たちに気を遣ったわけではなく、肩書きだけで選んだので顔と名前が一致しなかったからだ。


 俺は釣り書きの分類させられたから、彼がどんな基準で彼女たちを選んだのか詳しいんだ。



 *



 正真正銘のお嬢様な彼女たちだが、意外にも魔王討伐の旅に同行することになった。


 ずっと一緒に旅をするわけではなく、立ち寄る予定の都市に先に入って待っている感じだ。

 要所要所で一時合流して、支援をしてくれるらしい。


 最早サイコパスであることが明るみになった【勇者】だが、意外にも性欲は薄いようだ。

 今のところ誰にも手を出していない。

 興味半分で誰が好みか聞いたが、彼は性行為=妊娠もしくは性病のリスクとしか捉えていなかった。「今妊娠されると支援に差し障りがある」と断言していた。

 やはり人でなしだ。


 しかし、そんな事は彼女たちには分かりっこない。

 3人の女性たちは、あの手この手で【勇者】を誘惑しようとした。


 時に足を引っ張り合い、時に実家の力を使い、時に情報戦を繰り広げ……一向に靡かない【勇者】に、彼女たちの苛立ちの矛先は俺に向けられた。

「従者がまとわりついているから上手くいかない」「従者が邪魔をしている」「従者の気が効かない」etc


 俺にとっては良い迷惑。実害を被りそうなので、原因であり上司でもある【勇者】に相談した。


「利用価値があるならまだしも、邪魔になるなら排除するか」

「ええと……そこまでは」

「本当はもう少し生かしておこうと思ったんだがな」


 え? 殺す前提?


「……当初の予定はどんなものだったんですか?」


 聞きたくないけど、ここで聞かなければ後悔しそうだ。


「【賢者】が言ったように、拉致した人間に危険な仕事をさせる連中だ。いつ裏切るとも限らない。権力者の娘は人質として価値がある」

「……」

「生かして人質にするも良し。いざという時は、殺して遺体をばら撒けば、追手は回収せざるを得ないので時間稼ぎできる」


 アウトーーーーーーーー!! 何その本当は怖いクビレース!?


「は、ははは」


 ヤベェ。逃げたい。でも逃げられない。


【勇者の従者】は【勇者】と特別なパスがある。

【勇者の従者】は、常に【勇者】に現在地を捕捉されている上に、離れていても【勇者】から脳に直接通信を送ることができるのだ。

 その逆は、【勇者】が許可しない限り無理。

 とても一方的なコミュニケーションだ。


 普通の仕事なら、上司がヤベェ奴だったら転職することができるが、俺はそれができない。


「彼女たちのことは俺がなんとかするので、勇者様は動かないで欲しい」と誠心誠意お願いした。

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