第3話 はぁ〜
「【勇者の従者】とか、俺本当はずれクジだよな」
場の雰囲気が陰に傾いたので、思わず愚痴ってしまった。
「拙者の【賢者】ですが、基礎能力が<鑑定><翻訳>でした。これ作品によってはデフォで全員持ってるやつでしょ。ハズレスキル扱いで追放されて、成り上がるパターンでしょ」
「あ。それ知ってる。本当は精度が段違いでって奴だろ」
「追放→成り上がりが許されるのは、つよつよコミュ力の陽キャだけですから! 拙者のような陰の者には無理ゲーですから!」
「いや、そんだけ話せるならいけるだろ。そもそも追放する気ないし」
「そもそもヲタの拙者に【賢者】とか皮肉すぎ。確かにメジャーからマイナーまで嗜んでおりますが、そんな『お前こういうの詳しいんだろ』みたいなの嬉しくないですからっ。その点、魔法使いは良いですなぁ~」
「……俺にとっては【大魔法使い】の方が皮肉なんだけど」
【賢者】のチラチラした視線から逃れるように、【大魔法使い】は身じろぐと溜息を吐いた。
少し迷った後、彼は再び口を開いた。
「俺、36歳なんだけど。彼女いない歴=年齢」
あっ、察し。
「アタシそれ知ってるー! 心の声聞こえんの? マジで?」
止めなさい!
「名無しの」
自己紹介以降黙っていた【勇者】が口を開いた。
「娼館行ってこい。この国ならあるだろ」
「勇者様止めてさしあげて!」
【大魔法使い】のライフはもうゼロだ。
こうして召喚初日は、チェリまーー【大魔法使い】のカミングアウトで、思いのほか盛り上がった。
少し思うところはあるが、何だかんだこのメンバーでやっていけそうだ。
*
このメンバーでやっていけそうだと思った翌日、俺は早速後悔した。
召喚2日目から、早速俺たちの勇者一行としての修行が始まった。
俺の能力は、一通りのアウトドアスキルと荷物を異空間に収納できる能力だった。魔法などのワクワク感はないが、案外良いかもしれない。
俺は収納能力の確認のため、色々な物を出し入れしたり、この世界の地理や、魔王討伐の旅に必要な実務的な知識を叩き込まれることになった。
【聖女】は教会で洗礼を受けた後、そのまま療養所で治癒魔法の訓練。
【賢者】は魔王に関する文献で未だ解読できていない古文書があるとかで、資料室に缶詰。
【大魔法使い】、【勇者】は戦闘訓練。
問題があったのはその戦闘訓練だ。
*
俺たちは平和な国で生まれ育った。
農場など特殊な環境でない限り、故意に生き物を殺すことはない。
【大魔法使い】と【勇者】の2人は、国が事前に用意したモンスターと戦うことを強いられた。
小さなモンスターから、徐々にサイズを上げていく。
【大魔法使い】はどうしても割り切れず、結局支援魔法や遠距離攻撃のみを行った。
【勇者】は躊躇なく可愛い愛玩動物に似たモンスターから、凶悪そうな大型モンスターまでバッサリやったらしい。
何が問題だったかというと、その大型モンスター討伐後の【勇者】の発言だ。
彼は「次は人間か?」と聞いて場を凍り付かせたらしい。
英雄の育成どころか、小動物から徐々に殺す動物のサイズを大きくして、最終的に猟奇殺人至る犯罪者育成になってるぅぅ!
教育担当者が慌ててフォローしようとしたが、高位魔族は人型をしていると知らされていた【勇者】は「死刑予定の犯罪者を連れて来い」と言ったらしい。
そしてマジでヤったらしい。
マジかよ。
神様どう見てもチョイスミスだろ!
確かに【勇者】はイケメンだし、医学部入るくらい頭が良いし、運動もできるよ!
でもモラルとかそう言ったところで、勇者適正ゼロじゃん!
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