第2話 ハァ!?
「次に皆様の名前を教えていただきたい。我が国の国賓として登録させていただきます」
「匿名」
「え?」
「匿名希望だ」
真っ先に【勇者】の男性が名乗ったが、それは名前じゃないだろ。
「りょ。拙者はジョン・スミスで」
「おけまる。アタシ、ジェーン・ドウ!」
若者2人が素早く適応。おいおいおいおい。
JKよ。ジェーン・ドウは身元不明遺体にも使われるんだが理解してるのか?
「えっと! 名無しの権兵衛! です!」
リーマンまでこのビッグウェーブに乗ってしまった。
「貴方は?」
心なし宰相の視線が冷たい。俺が従者だからか、そうなのか。
「山田太郎……です」
俺は屈した。チームの和を大事にする日本人だもの。この流れで1人だけ本名を名乗る度胸はない。
かくして全員偽名の警戒心マックスパーティーが結成されたのである。
*
「異世界召喚とは申しますけどね、要は誘拐ですよ。馬鹿正直に本名名乗っちゃうような情弱は、名前で奴隷契約でも結ばされて利用されてポイですわ」
早口ノンブレスで【賢者】が述べた。
「勝手に呼び出して働けとかあり得ないしー。名前呼ばれたくなーい」
【聖女】も一応思うところはあったようだ。
「情報を極力与えたくない」
【勇者】の回答はシンプルだった。
どうやら異世界召喚でテンション上がっていたのは俺だけのようだ。
同胞だと思っていたオタクに真っ先に裏切られてしまった。
「とりあえず自己紹介しませんか? ……名前以外で」
【勇者】は一瞬顔を顰めたが、了承した。
「勇者様は白衣ですが、お医者さんですか?」
「そうだ」
「何科ですか? 専門は?」
「法医学」
「「「「……」」」」
アカン。勇者と真逆な感じだ。いやしかし医学部に入るということは、人の命について強い信念があるに違いない。
「す、すごい専門的な仕事ですね。何故その道を選んだんですか?」
「人間の治療に興味がないから」
アウト。
完全に勇者適正ゼロじゃん。
*
勇者の回答で、自己紹介の空気ではなくなってしまった。
「あのさー。これっていつ帰れんの? アタシ受験生なんだけどー」
「魔王倒すまで帰れないんじゃないですかね」
【大魔法使い】が丁寧に答えた。
「脳味噌お花畑か。そもそも帰還方法があるか疑ってかかるべきでは? もし帰還できても、召喚された時間軸に戻る保証はないですぞ」
「ウッソ最悪! テスト終わった瞬間、勉強したとこ全部忘れるんだよ! そんなん戻っても浪人確定じゃん!!」
「時間軸がズレていた場合、拙者たちは行方不明者扱いで、履歴書に数年の空白ができますからな。日本の社会はレールから外れた者に厳しいですから、全員人生の敗北者ルート確定。オワタ」
「冗談じゃない」
【賢者】の説明に、【大魔法使い】が唸る。
ムカつくが、言われてみれば彼の言う通りだ。浮かれていたが、結構洒落にならない状況かもしれない。
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