第22話 公式認定
その頃魔界では、総司と悪魔とのやり取りの一部始終を見終わっていた。
結論から言えば、ベルとサタンを除いてみな呆気に取られていた。
「す、すごい……」
いつもはおっとりしているグランベルでさえ、驚愕していた。
「あの使い魔……料理ができるんだ……!」
「驚くのそこですか!? 違うでしょ! あの人間、普通に私たちの使う魔法を跳ねのけてるんですよ!!」
「いや~、確かに総司くんは強い魂の持ち主だとは思ってたけど……まさかあそこまでとはねぇ」
一度総司と会っているサタンだったが、魂の強さの底までは見抜けていなかったようで、彼女も驚いていた。それと同時に、更に惹かれていた。
「あの人間さん、強いわねぇ。人間が全員そうなのか、はたまた彼が特別なのか……すっごく気になってきたわぁ」
「あのー、アスモっち。一応確認するけど、あの悪魔って下級じゃないよね?」
「んもう、失礼しちゃう。そこそこできる子って言われたからちゃんと中級クラスの子を貸してあげたじゃない。そのクラスの魔法を打ち破ったのよ、あの人間さんは」
「って、ことになるよねぇ……」
マモンにとっては全く想定外のシナリオだった。
マモンの目論見では、総司が悪魔に屈し、人間は悪魔にとって取るに足らない生物、使い魔にしても何の役にも立たず、一方的に使役する奴隷が妥当という風潮にする予定だった。
しかし、結果は真逆。
今の会議室内は人間への興味でもちきりだった。
「いやぁ、見事だったね総司くん。よかったね、ベル」
「……」
ベルはジッと中央の映像を見つめていた。
彼は確かにはっきり言った。
自分にいて欲しいと。
自分がいない生活は考えられないと。
自分は、ベル様の使い魔だと。
その一言一言が、ベルには嬉しくてたまらなかった。
「ベル? おーい」
「……はっ! え、なになにサンちゃん。ごめん聞いてなかった」
「すっかり総司くんに見惚れちゃって」
「み、見惚れてないってば。ま、まぁ? アタシの使い魔なんだし当然と言えば当然なんだけど……でも、うん。ホントに……ちょっとは、かっこよかった、かも」
「やれやれ……妬けちゃうわね……。さて……おーい、マモンー」
こっちはこっちで口を開けて呆然としたままであった。
「マモンってば!」
「わぁ!? な、なになに!?」
「どうするの? というより、どう落とし前付けるの、この状況」
「ど、どうって言われても──」
「く、はは。ははは……!」
会議室に、聞きなれない笑い声が聞こえてきた。
声の方を見ると、ルシファーが口に指をあてて上品に笑っていた。
「る、ルシファー様が笑ってる……」
「珍しいこともあるもんだねぇ。というかルシファーちゃんが笑うの初めて見たかも……もぐもぐ……」
ルシファーが笑う所を見るのが初めての者もいた。それぐらい彼女が笑うのは珍しかった。
「いや、愉快。あんな人間は初めて見てな。マモン、中々良い余興だったぞ」
「え? あぁ、ども……。余興じゃないってーの……」
「ベル」
「ん?」
「いい使い魔を持ったな」
「……うん!」
ベルは満面の笑みで頷いた。
「えーと……一応多数決で決を取りましょうか。人間と接するのは友好的かつ有益か否か。是だと思う者は手を挙げてください」
レヴィの問いに、全員が手を挙げた。
「ふっ……。決まりだな。これからは人間にも意識を向けるとしよう。今回の会議はこれで終了とする。みな、ご苦労だった」
ルシファーが会議終了の合図を告げた。
みな伸びをしたり早々に席を立ったりと様々だ。
「それじゃあねベルちゃん。今度使い魔くんの料理食べさせてね~」
「うん、気が向いたら一緒に来るよ~」
手をひらひらさせながら、グランベルは部屋を出て行った。
「私もすごい気になったわぁ。今度紹介──」
「してもいいけど、変なことしないでよね」
「あらら……予防線貼られちゃった。まぁいいわ。それじゃあね、ベルちゃん」
アスモデウスはうふふ、と怪しげな笑みを浮かべながら去っていった。
「……流れで賛成してしまったけれど、人間ですか……。ルシファー様をも虜にする存在……調査する価値はありそうですね……」
ブツブツと呟くレヴィ。彼女も人間に対して興味が出てきたみたいだった。
他の悪魔たちがあいつ何言ってんだ、といった視線を向けていると、ようやく気付いたようだ。
「……はっ! で、では私も失礼させていただきますのでっ。お疲れさまでした!」
礼儀正しく一礼してから、レヴィは部屋を後にした。
部屋に残ったのは、ルシファー、サタン、マモン、そしてベルだった。
マモンは既に意気消沈しており、体育座りで落ち込みまくっていた。
それを見かねたサタンが優しく話しかけた。
「ねぇマモン。なんであんなことしたのよ」
「……だって、最近ベルと絡み減ってたし、ずっと人間界にいて帰ってこないし、いつの間にか人間界で使い魔なんて作ってるし」
「え? なになに? 要は寂しかったってこと??? まさかねぇ、あの超陽キャでいつも友達に囲まれて何不自由ないマモンがそんな事ある? ねぇねぇ」
ここぞとばかりにベルは煽り倒した。
「こ~らベル、あんまりイジメてあげなさんな」
「……そ、そーだよっ! 寂しかったの! だからちょ~っとだけイジワルしたんです悪かったですごめんなさい!!」
「うわっ。こっちは清々しいほど訳わからん逆ギレ笑」
「はぁ……メンドクサ~イ。それならアタシに直接来ればいいのに」
「だ、だって久しぶりに面と話すのハズいし……」
「いや乙女か」
「ま、今回は下僕くんにケガとか無かったから大目に見てあげる。次同じ事したら、ぶつからね」
ベルは可愛らしく握りこぶしを作った。
「うっ……分かったよぉ」
「よしよ~し、ちゃんと謝れて偉いねぇ」
「子ども扱いすんなし!」
「……それと、魔界に帰ってきたときはちょっとは遊びに付き合ってあげてもいいよ」
「うぅ……ベルぅ……」
ひっくひっくと涙をこらえながらマモンは反省していた。
鼻水が出ていたのでサタンが優しく拭き取ってあげた。
「なんだ。殺し合いはしないのか」
「わっ! ルーちゃんまだいたの?」
「ルーちゃんは2人きりの時だけに──まぁいい。本気のやり取りが見れるかと思って待っていたが、期待外れだった」
「そんな野蛮な事しませ~ん」
「ふっ。では、私もこれで失礼する。ベル」
「ん?」
「今度はあの使い魔も連れてくるといい。存分にもてなしてやろう」
そう言って、ルシファーは去っていった。
「だってさ、どうするのベル」
「ん~、下僕くんがハーレム状態になりそうな気配がするし、本音を言うと遠慮したいかなぁ」
「あはは。総司くん真面目だし悪魔にモテそうだよねぇ」
「モテるのは困るけど……でも、ホントに、とことん真面目で、誠実で、お人好しで、ちょっぴりカッコいい、よわよわな普通の人間。それで──アタシの、自慢の使い魔!」
こうして、第32834回の魔導会議はいつもとは違いながらも、無事幕引きとなった。
ベルは急いで人間界へと戻る支度を進めるのだった。
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