第5.5話 ブラック企業

「おい片山! どうなってんだこの仕様!」

「す、すみません!」

「ちっ、使えねーな……なんでここ最近こんなに忙しいんだよ。ったく……!」


 総司とベルが悠々自適に生活している間、総司が勤めていた部署はてんやわんやだった。

 それもそのはず、総司が抜けてからというものの、仕事がうまく回っておらず、新しく人を雇い、仕事を任せてもその膨大な仕事の量に耐えきれず、止めていく人たちが後を絶えなかったからだ。


 そのせいで大田リーダーはイライラしていた。

 部下たちもそれを察して、リーダーには近寄らないでおこうという空気になっていた。


 電話が鳴り、一人の社員がとった。


「はい……あ、おはようございます。……え? ……そ、そうですか。お大事にしてください」


 そう言って電話を切った。


「おい。何の電話だったんだ?」

「え!? い、いやその……前入った中途の人、体調が悪くなったというかその、精神的に病んじゃったみたいで……」

「はぁ~~~。またかよ。根性ない奴多すぎだろ。高坂よりも使えないヤツがこんなにいたとはな」


 その会話を聞いて、こそこそと部下たちは話し始めた。


「高坂さん、よくあの仕事の量をこなしてたよな」

「あぁ。あの人こんな会社にいるのがおかしいぐらい、仕事できる人だったしな。聞いた話だけど、何度も引き抜きの誘いがあったみたいだぜ」

「納得だわ。あの人があってのプロジェクトだったもんな」

「おい! 仕事中にうるせえぞ! 喋ってねぇで仕事しろよ!!」

「「す、すみません!!」」


 部署内の雰囲気は最悪だった。

 定期MTGの時などは特にひどい。

 進捗が順調なことはほとんどなく、大田の怒号が飛び交い、誰も発言したがらない。

 当然だ。口を開けば矛先がそちらに向き、怒られることは避けられないからだ。

 結果、報連相がおざなりになり、仕事全体が全くうまくまわっていないのだ。


 プルルルル。

 電話が鳴った。近くにいた男性社員が受話器を取った。


「また退職代行からだったりしてな」

「先週退職代行から電話あったよな……。さすがにもう人減るとヤバいぞ……」


 何人かの社員の目が受話器を取った社員に向けられる。


「はい……はい? ……わ、分かりました。すぐ向かわせますので少々お待ちください」


 その後、男性社員は内線で別の部署に電話をかけていた。

 その数分後、社内はどことなく騒がしくなっていた。


「電話、何だったんだ?」

「いやそれが……俺にもあんま分かんなくて……ただ、責任者と話がしたいって、その……労基だったかも」

「まじ……?」


 それからさらに数分後、会社内はさらに慌ただしくなるのだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る