第8話 徹夜でゲームだっ!
「下僕くん、何か遊ぼうよ~」
「えぇ、いいですよ」
珍しくベル様が起きている日だ。
外も晴れているし、出かけるには最適な日だった。
「どこか行きますか?」
「いや~、今日は引きこもりたい気分かも~」
「わ、分かりました」
うん、困った。
何せ家の中でできる遊びなど全くと言っていいほどなかった。
会社で仕事まみれになった日から、趣味と呼べるものは無くなってしまった。今住んでいる家には何も──。
いや、待てよ?
「ちょっと待っててください」
「……? は~い」
確かこの辺りの引き出しに……あった。
何年か前に買ったものだが、ゲーム機とソフトが何本かある。
社畜になる前はゲームをやることも多かったが、社畜になってからはどうせ遊ぶ時間ないし、場所も取るしで、結果引き出しにしまっていたんだった。
「ベル様、ありましたよ」
「おぉ~! switchじゃん!! 下僕くんいいもの持ってるね~」
「最近は全然やれてなかったですけどね」
こうし膨大な時間ができた今、ゲームをやるにはもってこいかもしれない。
色々と準備をして、電源を付ける。
「ベル様はゲームはやったことあるんですか?」
「ないよ? 動画は見たことあるけど、実際にやったことはないんだよね~。あ、スマブラあるじゃん! これやりたい!」
「はは、いいですよ」
多種多様なキャラを操作して戦う対戦ゲームだ。
一時期は寝るのも惜しんでやり込んだこともあったっけか。
ソフトを入れ、ゲームを起動すると懐かしい画面が映し出された。
「うわ~、久しぶりだなぁ」
「お? 下僕くんは結構強い感じ?」
「一応、ネット対戦ではVIP……えっと、プレイヤー上位のレベルには到達したことありますね」
「おぉ~、やるじゃん」
「とりあえず、やり方教えますね」
ベル様に一通り操作方法を教える。
飲み込みが早く、一度教えたらすぐに操作に慣れていた。
「ふむふむ、オッケ~。だいたいわかったよ。じゃあ下僕くん! バトルしよっ!」
「いきなりですね……いいですけど」
「手加減はいらないからね? 本気の下僕くんを倒したいからねっ」
「わ、分かりました」
ど、どうすべきか……。
ここは全力を出して負かすのは主人に対して失礼か……。であるなら使い慣れてないキャラを選んで接待プレイをした方が……。
チラッとベル様の横顔を見る。
めちゃくちゃキラキラした目で待ってる……!
これは……要望に応えよう。
僕は一番得意なキャラを選択した。
僕も大人だ。時には非常にならなくてはいけない。
ベル様には、人間界の厳しさを知ってもらわねば!
ベル様もキャラ選択を終え、いざ尋常に──。
レディ──ファイト!!
「またアタシの勝ち~!」
「いや、つっよ……」
結論から言うと、ボロ負けでした。
初心者を数分で卒業したベル様は、的確にこちらの弱点をつき、必ずと言っていいほど最大火力のコンボでガン攻めされ、見事に敗北。
動画でしか見たことないような魅せプレイ、通称魅せプまでお披露目する始末。
「そんな……下手なりにやり込んだ僕の努力が……」
「にひひ~、主人としてみっともない姿は見せられないからね~」
「……もう一回いいですか?」
「もちろん♡」
その後、何度も泣きの一回をしたが、結局勝てず……。
というかやるたびにベル様との差が開いている気がする。
一度勝負そっちのけで、ベル様の強さを分析しようと手元を見ていたが──。
「や~ん♡ 下僕くんに視姦されてる~。おまわりさ~ん♡」
「い、いや! これは立派な戦術で──」
「はい隙あり~」
またやられてしまった。
悔しい……が、勝てない。
そして何度もやっているうちに、気づけば夕方頃までプレイしていた。
「……参りました」
「にひひ、一回も勝てなかったね」
「ベル様が強すぎるんですよ……うわぁ、もう夕方か。久しぶりにこんなにゲームやりましたよ」
「アタシも昼寝もしないでこんなに起きてたの久しぶりかも~」
確かに、この時間ベル様は寝ていることが多かった。
寝ずにゲームをしていたということは、それだけ楽しかったという事だろう。
ゲーム機を引っ張り出した甲斐があったというものだ。
「対戦はもういいや。次は協力プレイしよっ」
「でもそろそろご飯作らないと……」
「今日は簡単にインスタントとかにしようよ~。それよりほら、これとかどう? これも気になってるんだよね~。下僕くんはどっちがいい?」
ベル様の目はキラッキラしている。これは断る方が失礼だろう。
それに何より──自分もゲームに没頭したいと思っている。
「じゃあ、こっちやりましょう。僕もまだやったことないんで」
「お、いいねいいね~! やろやろ!」
「じゃあ、ゲームに欠かせないヤツ持ってきますね」
「欠かせないヤツ?」
普段の一人暮らしなら絶対に買わなかったが、念のため買っておいてよかった。
ポテチ、チョコ、その他諸々のお菓子。そして炭酸飲料、エナドリ。
「お~! どしたのこれ!? お菓子パーティじゃん!」
「ホントは健康面に気遣って少しずつベル様には食べてもらおうと思ってたんですけど、ゲームをどっぷりプレイするなら、こういうのもアリかなって」
「やった~! 下僕くん好き好き♡」
想像以上に喜んでくれてよかった。むにゅむにゅと腕に柔らかい感触が当たっており非常に理性がヤバイ。
「そ、それじゃやりましょうか」
「うん!」
それから、ベル様と協力プレイでダンジョン攻略ゲームをプレイした。
ほとんどベル様にキャリーしてもらうような形だったが、2人でしか攻略できないマップもあったりして楽しかった。
気づけばあっという間に日付が変わり、更には日が出るまでプレイし、ゲームのエンディングを見ることができた。
「や、やり遂げましたね……」
「さすがに疲れたぁ~」
こんなに何かに没頭したのは何時ぶりだろうか。
1人だったら絶対にこんな事はなかった。
これもベル様のおかげだ。
「ベル様、ありがとうございま──」
とん、と肩に軽い感触。
「すぅ……すぅ……」
エンディングの途中だったが、すっかり眠ってしまった。
起こさないように自分も楽な態勢を取る。
「うわ……急にめちゃくちゃ眠たくなってきた……」
そして、ベル様と一緒に深い深い眠りに落ちるのだった。
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