第43話 友と敵
「ハハハハハ! 楽しいなぁ!?」
「どけって言ってんだろーが!!」
俺は叫びながらジゼルを攻撃する。斬撃の風を放ち、拳を繰り出し、時には他の魔法を使って殺す気で攻撃する。しかしジゼルは唇を歪めて笑って避ける。とてつもなく不快だ。
こんなことをしている場合ではないことは分かっている。だがこいつの転移スキルのせいこの場所へ引き戻される。カーラたちの元へいけない。
(くそ、どうする? 何をすればこいつを引き剥がせるんだ?)
あいつの攻撃は俺には攻撃は届かない。けれど俺の攻撃も転移のせいで避けられる。泥沼、イタチごっこ。このままじゃ時間だけを無闇に浪費してしまう。
俺が考えているとジゼルが炎の槍、水の剣、雷球を同時に生成して放ってきた。
「邪魔ッ!!」
俺はその全てを嵐壊の風で吹き飛ばす。ジゼルはその一連の行動を観察していた。するとニヤリと笑ってもう一度同じ攻撃を仕掛けてくる。
「何度やっても無駄だッ!!」
放たれた魔法を同じようにを吹き飛ばす。炎の槍と水の剣は風で斬り刻んでバラバラに、雷球は軌道を逸らし、はるか上空へ飛ばした。
「……あいつはどこに行った?」
いつの間にかジゼルが消えていた。俺は魔力探知を広げる。カーラ、ジギン、ベイトの魔力を学園の中から、そしてジゼルの魔力を更に遠くで感じた。
「なんだ? 何をやろうとしているんだ?」
あいつの行動は予測が出来ない。何かをやろうとしてるのは分かる。けれどそれが何かは分からない。
「いや、どうでも良い!」
俺はチャンスだと思いすぐに魔導学園に向かう。今考えるべきはカーラたちを守ることだ。しかし俺はあることに気づいた。
「なんだ?」
辺りの景色がどんどん暗くなっている。その影はどんどん濃くなっていく。上を見ると何か、巨大な物が降ってきている。
「っ!? 岩!?」
上から巨大な岩が降ってきている。あいつが持ってきたのか? いや、それよりあんな物が下に落ちれば甚大な被害が出る。俺は嵐壊の風を全開で回して岩を限界まで細かく斬り刻む。
俺が岩を刻んでいるとあいつの声が上から聞こえた。
「ほら、周りもちゃんと気をつけろよ」
「っ……くそ」
周りを見ると大量の炎弾が配置されていた。右手の風は岩を刻んでいるのに使っている。左手を使えば弾くことは出来る。
だがそれをするとーー
指を鳴らす音が聞こえる。同時に散りばめた炎弾が俺に向かってくる。俺はやむを得ず左手の風を使って防御する。 しかしジゼルはそこを見逃さなかった。
「両腕使ったな?」
「くそ……」
いつの間にかジゼルは目前にいた。俺は再び嵐壊に魔力を流したがそれでも間に合わなかった。俺は顔面に炎弾を叩き込まれた。
「っ……痛ぇ」
自分の顔から煙が出てるのが分かる。至近距離で喰らったからすげー痛い。だが痛いだけでそこまで大きなダメージではない。
「っ!! ハハハっ! まじかよ、普通は痛いだけじゃ済まないだろ」
ジゼルは驚きと嬉しさが混じった顔で俺を見る。俺はそれどころじゃない。顔は痛いし、カーラたちの所へ早く行かなきゃならない。
どうやってこいつを撒こうか考えているとジゼルは俺を見て何かを考え出す。
「それにしても………やっぱりお前変わってるな。まずその武器、『ウィーパー』が組み込まれてるな。だがなんでそんな中級魔法を? 戦い方もそうだ。戦い方自体は至って普通。凡人のそれだ。意外性もあったがそれは武器の特性。なのに肉体の強度、魔力量は化け物レベル。だがどうやって? 何をしたらあそこまでのーー」
「何言ってんだお前、気持ち悪ぃ」
急にぶつぶつと話し始めるジゼルに引いてしまう。ジゼルは俺の言葉で我に返ったのか手をひらひらと振る。
「あー、悪い悪い。お前について考えてた」
「まじできめーな」
「まぁ良いじゃねえか。それにもう俺の勝ちは決定した」
「………そりゃ、どう言うことだ?」
ジゼルの言葉に一瞬心臓が大きく脈打った。まさかバレたのか? 俺は動揺を隠してなるべく平静を装う。けれどジゼルには意味がなかった。
「ククッ。とぼけるなよ。お前のその武器は速度はねぇが威力が高い。インパクトの瞬間に風圧を利用してるな。しかも風の防御もすることができる。まさに完成された武器………のように見えるが実はそうじゃねぇんだろ?」
「………」
「………沈黙は肯定と取るぜ? お前のその武器は魔力を流して攻撃と防御に使ってるんだろ? だがそれも右手と左手の2回だけだ。両方を同時に使うとそこからはもう一度魔力を流す為に一瞬止まる。違うか?」
「………正解だ」
既に俺の武器の特性、その弱点も看破されている。それにこの武器はそう何度も頻繁に使える物じゃない。確かにこのままだと俺は勝てないかも知れない。
だがそんな考えもすぐにどうでも良くなった。
「!! 発動したのか!?」
ペンダントに込められた魔法が発動したのが分かる。それはカーラに何かあったと言うことだ。俺はすぐに魔導学園まで飛ぼうとする。
けれどそれはジゼルが許さない。再び俺の前に立ちはだかる。
「だから俺に集中しろって言ってんだろ? あいつらのことを気にしてる余裕はお前にないだろ」
「うるせぇ!!」
俺は嵐壊に全力で魔力を流して周りの全てを吹き飛ばす。空にはもう雲一つない。俺は焦りと焦燥感に駆られて急いで魔導学園に行く。
しかしジゼルが俺に雷と水の弾を叩き込んで妨害する。
「本当にやべー魔力量だな。それだけになんで中級の魔法なんか使ってんのか余計に分からねぇ」
「………」
「………やっぱり両腕を使わせないとダメージは通らないか」
「……良い加減にしろよ。お前」
こいつはどこまでも邪魔をする? 怒りのせいで頭がどんどん熱くなる。焦り、不安、怒り。いろんな感情がぐちゃぐちゃになって頭がおかしくなりそうだ。
俺はジゼルを見る。ジゼルと目が合った瞬間、あいつは驚いた顔になったがすぐに楽しそうに笑う。
「ハハハッ! やっぱりお前最高だ!」
「……もう良い、黙れ」
俺は見えない空間に手を入れると波紋が生まれる。取り出したのは薄い紫色の水晶玉。
それを握り潰して砕く。砕けた水晶玉は粒子となって消える。
「……一体何がしたいんだ?」
ジゼルは俺の行動が理解できていない。眉を八の字にまげている。
「……さっさと死ね」
俺はジゼルに向けた指を下に曲げる。ジゼルは警戒して距離を取るが意味はない。
「っ!? ガッ!?」
ジゼルの肩と背中から血が噴き出る。刺さっていたのは剣だ。数本の剣が刺さっていた。
ジゼルは上を見る。
「はは、まじか……?」
ジゼルは固まっている。ジゼルが見上げた空はあらゆる武器で覆い尽くされていた。
槍、斧、剣、刀、様々な武器がこの国全体を覆っている。それは最高傑作を作り出すまでの過程で生まれた武器たち。幾千、幾万と試行錯誤を繰り返して作られた武器だ。
「こんな奴に使うことになるとはな」
最悪だ、出来ることならこっちは使いたくなかった。こっちは嵐壊と違って一回切りの、本当の切り札だったのに。だけど、しょうがないよな。
友達を助ける為だ。
「これは、流石に予想外だな」
「……じゃあな」
「っ!? やべぇ!」
ジゼルは転移で逃げる。だけど逃げ場なんてない。どこにいようと決して逃げることなんて出来はしない。
「ガッ!?」
刀がジゼルの腕を捉え、血で赤く染まる。貫通した刀はボロボロと錆びれて崩れていく。
続けてあらゆる武器が凄まじい速度でジゼルに襲いかかる。俺は少しだけの武器を待機させ、他の武器たちをジゼルに向ける。
「やっべぇ! これはまじでやべぇ!」
ジゼルは逃げる。しかしその体は着実に負傷していく。
「ぐっ!」
ジゼルから苦悶の声が聞こえる。槍が足に刺さり、斧が脇腹をえぐる。もはや致命傷と言っても良いだろう。
俺は上で待機させている武器を魔導学園に放つ。
そしてジゼルにトドメを刺すためをさす為に更に多くの武器を放つ。
「ぐっ……ここまでだな。悪いな、ベイト」
ジゼルはそう言い残してその場から姿を消した。またしても逃げた。
逃げられた。
「……逃すと思ってんのか?」
2度も同じことをして俺がなんの対策もしてないとでも思ったのか? なんの為にお前にこの切り札を使ったと思っているんだ。
あいつの体には崩れた武器の残骸が残ってる。
『魔法式・起爆』
呪文を唱えると他の武器たちが一斉にまばゆい光を放つ。そのまま上空の武器は轟音と共に爆発した。
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