第42話 日常の終わり
学園のチャイムが鳴る。最初の授業が始まることを告げる鐘の音だ。
「では授業を始めます」
今日もいつもと同じようにカーラが教壇の前に立って授業をする。この授業も明日で最後だ。そう思うとどこか寂しいような気持ちになる。
「今回は魔法についてです」
カーラは巨大な黒板にチョークを浮かせてカリカリと書いていく。5つの基本属性、合成魔法について、オリジナル魔法の優位性とその危険性など。魔法に関する授業がどんどんと進んで行く。
俺はカーラに頼まれてたまに魔法を使うくらいだ。あとは生徒と一緒にカーラの授業を聞く。カーラの授業は分かりやすくて結構タメになることが多いから退屈ではなかった。
「はい、本日の授業は終わりです。お疲れ様でした」
授業が終わった。このあとは本来なら演習場で魔法の練習なのだが、今日はこれで終わりらしい。なんでも今日から学園長が少しの間出張に行くらしい。それに伴って授業は短縮させる方向になったとか。
ルキナは授業が終わると同時に席を立って俺の元へ来た。
「お兄ちゃん! 今日はこれで終わりだし一緒に外を回ろうよ!」
「外って、学園の外ってことか?」
「そうだよ、良い?」
ルキナはニコニコしながら聞いてくる。しかし、俺たちは学園の外に出ても良いのだろうか? そこら辺は何も聞いていないから分からないな。
「一応聞いて見てからでも良いか?」
「分かった!」
本当に良い子に育ってくれた。反抗期なんかも今の所は来ていないし、出来ればこのまま来ないままでいて欲しい。
「じゃあちょっと聞いてくるからな」
俺は先生たちが集まっている部屋に行くために部屋を教室を出ようとする。けれど出れなかった。人が教室の扉の前に立っていた。金髪長髪イケメンが俺たちの教室の前に立っていたのだ。
「ええと、ジギンさん? どうしたんですか?」
この人はジギン、俺たちが講師をしている時にも色々と教えてくれたり、色々と良くしてくれた人だ。
俺がジギンさんを見ているとカーラと俺を交互に見る。俺とカーラに何か頼み事だろうか?
「いえ、それほど大事な用ではないんですが、カーラさんとグレンさんに今一度謝罪をしようと」
「あー、なるほど」
この人は前にも自分の生徒が迷惑をかけたと分かると謝罪しに来た。年下であろう俺たちに頭まで下げたのだ。後でカーラに聞いたところ、この人は自分が在学している時から人格者として有名だったらしい。
「もう充分に謝罪は受け取りました。なので大丈夫です」
俺は一度謝罪してもらったので断った。この人は何も悪くないのにそう何度も謝罪させる訳にはいかない。
「いえ、今回謝罪するのは私ではなくベイト君です。彼も思うところはあるらしく、2人に謝りたいと私に頼んできましてね」
「……なるほど、そう言うことですか」
俺はカーラと顔を見合わせる。ここまでこの先生が生徒の気持ちを汲んでいるのに流石に行かないのはジギン先生に悪い。カーラも理解してくれたのか俺の目を見て大きく頷いてくれた。
「わかりました」
「ありがとうございます。少し歩きますが良いですか?」
「はい、大丈夫ですよ」
カーラが返事をする。俺も大丈夫だと同意した。ルキナには悪いが少しだけ待っていてもらおう。
「ごめんな? ちょっと行ってくる」
「分かった……早く戻ってきてね?」
ルキナは少し落ち込んでいるが、納得してくれているようだ。外に行けたら何か買ってあげよう。
「では、行きましょうか」
俺たちはジギンの後をついていく。部屋はそこそこ遠いらしい。この間に色々話を聞いておこう。
「……ジギンさんって幾つくらいなんですか?」
「そうですね……大体24辺りでしょうか?」
見た目通り、随分と若い。教師として何年働いているんだろうか?
俺はそこから色々と話を聞いた。何年働いているかとか、特に手を焼いた生徒とか色々な話をしているとジギンが立ち止まる。目の前に部屋があった。どうやらここがそうなんだろう。
「では入りましょうか」
ジギンがドアを開けてくれた。俺たちは中に入る。暗い部屋の中に白の制服を着た1人の生徒が机の上に座っていた。
生徒は俺たちが入ってきたのを確認すると机から降りてこちらへ歩み寄る。
「カーラさん、待っていましたよ。わざわざ来て頂いてありがとうございます」
カーラは生徒が俺のことに一切触れなかったのか少し不快な感情を顔に出す。それはジギン先生も一緒だった。ジキン先生は少し呆れたように言う。
「ベイト君、まずはグレン先生でしょう。あなたが最初にするべきことは彼への謝罪です」
「そうですね。その前にジギン先生、お二人を連れてきていただきありがとうございます。そしてグレン先生」
ジギンはこちらへ振り向くが部屋が暗いせいで顔がよく見えない。
ベイトと呼ばれた生徒は喉を鳴らして笑っていた。
「死ね。ばーか」
「「「っ!?」」」
およそ誰も想定していない言葉が飛んできた。こいつは一体何を考えているんだ? こんなことを言えば余計に怒られることが分からないのか?
しかしそんな思いも次の瞬間には消し飛んだ。
俺はそこで気づいた。この部屋には俺とカーラ、ジギン先生、このベイトと呼ばれる生徒。そしてもう一つ、魔力を限りなく小さくした気配があったことを。
俺は何かがおかしいと思い2人に向かって叫ぶ。
「2人とも! 今すぐこの部屋からーー」
「遅ぇよ」
「っ!?」
気づけばその気配の人間は俺の前に急に現れて肩に触れている。そしてこの声、この魔力。覚えがあった。俺は自分の身に何かが起きることを察知し、せめて今出来ることをする。
「カーラッ!!」
カーラの名前を呼んで首につけているペンダントを千切って投げた。そして投げたと同時に視界が切り替わった。足場がなくなったような感覚。咄嗟に飛翔魔法を使う。
俺は気づけばフードを被った男と共に魔導学園から少し離れた上空にいた。
俺は怒りを込めた目でフードの男を見る。
「お前、前に俺とルキナを襲ってきたイカれ野郎か」
「ああ、そうだ! まさかこんなに早く再会出来るなんて嬉しいぜ!」
男はまるで俺を歓迎するかのような声でフードを脱いだ。思わず男の顔を見て目を見開いてしまう。その男をギルドの掲示板で見たことがあった。
「お前……そういうことか」
「やっぱり知ってたか。有名人は辛いな」
「当たり前だろーが」
燃え盛るような赤い髪、首元には炎のタトゥー、最速の魔導士と讃えられたランク10冒険者。【神速】の二つ名を賜った者。
「たしか……ジゼル・マックレーだったか?」
「はははっ! フルネームで呼ばれたのは久々だな!」
ジゼルは嬉しそうに笑う。けれどこいつがここにいることはおかしい。俺はジゼルに疑問をぶつける。
「なんでお前がここにいる? お前は確か半年前に投獄されたはずだ」
こいつは罪もない一般人の村を焼いて捕まったとギルドに提示されたのを見た記憶がある。なのになんでこいつがここにいるんだ?
俺が考え込んでいるとまるで心を読んだかのようにジゼルが伝えてくる。
「そんなの簡単だ。投獄生活に飽きたから出てきた。そもそも俺を拘束するなんて無理な話だろ?」
「……ッチ。じゃあ次の質問だ。なんでお前はあの生徒といた?」
こいつの目的が分からない。なんであの生徒と組んでいたのか、こいつ程の力があるならばそんなことをしなくて良いはずだ。
ジゼルは頭を掻いて退屈そうな顔になる。
「別に? 俺はあいつが作り出した魔法に興味があっただけだ。俺はあいつを生かす代わりにあいつが作り出した魔法を研究するだけの関係だ」
「作り出した魔法?」
「ああ、そうだ。あいつが作った魔法は相当つえーぞ? 魔導士の天敵みたいな魔法だ」
「は? それはどんな魔法だ?」
嫌な考えが頭を廻る。念の為にペンダントを渡したがそれでも不安は大きくなる一方だ。
ジゼルは指から火を出して消す。それは何かを示していた。
「作った魔法の名前は
「なっ!?」
「あいつは馬鹿だけど作った魔法自体はすげーよなぁ。あー、あとなんて言ってたかな? これで確かなんかを自分の物にするとか言ってたような……」
「!! くそっ!」
不安が当たった。こいつの狙いは俺だが、あの生徒の狙いはカーラだったのだ。俺は急いで戻るために全力で魔導学園まで飛行する。
しかしジゼルが俺の目の前に現れ、炎で自分ごと囲んで妨害する。
「おいおい、どこに行くんだ?」
「くっ!」
するとあいつは自分の後ろに火の槍を何十本も生成する。ジゼルは魔力を解放し、威圧感が膨れ上がる。明らかに前に戦った時とは別物だ。
ジゼルは火を様々な形にして遊んでいる。
「お前は俺に集中しろよ。あいつらはあいつら、俺らは俺らで楽しもうぜ」
「クソッ!『開門!』」
”門”を開け、嵐壊を取り出し魔力を流す。今はこいつに構っている暇はない。一刻も早くカーラとジギン先生の所に行かなければならない。
「ああ! それだ、それだよ! さぁ
「うるせぇ、そこをどけっ!!」
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