第41話 戦闘訓練


「では、授業を始めます。準備は良いですか?」


「「「「「はーい!」」」」」



 俺たちは生徒と一緒に演習場にいる。カーラの落ち込みは直った。とりあえずは安心だ。


「では、1日を通して戦闘訓練を行います」


 打ち合わせの時にも言っていたが今日は演習場を使って戦闘訓練をするらしい。当然、俺も参加することになっている。



「前半はグレンさん。後半は私で行います。分かっていると思いますが、訓練とはいえ気を抜いていたら怪我をすることもあります。くれぐれも気を抜かないように」


「「「「「「「はーい!」」」」」」」


 みんな元気が良い。俺も油断しないように気をつけないとな。っと、その前に準備運動でもしておこう。



 俺は肘を伸ばしたり、手をぷらぷらさせたりする。準備運動が終わらせると生徒の内の1人である短髪の男が杖を持って俺の前に立つ。やる気はすごくありそうだ。他の生徒たちは端に寄っている。邪魔をしないため為だ。


「では、始め!」


『ロックボール!』


 カーラの号令と共に仕掛けてきた。拳と同じくらいの石が飛んでくる。先手を取ろうとするのは悪くない。悪くないがーー


「ちょっと威力が弱いな」


 俺は腰に携えた剣で斬り落とす。魔力があまり込められていない石は脆いから簡単に斬れてしまう。どうせ選ぶなら斬ることの出来ない火や風の魔法の方が良いだろう。


「くっ! 『ファイアボール!』」


 続けて火の玉を繰り出してきた。けれど焦って発動したせいで魔力が充分に込められていない。速度もなければ火力もない。


『ウォーターボール』


 俺は向かってきた火の玉を水の玉で消火した。続けて自分の魔法が消されたことで男の生徒は固まってしまった。俺はその隙に間合いを詰める。



「ウィ、『ウィンドカッター!』」


 目前まで来た俺に対して風の刃を放ってくる。最後まで諦めないのは良いことだが、ここまで詰められたのなら魔法使いがやるのは迎撃ではなく、距離を取ることだ。



 じゃないとーー


「よっ!」



 俺は宙返りをして背後を取る。そして男の子の肩に手を置いて告げる。


「はい、終了だ」


「くっ、くっそ〜! 先生ずりぃよ! 魔導士なのに距離を詰めてくるなんてさ!」


 確かに魔導士は距離を取って戦うのが普通だ。それが魔導士同士ならばお互い距離を取って強大な魔法をぶつけ合うことが多い。

 けれどーー


「だけど相手が剣士だった場合、斥候だった場合はこんな風にせめてくるぞ?」


「………分かったよ。はぁ、戦うって難しいなぁ」


 そして短髪の生徒は頭を掻いて他の生徒と交代する。次に入ってきたのはルキナだった。


「よろしくお願いします!!」


「よろしくお願いします」


 俺もルキナに合わせて礼をして構える。まさかこんなに早くルキナと手合わせをするとは思わなかった。


「良し! じゃあ行くよ!」


「ああ、いつでも来い!」




 そこから一通りの生徒と戦った。魔導士の戦い方は人の数だけの通りがある。距離を空けて戦う者、あえて距離を詰めて来る者、細かい魔法を撃ってくる者、逆に大きな魔法で一発逆転を狙う者など様々だった。



「よし、じゃあ俺の分は終わりだ。こっからはカーラ先生がやるからな」


 俺は演習場の隅っ子に寄った。代わるようにカーラが中に入る。ここからは俺が見学だな。


「では最初に対戦した方からお願いします」


「は、はい!」


 そして短髪の少年が中に入っていく。俺の時とは打って変わって緊張していた。まぁ、元とは言えここの主席であり、今や高ランク冒険者であるカーラと戦うのだから当然か。


「では、合図で戦闘開始としましょうか」


 カーラは俺に視線を向ける。あ、そう言えば合図出さなきゃいけなかったな。


「えー、はじめっ!」


『ファイヤボール!』


 俺の合図と同時に生徒の少年が魔法を放つ。今度は岩ではなく火の球だった。ちゃんと学んでいるんだなと思う。

 しかしカーラは上に飛んで難なく回避して空中に留まっている。


「くっ! ふんぬ!」


 少年もふらつきながらも空を飛ぶ。今の浮遊から見るにあそこから移動はほとんど出来ないのだろう。まだ空を飛ぶことには慣れていないのが分かる。

 空を自由自在に飛ぶのに必要なのは慣れ、たくさんの経験が必要になるからな。


「では、行きますよ。『ウィーパー』」


 風の膜がカーラを包み込み、次第に風はゆっくりと膨張していく。ある程度大きくなると風の膜は解除され、周りに突風を引き起こした。


「う、うわっ!」


 少年は突風を受けたことで体勢が崩れて落下する。けれど地面に激突することはなかった。カーラが風の魔法を少年の下に展開させていた。そのまま少年はゆっくりと演習場に下ろされた。


 カーラも空からゆっくりと降りてきた。その所作はとても美しくどこか儚くもあった。カーラは少年を見て話しかける。


「お疲れ様でした。慣れていないならば空は飛ばなくても良いんですよ?」


「…………」


 少年はカーラを見てぼーっとしている。カーラは話を聞かれていないと思ったのか少しだけムッとした顔になる。


「……聞いていますか?」


「あ、はい! 聞いてます!」


「それなら良かったです。では次の方どうぞ」


「あの、ありがとうございました!」


 するとカーラは少年を見て少しだけ微笑んだ。少年は顔を赤くして急ぎ足でクラスメートの所に戻った。カーラの最初に街に来た時とは印象が随分と違う。なんだか丸くなった感じがするな。


 そんなことを考えている間にルキナがもう演習場の真ん中にいる。どうやらやる気満々だ。


「次は私です! お願いします!」


「やる気充分ですね。では合図をお願いします」


「はじめっ!」


 合図をかける。カーラは空を飛びルキナはその場で魔力を溜め始める。俺がルキナと戦った時は速攻で距離を詰めた。まだルキナは戦闘経験が少ないから色々と不足している。

 だから簡単に勝てたが本当の魔導士同士ならどうなるんだろうな。




「はぁ、はぁ」


 ルキナは肩で息をしている。カーラは空に浮いており汗1つかいていない。まだまだ余裕だ。結果だけで言うとカーラの完全勝利だ。ルキナの魔法を回避したり、魔法で防御したりで完封していた。


 カーラはルキナの魔力がほとんどないことを確認すると下に降りて来て戦いをやめた。カーラは嬉しそうに笑う。


「ここで終わりにしましょうか。ルキナさんは素晴らしい魔力量です。あとは魔力を込める量を調節すればもっと強くなりますよ」


「はぁ、はぁ。ありがとう、ございます」


 ルキナはある程度体力が戻ると隅に移動して交代する。良く頑張ったなと労いに行きたいが今は先生なのでやめておくことにする。


「では始めます」


「はじめっ!」


 俺は合図を出す。カーラは空を飛ぶ。まだまだ余裕があるな。流石は高ランク冒険者だ。



 結局誰もカーラに一撃を与えることすらできなかった。けれどみんなどこか満足してる顔だった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る