第40話 講師生活②
講師生活を始めて2日が過ぎた。少しだが、講師としての流れは何となく掴めた気がする。
「さて、今日も頑張るか」
「頑張ってくださいね」
カーラは俺の横に立っている。俺はドアを開けてカーラと一緒に教室に入る。
「「「「先生おはようございます!」」」」
「おはよう、みんな今日も元気良いな」
「おはようございます。では今日は座学から始めましょうか」
座学の時のみんなの反応は分かりやすい。半分はえーっと言った不満の声、もう一つはやった!と言った喜びの声に分かれる。
「ルキナちゃん、昨日の魔法理論の所分かった?」
「うん、なんとなくだけど分かったよ!」
髪で目が隠れている子がルキナに話しかける。ルキナにも友達が出来た。名前はイリアって言うらしい。ルキナもイリアちゃんとは良く話している。ルキナがしっかりとしているのを見て成長を感じる。
「では今日は魔力についての授業をします。良いですか?」
「「「「はーい」」」」
こうしてカーラの魔力についての授業が始まった。俺は隣で見てるだけ、たまにカーラから魔法を使って欲しいと言われて使う程度だ。
授業が始まって40分くらい経過した。いつもと同じならそろそろ座学の授業は終わるだろう。
「そして、過剰に魔力が収束することで魔力がはっきりと目に見えることがあります。このような現象をなんて言いますか?」
「はい! 魔光現象です!」
「はい、正解です。少し早いですがこれで座学の授業は終了します。ありがとうございました」
これで座学の授業は終了した。この後は演習場で魔法の練習だ。カーラと俺は生徒たちを引き連れて演習場に向かった。
「……どうやら早く来すぎてしまったようですね」
「ん? どうしたんだ?」
前を歩いていたカーラが演習場を見てぼそりと呟いた。俺は何かあるのかと思って演習場を覗く。するとまだ他のクラスが演習場を使っていたのだ。
「多分、すぐに終わると思うので少しだけここで待ちましょうか。皆さんもそれで良いですか?」
流石にでかい声は出せないので生徒たちは小さく返事をする。うん、やはりいい子たちだ。
俺たちが演習場で少しだけ待っているとありがとうございましたと聞こえた。どうやら授業は終わったらしい。俺とカーラが中に入ろうとすると1人の男と目が合った。しかもこっちに走ってきた。
「カ、カーラさん! お久しぶりですね!」
「………どうも」
あれ? カーラの知り合いなのか? でもカーラは嫌な顔をしてる。なんでなんだ? 知り合いじゃないのか?
「……そちらの方は誰ですか?」
男は先ほどまでの嬉しそうな顔から一変して、不快感を滲ませた顔を俺に向けた。何もしてないのにそんな目を向けなくても良くないか?
するとカーラは重々しく口を開く。
「……私と一緒に1週間講師をしているグレンさんです」
「えっと、グレンです。一応冒険者をやってます」
俺の口から冒険者と単語が飛び出すと、男の目元がピクリと動いた。
「………冒険者ですか。失礼ですがランクをお聞きしてもよろしいですか?」
「ランクは4ですね」
俺のランクは男にとって低すぎたのか、男は鼻で笑った。流石にちょっとイラッと来たな。
「答えてくれてありがとうございます。それにしてもカーラさんがいるなんて! 良ければ授業が終わった後に僕の魔法を見てくれませんか!?」
男はもう俺に興味を無くしたようだ。まぁ別に俺も何もされないなら何もしないから構わないが。だがカーラは違うらしい。さっさと会話を終わらせたいオーラが漂っている。
「申し訳ないですが、授業が終わったあとはグレンさんに上級魔法を教えるので……失礼します」
「そんな奴より僕の魔法の方が優れています! カーラさんも優秀な人の魔法を見た方が絶対有意義ですよ!!」
おいこら。臨時とはいえ講師をそんな奴呼ばわりはないだろ。
「………講師をそんな奴呼ばわりですか」
カーラは歩みを止めた。その声は低く、どこか冷たい印象がある。
「あ、いえ! これは言葉の綾というか……」
「彼は私の友達です。私の友達を見下すような発言をする方に教えることは何もありません」
「……はい、すいませんでした」
男は再びカーラを見て頭を下げて謝罪する。
「………」
俺が演習場を出ていく男を見ていた。顔を上げた瞬間に奴の瞳が見えた。あれは尊敬する者を見る目ではない。あの目は、もっと別の悍ましいなにかだ。
俺は目を細めて考える。するとカーラが少し沈んだ声で話しかける。
「すいません、私の事情に巻き込んでしまって」
カーラは申し訳なさそうにしている。もしかすると俺の顔を見て怒っていると思わせてしまったかも知れない。
「別に良いよ。友達なら持ちつ持たれつで行こーぜ」
俺は明るい表情で返す。するとカーラは一瞬だけ、きょとんとしたがすぐに笑った。
「……ふふ、ありがとうございます。やっぱりあなたの色はとても落ち着きます」
「ん? 色?」
「いえ、気にしないでください」
色ってなんだ? カーラは何か別の物が見えているのか? そう思ったが俺はそこで思考を止めた。もしかしたらカーラは探られたくないのかも知れない。なら俺は気にするのをやめよう。
「お待たせしました。では授業を始めます」
そして魔法の実技の練習が始まった。授業が終わった後はカーラに以前に教えてもらった上級魔法を見てもらったりした。
褒めてくれたがそれでもまだまだカーラと同じような精度では撃てなかった。また時間がある時に練習しよう。
▲▲
男は暗い部屋の中でフルフルと震えていた。
「はぁぁ、カーラさん。僕の元へ戻ってきてくれたんですね」
その震えは歓喜。男の名前はベイト、Aクラスに所属しカーラと同じ主席で居続けている生徒である。
ベイトはカーラが戻って来たのは自分の為だと思っている。
「ああああ、やはりカーラさんは美しい! あの女性らしい身長! 思わず吸い込まれそうになる程の綺麗な黒髪! そしてあの慎ましさのある上品な体型とあの美貌!!」
ベイトは昔に盗み取ったカーラのローブを抱きしめる。
「ずっと貴方を想い続けて来た。そうしてやっとあなたを手に入れることが出来る!」
ベイトはローブに顔を埋め、大きく息を吸って、吐く。これを数回繰り返した後に思い出したように顔をあげた。
「………だが、あのグレンとか言う男は邪魔だな」
ベイトはグレンのことを煩わしく思っていた。なぜあの人の隣にいるのか。あんなランクも中堅程度しか上げられないカスの分際で。絶対に自分の方が優秀だし、彼女を幸せに出来る自信がある。
「殺すか? いや、それだけじゃ面白くないな」
するとベイトは何かを思いついたようだ。ニヤリと笑った。
「そうだ、彼女を僕の物にしたらあいつに見せつけてやろう。殺すのはその後だ……」
ベイトは端正な顔立ちを醜く歪めて笑みを浮かべる。
「そんなことはさせねーぞ。あれは俺の獲物だ」
男の低い声がベイトの耳に届く。男は部屋の隅からコツコツと歩いてベイトの前に立つ。
「………来たのか」
「ああ、ついさっきな」
男はフードをかぶっている。その声はどこか聞き覚えのある声だった。
「念の為にもう一度言うぞ。あれは俺の物だ。手を出したらどうなるか、分かってるな?」
フードの男はベイトに顔を近づける。その時に真紅の髪がフードからチラリと見える。
「わ、分かったよ。あのカスは譲る。……だけどカーラさんは譲れない。そこは分かってるね?」
「ああ、お互いギブアンドテイクでいこーぜ。………それにしても、ハハ」
フードの男は馬鹿にするように笑う。どうやらベイトのカスと言った言葉がおかしかったようだ。
「………何が面白いんだ?」
ベイトは怪訝な目を向ける。まるで自分がおかしなことを言ったかのように笑われたからだ。するとフードの男は呟くように喋る。
「カス……か。なぁ、本当にそう思うのか?」
「それってどう言うーー」
「いや、分からねぇなら構わねぇよ。お前が作った魔法は強力なのにお前自身がどうしようもねぇ。もったいねぇなぁ」
フードの男はそう言い残して消えた。ドアは開いていない、窓もしまっている。まるで最初からいなかったかのように消えていった。
「……フン、あいつもいずれ殺してやる。僕の作った魔法は最強なんだ」
ベイトは1人になった部屋で呟く。けれどその頬には冷たい汗が流れていた。
▲▲
俺はベッドから起き上がる。俺だけの1人部屋、これは学園の方針で生徒、講師問わずに1人一部屋ずつ与えているようにしているらしい。流石に太っ腹だな。
「あー、今日で4日目。あと半分かぁ」
カーテンを開けると陽が差し込める。教師をやるとなった時はどうなることかと思ったが案外なんとかなっている。特に何もなく、平和な日常だ。うん、やっぱり平和が1番だ。
「今日も頑張るかぁ」
俺は着替えて部屋を出る。
「あ、おはようございます」
隣の部屋からいつもの服装のカーラが出てきた。
「よ、今日はいつもより遅いな。どうしたんだ?」
「ええ、少し寝過ぎてしまいました」
カーラがこの時間まで寝るなんて本当に珍しい。いつもはもっと早く起きているのに、今日は何か起きるのか? そう思ったがカーラも人間だ。誰だって寝過ごすことはあるよな。そういう結論に落ち着いた。
「ならせっかくだし一緒に行こうぜ」
まぁ、行くと言っても会議室に行くだけだ。俺たちはいつもそこでその日の授業の打ち合わせをしている。もちろん他の先生たちもいる。2人きりになるなんて事はない。
「そうですね、行きましょうか」
俺たちは会議室に行く。ここの学園は広い。俺らの部屋から会議室に行くのにもそこそこ時間がかかる。だから暇を紛らわせる為にカーラに話しかける。
「そういえば学園でのカーラってどんな感じだったんだ?」
「私ですか? あまり今と変わりませんね。魔導書を読んで1人で良く魔法の練習をしてました」
「1人? 友達とかは?」
俺の疑問にカーラの表情がずんと暗くなる。
「あはは、できませんでした」
どうやら地雷を踏んでしまったらしい。まずいな、どうしようか。
「だ、大丈夫だ! ほら、今はアリスやリズ、ステラもいるし、俺も友達だしな!!」
俺は親指をグッと立てて明るくフォローする。自分でも思うが俺はフォローの仕方が俺は下手くそなのかも知れない。今後はフォローを入れる時は注意した方が良いだろう。
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