第37話 いざ魔導国家へ②
「いやー、美味かったなぁ」
「だねー」
俺もルキナも夕食を食べ終わり、ベッドの上でくつろいでいる。
そして肝心のカーラはーー。
「ふぅ、さっぱりしました」
風呂に入っていた。パジャマ姿のカーラが風呂場から出てきた。
「お、じゃあ次はルキナ入ってこいよ」
「え、良いの? じゃあ行ってきまーす」
ルキナは着替えを片手に風呂場へと向かう。代わりにカーラが自分のベッドに腰をおろす。風呂上がりのせいか頬は赤くなっており、髪も長いからか、まだ少しだけ湿っている。
「……やっぱり髪が長いと乾かすのとか大変か?」
「えぇ、少し手間ではありますが苦ではありませんよ」
「そっか、俺もたまにルキナの髪を乾かすの手伝ったりするけど結構時間かかるんだよな」
「そうですね、そんな時は、こうやって少しだけ魔力を込めた風魔法だと早く乾きますよ」
カーラは指をパチンと鳴らして風魔法を使う。カーラの髪は風の力によってふわりと浮き、あっという間に乾いてしまう。
「ふぅ、こんな感じでしょうか」
「ほえー。本当にあっという間だな。いつもそうやって乾かしてるのか?」
「ええ、こちらの方が魔法の練習にもなるので」
こんな所でも魔法の練習をするとは、やはりカーラは勤勉だな。俺とカーラはルキナが出てくる間に他愛のない会話をする。
「お兄ちゃーん。お風呂上がったよー」
「お、じゃあ次は俺か」
俺たちが会話を始めて20分程で寝巻き姿のルキナが出てきた。俺はベッドから立ち上がって替えの服を持って風呂場へと向かった。
「ふぅー」
思わず息が漏れてしまう。やはり風呂は素晴らしいな。
「あー、明日には魔導国家かぁ」
正直に言うと講師をする自信はない。それでもカーラからの紹介で入るからにはある程度の力は見せておかなければカーラの評判にも傷がつく。
自身の力を隠しつつ、講師としてある程度の実力を見せる。この調整はそれなりにしんどい。
特に俺のような
「………ま、やるしかないかぁ」
俺は肩まで湯船につかって目を閉じる。どうせやることは変わらないんだ。今はゆっくりと休もう。
「うぃーす。出たぞー」
「その時にお兄ちゃんがー」
「ふふ、そうだったんですね」
風呂から出るとルキナとカーラが何やら楽しそうに談笑している。うーむ、果たしてこの空気に入って良いのか。
するとルキナと目が合った。
「あ、お兄ちゃん。もうお風呂は良いの?」
「ああ、それにしてもなんの話してたんだ?」
「えっと、カーラさんの学園生活とか、あとは昔のお兄ちゃんのこととか」
俺の昔の話ってなんだ? 特に何もなく、平和な日々を過ごしてたから面白い話もないと思うが。
「まぁ、カーラも疲れてるだろうしあんまり迷惑かけたら駄目だぞ?」
俺はベッドに寝転がる。真ん中にルキナ、そして両隣に俺とカーラがいるような状態にした。これなら比較的カーラもストレスがにならないと思う。
「分かってまーす。で、その時にお兄ちゃんはですね?」
ルキナは再び話し始め、カーラは穏やかな笑みを浮かべて話を聞いている。俺はその2人の会話を聞きながら目を閉じて眠った。
▲▲
「……寝れないですね」
私は目を開けて体を起こす。
すでにグレンさんとルキナさんは寝てしまっている。もう深夜と言っていい時間帯になっているが中々寝ることが出来ない。
「少し、海でも眺めましょうか」
ベッドから立ち上がって椅子に腰掛けて窓の外を見る。外は真っ暗だがたまに光る魚たちが泳いでいるのが分かる。
「………それにしても、お二人は良く寝てますね」
海から視線を移して2人を見る。2人は穏やかな寝顔ですやすや眠っていた。
グレンさんは大人びた雰囲気がありますが、眠っている時は少しだけ子供っぽいような気がある。
「……こんな無理なお願いも引き受けてくれましたし、ルキナさんが慕うのも分かりますね」
グレンさんはルキナさんにも信頼されて慕われているのが良く分かる。彼の近くにいればいるほど本当に優しくて誠実であるのが伝わってくるから。
「ふふ、だからこそ私もみんなも、ここまで心を許してしまうんでしょうね」
私は今はいないパーティメンバーを思い出す。もう私たちの中には男だからと言う理由で彼を嫌う者はいない。
特にリズは1番の男嫌いなはずだったのに今では1番心を許しているように見える。少し前にもリズはグレンさんの宿に遊びに行ったらしい。少し前のリズでは考えられない程に彼女は変わった。
「……けど、私も人のことは言えませんね」
自分でもいつのまにか彼に心を許しているのが分かる。でなければ他のメンバーもいない中で一緒に旅をしようなんて言うはずがない。
私もみんなも彼のことが気に入っている。最初は仮面の人だと思って接点を持とうとしてたのに、いつのまにかそんなこととは関係なく話しかけてしまう。
「うーん、でもこれで良いのでしょうか?」
私も他のみんなも男性のお友達は初めてのせいか、まだ距離感が上手く掴めていない。たまにグレンさんは私たちを迷惑な存在だと思ってるかも知れないと思ってしまう。
「けれど、グレンさんは嫌な顔1つしませんでしたね。
彼はとても不思議な人だ。子供のような雰囲気があって大人のような雰囲気もある。だけどそれがとても心地良くてつい色々なことを話してしまう。
本当に色んなことを……私たちの過去さえもーー
「……いえ、流石にそこまで話す訳にはいきませんね」
私は一瞬馬鹿なことを考えてしまい、首を振ってその考えを消した。流石にそこまで話す訳にはいかない。
「……そろそろ寝ましょうか」
私は自分のベッドに寝転んだ。少し考え事をしたおかげで眠気が来た。
「明日からよろしくお願いしますね」
私は2人が寝ている姿を見た後に目を閉じる。思いのほかすんなりと眠ることが出来た。
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