第36話 いざ魔導国家へ①


「よし、もうそろそろ良い時間だし出るか」


「うん、そうだね」


 俺たちは宿を出るが、カーラはまだ来ていない。流石に俺たちの宿の前を集合場所にしてもらったので待たせる訳にはいかないからな。



 そうして宿の前で10分ほど待っているとカーラが歩いているのが見えた。カーラは俺たちに気づくと小走りでこちらに向かって来る。


「すいません、お待たせしました」


「いやいや、俺たちの宿の前を集合場所にしてもらったからな」


「そうですよ、だから気にしないでください!」


「ルキナは俺が起こさなかったら遅刻してたけどな」


「それは今は言わなくて良いじゃん!」


「ふふ、ありがとうございます」


 俺たちが漫才のような会話をするとカーラは少しだけ笑った。その代わりにルキナは少しだけムッとしてしまう。


「では、行きましょうか」


「分かった、って言っても何で行くんだ? 馬車か?」


 でもこっから馬車で行くとかなり遠回りだ。どんなに早くで2週間以上はかかる。一体どうするんだろうか。


 するとカーラが答えてくれた。


「いえ、流石に馬車ではありません。今回は魔導船で行きます」


「え、でも魔導船ってかなり高くないか? 俺らそんなに金は持ってないけど」


「大丈夫ですよ、私たちが今回乗るのは学園が所有している魔導船です。私たちは料金はかかりません」


「はぇー、流石は魔導国家だ」


 それにしても魔導船にただで乗れるとは。流石は魔導国家と呼ばれることはある。


「ねぇねぇ、魔導船ってなに? 普通の船とは違うの?」


 ルキナが肩をトントンと叩いて来て聞いてくる。ルキナは魔導船を知らないのか。


「えーと、魔導船ってのは魔石を動力として動かすから普通の船より速く動くんだ。それに普通の船より大抵は頑丈にできてる」


 俺は魔導船について簡単に説明する。


「魔導船ってすごいんだね! なんだか楽しみになってきた!」


 ルキナはワクワク、楽しみと言った顔をしている。まぁ、魔導船は他にも色々と機能はあるがそれは別に言わなくてもいいだろう。



「さて、では行きましょうか」


「へーい」


「はーい!」



 俺たちは街を出た。



▲▲



「うわー! でっかい! これに乗るんだよね!?」



 4時間ほど馬車で移動して港につき、ルキナは港にある魔導船を見てはしゃいでいる。けれどはしゃいでしまうのも無理はない。それほどまでに今回乗る魔導船は大型で迫力があった。


「では、乗りましょうか」


「分かった。ルキナー、行くぞー」


「あ、はーい!」


 ルキナは呼ばれると走ってこちらに来た。


「ほら、乗るぞ」


「うん! 中ってどんな感じなのかなー」



 ルキナは目を輝かせながら船の中に入る。俺とカーラも続いて船の中に入った。


「うわー! すっごい! 2人とも見て見て! 中もすごい綺麗だよ!」


 俺たちは部屋に案内された。ルキナは先に部屋に入って俺たちに対して手招きする。


「どれどれ…おー! 確かにこれはすげーな!」


 俺は部屋を見て驚いてしまう。部屋の中はとても広く、清潔で高級なホテルのような光景だった。


「でしょ! それにシャワーもベッドもある!」


 そうやってルキナが周りを散策しているとカーラがルキナを微笑ましそうに見ていた。


「ふふ、魔導国家までは1日はかかるのでここでゆっくりしましょうか」


「へぇー、1日で到着するのか。てっきりもう少しかかると思ってたから意外だな」


 俺が部屋の前に立っているとカーラが部屋の中に入って行く。


 俺はそこで1つの問題に気がついた。



「なぁ、カーラ。1つ聞いても良いか?」


「はい? なんでしょうか?」


「カーラもこの部屋なのか? 他の部屋じゃなくて?」


 それはカーラもこの部屋で過ごすのか問題。ルキナと俺、もしくはルキナとカーラならばまだ良い。けれど俺とカーラが一緒の部屋は流石に駄目な気がする。



「ええ、1組につき、1つの部屋ですので」


「ああ、そう……」


 ちょっと、いや、かなりまずい。


 前のリズの時は半日ほどだったからまだ良かった。けれど今回は1日だ。夜も同じ部屋と言うのは流石にまずい。


「それはちょっとまずくないか? それにカーラも男と一緒の部屋で寝るなんて嫌だろ?」


「いえ、私はグレンさんは変なことはしないと分かってますので大丈夫ですよ」


「おおう、俺への信頼がすごい」



 確かに変なことはする気はないが、それでもプライベートを見られるのは人によっては嫌と言う人間もいる。


 カーラは嫌ではないのか? そう俺が考えていると。


「嫌じゃないですよ……」


「そうか……え?」


 思わずカーラを見て固まってしまった。心を読んだかのように俺が考えていたことを当てたからだ。


「……俺、声に出てたか?」


「いえ、ですけどグレンさんが何やら悩んでいるようでしたので……当たってましたか?」


「ああ、当たってるよ。……でも本当に良いのか?」


「はい。大丈夫です」


「……なら良いか。じゃあのんびりするかー」



 俺も部屋に入って荷物をおいた。カーラが良いと言うなら別に良いか。遠慮なくのんびりしよう。



「あ、ここは夕食もついてますよ。どうしますか?」


「え、食べたいです!」


「俺も食べたいな」


「では荷物を置いて行きますか」


 俺たちは荷物をおいて部屋を出ようとする。しかし鍵が見当たらない。一体鍵はどこにあるんだろうと探していると。



「ここでは魔力登録で開くようになってますので鍵はいりませんよ」



「あ、そうなのか。すげーな」



 なんと言うかこの魔導船は他の魔導船よりレベルが違うな。


 そう思いながら俺は夕食を食べに行く。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る