第35話 行くべきか否か
「ええと、つまりですね。グレンさんには以前私が通っていた魔導学園に臨時講師としてついて来て欲しいんです」
うん、なるほど、全然分からん。一体どうしたら俺が選ばれるんだ? 俺は疑問に思ってしまう。
「なんで俺なんだ? 言っちゃ悪いが俺の魔法は全部中級止まりだ。他の人の方が良いんじゃないか?」
俺の疑問にカーラは何やら気まずそうな顔で答える。
「じ、実は私も昨日、他の魔導士の方に声をかけたんですけど、忙しいやら恐れ多いなどの理由で全部、断られ、ました……」
「あー……それはなんて言うか、ごめん」
「いえ、別に気にしていないので……」
いや、それは嘘だろう。だって今、あんたすごい悲しそうな顔してるよ?
まぁ、でも断った方の理由も分からなくもない。
魔導学園は魔導士たちが通う所、言うなれば魔法について深く理解を深めている者たちだ。そんな所に講師、しかも高ランクパーティの紹介で入るとなるとよほどの自信がなければ不可能だ。
自分が講師をしている姿をちょっとだけ想像してみる。するとカーラは慌てたように口を開く。
「あ、で、でも大丈夫ですよ! この臨時講師は中級までの魔法が全て使える人間が条件ですので! それに1日辺りで金貨4枚のお給料が出ます!」
確かにそれなら俺も条件は満たしている。しかも給料も破格と言っていい。
けれど。
「……うーん」
「そ、それに私も出来るだけサポートします!!」
俺は目を閉じて唸りながら考える。やっぱり俺は講師とか無理な気がする。柄じゃないし、断ろう。
「カーラ、悪いんだけど……っ!?」
俺は目を開けてカーラを見る。するとカーラは泣きそうな顔をしていた。
「どうしても……駄目、ですか? 」
「うっ、いや、まぁ、うーん」
「もう頼みの綱はグレンさんだけなんです……」
俺は再び考える。確かに誰も来てくれないとなるとそれはすごく悲しいってことは分かる。すごく分かる。俺も誘いを全員に断られたら多分2日は引きずると思うし。
いや、でもなー。うーん。
そうして俺がどうするか考えているとルキナが俺の肩をチョンチョンとつついてきた。
俺はルキナを見る。
「お兄ちゃん。私、魔導学園に行ってみたい」
「え? ルキナは行きたいのか?」
「うん、どんな所なのか気になるし、どんな勉強してるのか受けてみたい」
「そっか…」
そうだな。ルキナも行きたいって言ってるし、カーラもなんだか悲しそうな目で見てくるし……そうだな。
「なぁ、カーラ。俺が講師として魔導学園に入る時に1人生徒として入れることとか出来るか?」
すると俺の言葉の意味を理解したのかカーラの顔はパァッと明るくなる。
「は、はい! 出来ますよ!」
「なら受けるか。日程はどれくらいなんだ?」
「そうですね、大体1週間くらいです」
「……1週間か」
まぁ、一週間くらいなら特に問題はないな。
「分かった。他のメンバーは?」
「いえ、アリスたちには少しパーティを離れることを伝えてます」
「あ、そう? じゃああいつらは来ないのか。………でも大丈夫なのか?」
「??……何がですか?」
「いや、ほら、ルキナがいるとはいえ他のメンバーがいない中で俺と1週間行動をするんだぞ?」
ルキナがいるとはいえ、男と1週間もいるとストレスが溜まる可能性がある。こう言うことは事前に聞いてた方が良い。
するとカーラは微笑みながら即答する。
「いえ、私はそんなこと気にしません。今までグレンさんからは他の男性のような、下劣な視線は感じませんでした。それは私も含めてみんな分かってます」
「そ、そうか。なんか少し恥ずかしいな」
俺はたまらず頬を掻いて視線を逸らしてしまう。評価してくれるのは嬉しいがこんなにもまっすぐ言われるのは流石に恥ずかしい。
「そ、それでいつ出発するんだ?」
俺は少しむず痒くなってしまい、半ば強引に話題を変える。
「えっと…明日です」
「明日か……分かった。集合はどこにする?」
「あ、ではここでお願いします。お昼頃にここに来ますね」
「分かった。それまでに準備してここにいれば良いんだな?」
「はい、急に変なこと頼んでしまってすいません。ありがとうございます」
「気にすんな。じゃ、明日にここで集合な」
「はい、では失礼します」
カーラは頭を下げて自分のホテルのある方角へ歩いて行く。その時に俺が断らなかったからか、安堵したように息をもらしていた。
「さて、じゃあ明日に備えて俺たちも早く寝るか」
「そうだね。いやー、それにしてもカーラさんがいきなり変なこと言うからびっくりしたよー」
それは俺もそう思う。いきなりあんなこと言われたら誰だって驚くわな。
「いきなり決まったけど魔導学園ってどんな授業するだろう?」
「そりゃやっぱり魔法についてだろ。あとは魔力についてとかじゃないのか?」
「うーん、私そんなに勉強出来ないけど大丈夫かなぁ?」
「大丈夫だろ、分からない部分とかカーラがすごく丁寧に教えてくれると思うぞ?」
「確かにそれもそうだね!」
どうやらルキナも納得したようだ。それだけカーラのことを信頼してるってことだな。
「じゃあ今日は早く寝るぞ。寝坊なんかしたらカーラに申し訳ないからな」
「はーい」
俺たちは宿に戻る。ご飯を食べ、風呂に入り、いつもより少し早めに眠った。
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