第34話 急展開


「んあ? ……もう朝か」


 俺は体を起こす。


 昨日は久しぶりに最悪の日になった。だが俺よりもルキナだ。昨日のことがトラウマになってないと良いが。


 俺は横にいるルキナを見る。


「むにゃむにゃ。えへへ、お兄ちゃん駄目だよ、私たち兄弟なんだから」


 ルキナは随分と幸せそうな顔で寝ている。流石は俺の妹だ。こいつは将来大物になるな。



 俺はルキナを起こさないようにそっとテントから出る。


「あー、朝日が眩しい」


 俺は思わず手で日光を遮ってしまう。今日は雲もなく太陽が輝いている。ルキナが起きる前に朝食でも作るか。



 俺は体をぐーっと伸ばして朝食の準備に取り掛かる。



「よし、良い感じだな」


 朝食が出来た。今日の献立はベーコンに目玉焼き、それをパンに乗せて完成だ。すると匂いで起きたのか寝巻き姿のルキナが目を擦りながらテントから出てきた。


「んー、おはよう」


「おはようルキナ。朝食出来てるけど食うか?」


「食べるー」


 ルキナは目を擦りながら席について食べ始めた。俺も後に続くように食べ始める。


「うん、ちゃんと出来てるな」


「美味しいー」


 ルキナは目をつむったまま、もぐもぐと食べている。全く、いつまで経っても子供だな。



▲▲


 朝食も食べ終わり、テントも片付けた。ついでにルキナも完全に目を覚ました。ならあとすることは……



「さて、帰るか」


「え、帰るの?」


 ルキナは少しだけ悲しそうな顔をする。本当はもっと遊びたかったのだろう。けれどそう言う訳にもいかないんだ。


 俺はルキナに諭すように話す。


「良いか? あいつは多分、一瞬でどこへでも行ける力がある。もしかするとまたここへ戻って来る可能性もあるんだ」


「………そうなんだ」


「ああ……」


 流石に昨日の今日で襲ってくるとは思わないがそれでもさっさと離れるに越したことはない。



「だから、ごめんな? 海ならまた一緒に行こう」


「……うん、分かった」


「ルキナは本当に聞き分けがいい子だ」


 俺はルキナの頭を優しく撫でる。多少心苦しさはあるがそれでもルキナの身の安全を確保する為にはこうした方が良いと思う。


 そうして帰ろうとするとルキナが俺に対して両手を広げて来た。


「ん? どうしたんだ?」


「帰る時はお兄ちゃんの背中に乗って帰る」


 なるほど、つまりはおんぶしろってことか。


「分かった」


 俺はかがんでルキナに背中を向ける。ルキナは俺の背中に勢いよく飛びついてきた。


「えへへ、やっぱり安心する」


「そうか? それなら良かった」


 俺はルキナを抱えてまま人の目につかないところまで移動し、そのまま空を飛ぶ。


「じゃ、行くぞ」


「レッツゴー!」


 ルキナは右手を上に上げる。


 俺はゆっくりと速度を上げていき、そのまま街の方角へ飛んで帰る。



▲▲


 空を飛んで1時間ほどで街についた。俺は人目につかないところで地面に足をつける。


「よし、ついたぞ」


「………」


「ルキナ?」


 ルキナは背中から全く降りようとしない。それどころか力を入れて密着してくる。


「……やだ」


「降りたくないってことか?」


「うん……」


 しょうがないなぁ。ルキナは降りる気配はないし、このまま街に入るか。



 俺はルキナを背負ったまま街に入る。衛兵のおっちゃんと少しだけ話したが特に何も言われなかった。


「ほら、着いたぞ」


「や、まだこのままが良い」


 全くしょうがないなぁ。ならこのまま宿に戻るか。俺はルキナを背負ったままで宿に帰る為に歩く。



 しばらく歩くと宿が見えた。今日は何をしようかと考えていると見覚えのある人物が宿の前にいた。


「あれは……」


「んー? どうしたの?」



 黒髪の長髪を耳にかけて魔女のようなローブと黒いタイツを履いたすごく見覚えのある人物。俺は宿に戻るついでにその人物に話しかける。


「誰か探してんのか?」


 俺が話しかけるとその人物はこちらを見る。ルキナもその人物を見て嬉しそうな声をあげる。


「あ、カーラさんだ! こんにちわ!」


「はい、こんにちわ」


 その人物はカーラである。カーラは笑顔でルキナに爽やかな挨拶をして、再び俺を見る。


「で、カーラはここの誰かに用があったのか?」


「ええ、まぁ」


「??」


 何やら言い淀んでいる。一体誰に用があるんだ? 


「言いづらい相手なら俺が呼んでこようか?」


「いえ、その必要はないです」


「あ、そう?」


 カーラは少しだけ深呼吸をして、何やら覚悟を決めたような顔で俺を見る。


「……グレンさん」


「な、なんでしょうか?」


 あまりに真剣なので思わず敬語になってしまった。俺は一体何を言われるんだ? 


 そうやって俺が身構えていると。



「私と”魔導国家”に来てくれませんか?」


「「………はい?」」


 ルキナと俺の声が重なる。おそらく俺たちは今、似たような顔をしているだろう。


「ちょ、ちょっと下ろして!」


「え、あ、分かった」


 俺はルキナを下ろす。するとルキナは何やら焦ったような表情でカーラの近くに寄った。


「ど、どう言うことですか?」


「実は、私には彼が必要なんです」


「………」



 カーラの一言でルキナは完全に固まってしまった。リズもそうだったけどなんでそんな誤解が生まれるような発言をするんですかね?



「……あー、カーラさん? 一応なんで俺が必要か説明してもらっても良いか? 今の説明じゃ誤解されかねないからな」


「??………誤解ですか?」


「ああ、さっきの説明は告白とか捉えられてもおかしくないからな。現にほら、ルキナが固まっているだろ?」


 カーラはルキナをしっかりと見る。そして先ほどの自分の発言を思い出したのだろう。カーラの顔がどんどん赤くなっていく。


「い、いや! 違いますよ!? 告白とかそんなんじゃありませんからね!?」


「ああ、うん。分かってるよ」



 リズも前に人を勘違いさせるような発言してたし、多分似たような物だろう。



 俺はこれで1つ分かったことがある。月の雫は男性への接点が無いからたまに発言が誤解されるようなことがある。


 もしこの発言をあの3バカにでも聞かれたら俺はまたあの裁判にかけられるだろう。



 俺はその時のことを想像してしまい、思わず身震いしてしまう。



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