第32話 襲撃者①


「ルキナ、着いたぞ」


 俺は隣で寝ているルキナの体をゆさゆさと揺らす。ルキナはぐっすりと眠ってるせいか口元によだれがついていた。


「んあ? もう着いたの?」


「ああ、それと口元のよだれ」


 俺はルキナにハンカチを差し出す。


「あ、ありがと」


 ルキナは少しだけ顔を赤くしながらハンカチを手に取った。俺はルキナが拭き終わるのを見て馬車から出る。


「さて、今日は遊ぶかー」


「そうそう! やっぱりたまには思いっきり遊ばないとね!」


 俺とルキナは着替えて海辺に向かう。ルキナと海に来るのは本当に久しぶりだ。


「お兄ちゃーん! 早く遊ぼー!」


「はいはい。本当にルキナは元気だな」


 ルキナは既に水着に着替えて浅い所で遊んでいた。俺も水着に着替えてルキナの所へ歩いて向かう。


「どう? 似合ってる?」


 俺がルキナの所に向かうとルキナはその場でくるりと回り俺に感想を聞いてくる。


「ああ、すっげぇ似合ってる」


 これはお世辞じゃない。ルキナの肌と同じ綺麗な白色の水着はとても似合っていると思う。


「えへへ、そう? それなら良かった!」


 ルキナはよほど嬉しかったのか満面の笑みになった。


「少し泳ぐか。ルキナはどうする?」


「私も泳ぐ!」


「分かった。ならせっかくだし競争でもしよーぜ」


「その話乗った! よーし、負けないぞぉ!」


「……よーい、どん!」


 そして俺たちは海で競争した。


「はー、疲れたぁ」


 ルキナは設置したテントの中で仰向けでくつろいでいる。俺たちは競争が終わった後も色々な遊びをして海を満喫した。



>>>>>


「どうだ? 楽しかったか?」


「それはもちろん! でもやっぱりずっと遊んでたから疲れたよー」


 ルキナは布団にダイブする。外を見ればすっかり夜、風呂や飯の時間を抜きにしても随分と遊んだものだ。


「じゃああとは寝るだけだな。ほら、そろそろ明かり消すぞ」


「分かったー」


 俺は明かりを消して布団に寝転がる。ルキナもどうやら相当お疲れだったようだ。もうすでに目をつぶって寝ている。


「じゃ、俺もそろそろ寝るかぁ」


 俺も目を閉じて眠ろうとする。明日はバーベキューとかしても良いな。そんなことを考えているとだんだんと眠気が強くなっていく。俺はその眠気に任せて眠ろうとする。




 だがそれは叶わなかった。


『フレイムショット』


「ッ!!」


 俺は突然大きな魔力が迫ってくるのを感じ取り、飛び起きる。そしてすぐに魔力で作った障壁を俺たちの周りに展開した。


 次の瞬間にはテントは焼けて灰に変わり、地面は黒く変色していた。


「な、なに!? どうしたの!?」


 ルキナも突然の光と轟音によって慌てて目が覚めてしまったようだ。俺はルキナを背中に隠して魔法が飛んできた方向を見る。



 するとそこには1人の人間が立っていた。


「おいおい、なんで生きてんだぁ?」



 男の声だ、その声はなんで俺たちが生きているのか分からないと言った声色だ。けれど顔は見れない。真っ黒なフードを深く被っているせいだ。


「……なんで攻撃するんだ? 俺たちは別に誰かに恨みを買うようなことはしてない筈だが?」


 俺の疑問に男は楽しそうに答える。


「そんなの、楽しいからに決まってんだろ?」


「……は?」


 何を言ってるんだこいつは? 俺が呆気に取られていると男は意気揚々と語り出す。


「俺はな? 人が焼けて悶えながら死んでいくのが好きなんだよ。炎から必死に逃げようとして踊ってる姿なんか最高に面白い。他のことなんかどうで良いと思えるくらいにな」


「そ、そんな理由で私たちを殺そうとしたの?」


 ルキナは声を震わしながら問いかける。すると男は声を低くする。


「そうだよお嬢さん。けどな? これでも俺は人を殺す時にはそれなりに苦労してんだぜ? 俺はわざわざこうやってまで来てお前らみたいな旅行者っぽい奴を殺してるんだ。そうすれば旅行中に起きた事故みたいにみせられるだろ?」


「………」

 

 俺は黙って聞いていた。今の会話から察するにこいつはもう既に何人も殺している。そしてこいつは遠い所から来たと言っていた。おそらくここら辺の人間ではない。別の街か、はたまた別の国かもしれない。


 俺が少ない会話から情報を抜き取って考えているとルキナが恐怖と悲しみが入り混じったか細い声で喋る。


「ど、どうしてそんな酷いことができるの? 心とか、痛まないの?」


「……いや? 全く」


 男はあっけらかんと答える。本当になんでもないことのように。


 俺は怯えているルキナを落ち着かせる為に何度か頭を撫で、なるべく明るく話しかける。


「ルキナ、ちょっとここで待っててくれるか?」


「え? ……うん。分かった」


「いい子だ……」


 俺はゆっくりと立ち上がり、フードの男の正面に立つ。そしてそのまま”門”を開ける。

 

『開門』



 ギィイイイ。


 重厚な音を立てて、見えない扉が開く。俺は嵐壊を取り出して装備する。



 嵐壊に魔力を流すと奇妙な音が鳴り始める。そして音が鳴り始めたと同時に俺の腕に風が纏わりつく。


「なんだ? この音は?」



 男の声色が変わる。俺の武器を警戒しているのか一歩だけ後ろに下がった。





 俺はこいつについて考えるのをやめる。こいつがどこから来たのか、一体何者なのか、ごちゃごちゃと考えるのはやめだ。



 こいつは殺意と悪意を持って俺たちを殺そうとしてきた。それだけ分かればいい。そうすれば俺が考えること、やることは決まっているのだから。



 こいつは敵だ。



 敵は殺す。



「……殺してやるよ」





「ハハハ! やってみろよ」


 男は楽しそうに笑う。一体何が楽しいのか俺には理解が出来なかった。



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