第二章

第31話 もう1つのランク8パーティ

「よし、そろそろクエストに行くか」


 俺は身支度をして外に出る。外は昨日の雨から一変して太陽が眩しいくらいに光っていた。


「ルキナー。そろそろクエスト行くぞー」


「はーい!」


 俺が声をかけるとローブを着たルキナが宿から軽く走りながら出てきた。ルキナは昨日の雨の時とは違い、いつもと同じようにとても元気になっている。


「じゃ、今日も適当にクエストをこなすか」


「うん、張り切っていこうね!」


 そうして俺たちはいつものようにギルドへと向かった。


「さて、今日は何を受けようか」


 俺は掲示板を見ながら今日のクエストを品定めしていく。このコールドスネークの討伐にするか? いや、その横の調査クエストでも良いな。


「久しぶりであるな! グレン!!」


 俺が決めあぐねていると後ろからでかい声で俺の名前を呼ぶのが聞こえた。俺は後ろを振り返る。するとそこにはムキムキの上半身裸のちょびひげの大男がいた。


「ああ、相変わらず声がでかいな。バンス」


「フハハハハ!! そんな褒めても何も持ってないぞ!!」


「いや、褒めてねぇから」


 俺は手を小さく振って違うことをアピールする。全くこいつは相変わらずだな。


「で、しばらく見かけなかったが今度はどこ行ってたんだ?」


 バンスを見るのは2週間、いや3週間ぶりくらいだ。けれどこいつの場合は長いこといなくなるのは良くあることだ。


「うむ、今回は”龍脈”だな。大変有意義な時間だった!!」


 バンスは満足げに鼻を鳴らす。するとバンスの声を聞いたのかカウンターにいたバンスのパーティメンバーも俺の周りに集結してきた。


「おう! グレンじゃねえか! 見てくれ! 龍脈に行ったからか俺の筋肉がこんなに育ったぞ!」


「いや、ハレマのより俺の方が育ってるだろ!? ほら見てくれ!」


 そうして俺に筋肉を見せるようにハレマとコルチがポーズを取る。すっげえ暑苦しい…。


「分かったから少し離れてくれ。ルキナが怖がるから」


 ルキナは俺の後ろに隠れて服をぎゅっとつまんでいた。まぁ、確かにこんなムキムキな男に囲まれたら怖いわな。


「あ、悪いな」


「ごめんな、嬢ちゃん」


 2人はルキナに対して頭を下げる。こいつらも悪い奴ではない。ただ、暑苦しくて頭の中が筋肉でいっぱいなだけなのだ。……いや、それはそれでやばいな。


「だ、大丈夫です。ちょっとびっくりしただけなので」


 ルキナは少し戸惑いながらもしっかりと返答をする。


「で、お前らは何してたんだ? さっきクエストから帰ってきたなら今日は休んだ方が良いんじゃないか?」


 俺が3人に伝えると3人とも不思議そうな顔をする。


「何を言ってるんだ? 休んだりしたらせっかくの筋肉が泣くであろう?」


 バンスの顔を見たら分かる。こいつは本当にそう思っている。…え、やばくね? まじで頭の中まで筋肉でできてるんじゃないのか?


「……じゃあ、今日もお前らはクエスト受けるのか?」


「もちろんだ! さあ、みんな! 今日も筋肉を育てようではないか!」


「「おぉー!!」」


 そうして3人はギルドを出て行った。本当に嵐のような人物たちだ。


「なんて言うか、すごい人たちだったね」


 ルキナはバンスたちが出て行った方向を見ながらなんとも言えない表情をしていた。


「だろ? でもあいつら、あれでもランク8なんだぜ?」


「え、えぇ!?」


 ルキナが驚くのも無理はない。最初は俺もあいつらがランク8なんて言われても信じられなかったからな。


「あいつらすげぇよな」


 回復薬も持たず、魔導士も僧侶も斥候すらいないのにランク8になったんだ。それだけであいつらは途方もない努力をしていることが分かる。その努力は素直に尊敬する。


 俺はあいつらが出て言った方向を見ながらしみじみ思う。するとルキナがすごい形相で俺の肩を掴んで揺さぶってきた。


「だ、駄目だよ!! お兄ちゃんはそのままで良いからね! あんなに鍛えたら駄目だからね!?」


「い、いや、なんの話をしてるんだ? ちょ、ちょっと肩を揺らすのやめてくれ」


 しばらく揺らされているとルキナは落ち着いてきたのか、俺の肩から手を離してくれた。


「本当に駄目だよ? お兄ちゃんは今の細いけど鍛えられている体が1番良いんだから」


「分かった分かった。ほら、クエスト受けに行くぞ」


「はーい」


 俺たちは掲示板にあるクエストを2人で眺める。




「さて、じゃあ今日も頑張るぞー」


「おー!」


 俺たちは採取のクエストを受けてヘイル山脈にたどり着いた。今回の採取は研磨石、ここら辺だとヘイル山脈でしか取ることが出来ないそこそこ貴重な石だ。


「ええと、確か前はここら辺で取れてたような気がーー」


 俺とルキナは少しだけ山を登る。以前はここら辺で取れてたから今回も取れると思う。


「あ、お兄ちゃん。あれじゃない?」


「ん? おお、そうそう、あれだ」


 ルキナが指を指した方向に灰色の石があった。俺はそれを拾って魔法袋に入れる。今回の依頼ではあと4つ、この調子ならすぐに見つかるだろう。そう思って見渡すと近くにもう1つあった。


「よし、あと3つだな」


「この調子ならすぐに終わりそうだね!」


「だな」


 俺とルキナはそのまま研磨石を探す為に周りを少しだけ歩く。俺たちは1時間程で研磨石を集めることができ、そのまま山を下りて街に帰ってギルドでクエストの達成の報告と研磨石を納品した。


「今日は終わりにするか。ルキナはどこか行きたい所とかあるか?」


 俺がルキナに尋ねる。するとルキナは唸りながら考える。


「うーん、今は特に思いつかないなぁ」


「ま、そうだよな」


 だったら今日は何をしようか。俺は宿に戻りながら考えているとルキナがふいに思いついたように呟いた。


「あ、海に行きたいかも」


「え、海?」


「そう! 私たちが海に行ったのって子供の頃だったでしょ? だから海に行きたいなぁって」


「……海か」


 俺は顎に手を当てて考える。確かに最近は気温も暖かくなってきた。なにより海ならルキナも思いっきり魔法の練習が出来るだろう。


「なら海に行くか?」


「行くー!」


 ルキナは元気に返事をする。こうして俺たちは海に行くことにした。このまま行っても良かったが流石に一度宿に戻って、準備をしてから行くことにした。

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