第30話 部屋でトランプ
「そういえばリズはどうやってきたんだ? 傘とか持ってきてないだろ?」
俺はリズのカードを取りながら聞く。今、俺たちがやっているのはババ抜きだ。ちなみにルキナも俺も服を着替えた。流石にあの服装のままでいるのは駄目だからな。
「私は僧侶、服に水を弾く魔法を付与した」
「ああ、なるほどな。げっ、リズが持ってたのか」
俺はリズからjokerを引いてしまった。リズの表情があまり動かないから全然気づかなかった。こいつ、ポーカーフェイスが必要なゲーム強いな。
「僧侶ってそんなことができるんだね」
「そうだぞー。僧侶は魔法をいろんな物に付与したり傷を治したりすることが出来るんだ」
「へえ、僧侶って凄いんだね」
「ぶい」
リズはルキナに褒められてからドヤ顔をしてVサインを俺に向ける。良く分からないが楽しそうだ。
「あー、俺の負けかぁ」
俺はベッドの上で倒れ込む。結局ルキナが1位、リズが2位、俺がドベだった。
「はい、お兄ちゃんの負けー。負けた罰として私が背中に乗りまーす」
「うへー。まぁ軽いから別になんてことないけど」
俺はルキナに乗っかれたまま肘をついてだらける。なんかババ抜きも飽きてきたな。次は何をしようか? 俺は次の遊びを考える。
「………2人に相談したいことがある」
「相談?」
俺とルキナはリズの方を同時に向いた。相談って俺たちで良いのか? まともな相談相手になれる気なんかしないんだが。
「うん、最近変なことがある」
「変なこと、ですか?」
「そう、たまになんだけど胸がこう変な感じになる時がある」
「え? それって成ちょーー」
俺は危うく出かけた言葉を口元に手を置いてなんとか止めた。もしかしてリズさん、あなたの胸はまだ成長なさるおつもりですか?
「………」
ルキナはその話を聞いて黙っている。何も反応がないのが少し怖い。
「お兄ちゃん、ちょっと1階に行っててくれる?」
「え、なんで?」
俺は急に部屋からの追放に驚いた。一体どうしたんだ? さっきのやり取りで何を感じ取ったんだ?
「良いから、ここからは女の子だけの会話だから良いって言うまで入ってきちゃ駄目だよ」
「マジか〜。じゃあ下でゴードンさんと話してるから終わったら呼んでくれ」
「はーい」
俺は部屋を出て下に降りる。一体何を話すのかとかそんな邪推はしない。これでも俺は人のプライバシーは守る方だ。
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そうしてグレンが出て行った部屋はリズとルキナの2人だけになった。ルキナは既に起き上がってリズをまっすぐ見ている。
「さて、リズさん。その変な感じっていつ頃ですか?」
「ここ最近、パーティメンバーと話してる時とかになったりする」
「?? パーティメンバー?」
「そう」
「??」
ルキナは首を傾げてしまう。思った答えと違う答えが返ってきて戸惑っているようにも見える。
「ええと、その変な感じってどんな感じですか?」
「なんか、こうモヤっとする」
「ん〜?」
ルキナは更に眉を顰めてしまう。
「……誰の話をしてる時になりますか?」
「誰の話? ……うーん」
リズは考え込む。そして何かを思い出したかのような表情になった。
「……多分、グレンの話の時だと思う」
「……………」
ルキナは手で目を覆って黙ってしまう。もしかしたら違うと思ったが結果は予想通りだったと言ったような顔だ。
「どうしたの?」
「……なんでもないです」
ルキナは1つ咳払いをして調子を取り戻す。
「それで、リズさんはその気持ちがなんなのか分からないから相談をしたってことで良いですか?」
「うん、それで合ってる」
「………」
ルキナは考える。幸いリズは自分の気持ちが分かっていない。ここは正直に話すべきか、それともはぐらかすべきか。
「リズさん。その気持ちの正体はですねーー」
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「でさー、前にもナイン達に追いかけられてさー」
「それはまた大変だったな」
俺とゴードンさんは下で雑談をしていた。もう雑談を始めてから20分くらいは経っている。けれどゴードンさんと話すのも楽しいので苦痛ではない。
「お兄ちゃーん、もう上がって来て良いよー」
「お? もう良いのか。じゃあ俺は部屋に戻るわ」
「おー、ゆっくりしろよ」
俺はゴードンさんに手を振って部屋に戻る。結構長かったけど一体何を話していたんだろうか?
「もう良いのか?」
「ん、大丈夫」
「そうか? なら良いけど」
こうして俺たちは再び部屋の中でトランプなどを初めとしたいろんな遊びで時間を潰していった。
「お、そろそろ良い時間だな」
ふと時計を見ると6時を過ぎていた。本来なら外の天気で分かるが雨のせいで分からなかった。
「今から飯でも食おうかと思うんだがリズはどうする?」
「迷惑じゃなかったら一緒に食べたい」
「じゃあ食うか。ルキナも良いか?」
「うん、良いよー」
こうして俺たちは一階に行き3人で飯を食べた。リズとルキナも俺が作った料理を美味しそうに食べてくれたので俺としても満足だ。
「美味しかった。ご馳走様」
「はいよ、お粗末さま」
「じゃあ、私はそろそろ帰るね」
リズは席を立って出口まで向かう。俺も後に続いて席を立つ。
「送って行かなくても平気か?」
「大丈夫。今日は楽しかった、ありがとう」
「どういたしまして、気をつけて帰れよ」
「またね」
俺は出口でホテルに帰っていくリズを見送った。なんだかんだ今日も楽しかった。あとは風呂に入って寝るだけだな。俺は宿に戻った。
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リズ視点
私はグレンの宿からいつものホテルへと戻って来た。
「ただいま」
「おかえり。………どこか行ってたの?」
ドアを開けると大きなぬいぐるみを持っているアリスがいた。アリスは私の服装がいつもと違うのを見てどこかに出かけていることを察したらしい。
「暇だからグレンの所に遊びに行ってた」
「へぇ、楽しかった?」
「うん、ルキナとグレンの3人で遊んだ」
「ルキナって前に言ってたグレンの妹って人?」
「ん、そう……あと前の変な気持ちの理由をルキナから教えて貰った」
「え、ルキナちゃんから? なんて言ってたの?」
アリスはぬいぐるみに抱きついて聞いてくる。
「この気持ちは友達が取られるかも知れないって思った時になるらしい」
「へえ、つまり嫉妬ってやつかな?」
「確か、ルキナもそう言ってた」
「なるほど、でも良かったね。自分の気持ちの正体が分かって」
「うん、良かった」
本当にこの気持ちの正体が分かって良かった。このままずっと分からなかったら気持ちが悪いままだった気がする。
「で、リズ」
「うん?」
「その気持ちが分かったのは良かったけど。その胸の違和感を治す方法はあるの?」
私はアリスにそう言われてルキナが言ってたことを思い出す。
「治すとは違うかも知れないけど、グレンと友達ってことを意識してたら違和感が薄れていくって言ってた」
「……それっていつもと何も変わらないんじゃないかな?」
「私もそれは思った」
なんでルキナはそんなことを言ったんだろ? 本当にそれだけでこの変な感じが取れるのか疑問に思う。
「でも、それ以外何も分からないから意識していこうと思う」
「治ると良いね」
「うん」
自分のこの変な違和感も分かったし、友達ともいっぱい遊ぶことが出来た。今日は楽しかった。またグレンと予定があえば遊びたいな。
私はお風呂に入って眠ることにした。
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