第29話 雨の日
手合わせから数日が経ち、俺とルキナはクエストを受けながら何事もなく過ごしていた。
「あー、億劫だなー」
「ねー、こんな雨の日は何もやる気が起きないねー」
俺たちは宿の中でだらけている。外はかなり豪雨が朝から降り続けている。こんな雨じゃ外にも出られない。
「今日はどうするー?」
「うーん、そうだなー」
俺はだらけながら何をするか考える。クエストは無しだ。こんな雨の日になんか行きたくない。どこか遊びに行こうかと考えたがこんな雨の日では出来ることなんてほとんどないだろう。
「……駄目だ、全然思いつかねぇ。ルキナはなんかあるか?」
「うーん、私も特には思いつかないなぁ」
「だよなぁ」
結局俺たちは何も思い付かずだらだらとしている。どうせすることもないんだ。今日はこのまま1日ボーッと過ごすのも悪くない。俺はそう思い、目を閉じて二度寝しようとする。
「おーい! グレンにお客さんが来たぞー!」
「えぇ? こんな雨の日に俺にぃ?」
俺はゴードンさんの声でむくりと起き上がる。こんな雨の日に俺を尋ねて来るなんてどこの物好きだ?
「ルキナー? 俺ちょっと下降りてくるわ」
「分かったー」
ルキナは相変わらずベッドの上でのんびりしている。俺は寝巻き姿のままで下に降りた。どうせすぐに部屋に上がるつもりだからいちいち着替えるのも面倒だしな。
「遊びに来たよ」
一階に降りるとリズが居た。リズはいつもの修道服のような服ではなく少し大きめの長袖とスカートを履いている。本当に遊びに来たような格好だ。
「ええと、リズさん? なんか用事があったとかそんなんじゃない感じ?」
「うん、暇だから遊びに来た」
どうやら本当に遊びに来ただけのようだ。色々言いたいことはある、でも初めに何を言おうか迷ってしまう。
「……とりあえず、他のメンバーは?」
まずは1番最初に聞くべきことはこれだろう。もし、ここに勝手に来ているのならば他のパーティメンバーが心配するかもしれない。
「アリスは趣味のぬいぐるみ集めに出かけて、カーラは魔導書を買いに、ステラは雨だからずっと寝てる」
「なんと言うか、相変わらずみんなマイペースだな」
「ん、だから私は暇だから来た」
それで、良し、男友達の所に行こう! とはならないけどな? それにしてもアリスの趣味がぬいぐるみ集めとか少し意外だ。なんと言うか可愛らしい趣味だな。
「遊びに来たのは別に良いけど、今日はどこかに行く予定とかないぞ?」
「グレンの部屋で遊ぶから別に良い」
「ん? ちょっと待って? 聞き間違いかな? なんか俺の部屋で遊ぶって聞こえたんだけど」
俺はもう一度聞き返す。こんなに雨粒の音がするんだ。もしかしたら俺の聞き間違いかもしれない。
「うん、そう言った」
「…………」
聞き間違いではなかった。リズは俺の泊まっている部屋で遊ぶ気でいるんだ。この子まじで距離感おかしいよ。
「オーケー、リズ。一回考えてみようか」
「ん? 何を?」
「ある所に1人の男の子と女の子がいました。2人は友達です」
「?? 何の話?」
「まぁちょっと考えてみてくれ。で、その子たちはある日男の子の部屋で遊ぶことになり、部屋に行きます。けれどその現場を見ていた人がいました。その人はどう思いましたか? はい、リズ君」
「とても仲が良い」
「…………」
なんでそう言う方向の考えになるんだ? どう考えても違うだろ。
「良いか? 答えは男女の仲だと勘違いさせる、だ」
「え、なんで? 友達なら友達の家で遊ぶのは普通のこと」
「友達なら普通だけど問題はその2人が男女ってことが問題なんだ。周りの人間はそんなこと知らないしな」
「……私たちもそう言う風に噂されるかも知れないってこと?」
「そう言うこと、お前もそんな噂が立つと今後の冒険者活動がしづらいだろうし、何より俺の命が危険なんだ」
「?? どう言うこと」
「いや、こっちの話」
俺はもしそんな噂が流れようものならとてつもなくまずいことになると確信めいたものがある。具体的にはどこぞの馬鹿どもに追いかけられる確信が。
「まぁ、そう言う訳だから俺の部屋で遊ぶことはできないんだ」
「駄目?」
「あー、流石にな」
「…………どうしても駄目?」
「うっ」
リズはしょんぼりしたような顔になった。リズはあまり表情が動かないのに嬉しい、悲しいがすぐに分かるのが逆に辛い。なんか俺が小動物を虐めてる気分になるからその目をやめてほしい。
「いや、どうしてもって訳じゃないけど、ほら、お前もそんな噂が立つとしんどいだろ?」
「私は平気」
「そっかぁ、平気かぁ」
リズはこれ以上言っても引きそうにない。今回も俺が折れるしかないのか。
「分かったよ。つっても俺の部屋には何もないぞ?」
「ん、別に良い」
「ああ、そう?」
俺はリズを自分の部屋へ案内する。まぁ、ルキナもいるし、そんな間違いは起こらないだろう。そんなことを考えながら部屋のドアを開ける。
「あ、おかえりー。お兄ちゃんに用がある人って一体どん…な…」
ルキナは俺の隣にいたリズを見て固まってしまった。リズはルキナに対して手を振っている。
「……お兄ちゃん?」
ルキナの目から光が消えた。俺は思わずふいっと目を逸らしてしまう。
「はい、リズが遊びに来ました」
「遊びに来た」
「………はぁ。それで、何をするの?」
ルキナは呆れたような目で俺を見る。よく分からないがお許しが出たらしい。
「そうだなぁ、トランプでもするか?」
「ん、やろう」
俺は魔法袋からトランプを取り出してカードを2人に配っていく。
「よし、じゃあ始めるか」
俺たちは3人でトランプを始めた。
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