第28話 手合わせ
カーラと過ごした休日の次の日、俺たちは宿の一階で飯を食べている。
「ルキナ、今日は手合わせするぞ」
「え? 急にどうしたの?」
ルキナはパンを片手にきょとんとした顔で俺を見る。確かに突然そんな事を言われたらそんな顔もするだろう。
「いや、そういえば冒険者になるんだったらルキナの実力がどれほどか把握しておいた方が良いと思ってな。今日はクエストはなしでルキナの実力を測ろうと思う」
「うーん、…分かった!」
「良し、じゃあ飯を食ってちょっと休憩したら始めるか」
「あれ? すぐにじゃないの?」
「流石に食べてすぐ動いたらお前もしんどいだろ? だから30分くらいは休憩してからだ」
「ふふ、やっぱりお兄ちゃんは優しいね」
そうして俺たちは朝食を食べていく。あとはどこで手合わせをするか考えないとだな。俺はどこで手合わせをするかを頭の中で決めていく。
「良し、ここら辺で良いか」
俺はヘイル森林で手合わせをすることにした。ここにした理由は特にない、強いて言うなら1番近かったからだ。
「じゃあ始めるぞ。思いっきり来いよ」
俺はルキナから少しだけ距離を取って向かい合う。ルキナはやる気満々みたいだ。すごく張り切っている。
「うん! じゃあ、行く……よ!!」
ルキナが自分の言葉が終わると同時に一気に距離を詰めて俺の顔にめがけて蹴りを放つ。
「良い蹴りだ。今からでもランク4、いや5くらいにはなれると思うぞ」
俺はその蹴りを手のひらで受け止めた。確か、ルキナは父さんに戦い方を教えてもらったと言っていたな。
「ふっ! せい!!」
ルキナは続けて攻撃を繰り出す。俺はその攻撃を止め、躱し、そして受け流す。そこである一つの疑問が浮かび、俺は攻撃を受けながらルキナに問いかける。
「なぁ、ルキナ。お前、父さんに教わったのっていつ頃だ?」
「うーんとね! 確か2ヶ月くらい前だったか、な!!」
俺はルキナの攻撃を避けながらやっぱりかと思った。おそらく父さんはルキナの身体能力と魔力の底上げに力を入れたのだと。
確かに身体能力を上げて、更にそれを魔力で強化すればルキナは今でも充分中堅冒険者くらいはある。だが、それでも攻撃が単純だった。これじゃすぐに読まれてしまう。
まあ、それでもたった2ヶ月でルキナをここまで強くしたのは流石は父さんだ。けれどあの人のことだからそこまで厳しくはしてないのだろう。
「体術の方はあらかた見たな。……良し、魔法も使って良いぞ。」
「え? 魔法も使って良いの?」
俺の言葉によほど驚いたのかルキナの動きが止まった。確かに魔法は使い方を誤れば大変危険なものではあるがそれでも大丈夫だと俺は判断した。
「ああ、お前の魔法も見ておいた方が良いと思ってな。今日はルキナの得意と苦手を全部見ておくつもりだからな」
「分かった。じゃあ行くよ!」
ルキナは目を閉じて魔力を溜め始める。魔力の高まりの影響でルキナの水色の髪がふわりと浮き始める。
「おー、すごいな」
俺は素直に感心の声を上げる。まだまだ粗削りで思う所はあるが魔力量はこの時点でも中々のものだ。
「行くよ! 『ウォーターボール!』」
ルキナは手を俺に向けてかざす。するとルキナの手から水の塊が現れる。俺より遥かに大きな水、それが弾丸のような速度で飛んできた。確かこれは昨日カーラに教えて貰ってた中級魔法だな。
「ふっ!」
俺は飛んできた水の弾丸を拳で地面に叩き落とした。ルキナの放った水はそれなりに威力があった、その証拠に叩き落とした場所がえぐれている。
「……なるほどな。ルキナは多分魔導士の素質があるな」
俺はルキナの体術と魔法を見比べて魔法の方が優れていると判断した。おそらくだが、このまま伸ばしていくのなら魔法の方が良いだろう。
「え、そうかな?」
「ああ、これから魔法の練習をしっかりとしていけばランク7くらいにはなれると思う」
いや、ルキナに”スキル”があれば更にその先に進むことだってーー
「……お兄ちゃん?」
「ん? 悪い、ちょっと考え事してた。まぁ、話を戻すけどルキナは魔法を伸ばすべきだと俺は思う」
俺は話を戻す。スキルがどうこうなんてことは今考えても仕方がないことだ。
「うん、じゃあそうする!」
「軽いな、もうちょっと悩んだりした方が良いんじゃないか?」
「私はお兄ちゃんを信じるよ!」
ルキナはすごく明るい笑顔を向けてくる。俺は無垢な人間の信頼は時に計り知れない程のプレッシャーになることを知った。
「……これは失敗できないなぁ」
俺はふぅとため息をつく。ルキナの魔法を伸ばす為には俺が教えるだけでは駄目な気がする。変な癖とかつきそうだし、こう言うのは基礎からしっかりと積んでいかないと。
「……ま、とりあえずは今日はここらで終わりにするか。ルキナもお疲れ」
「うん! それにしてもお兄ちゃんすごいね! 本気でやったのに傷1つないなんて」
「俺は父さんに何年も鍛えられてきたからな。多分、もう自分の限界まで鍛え上げていると思うぞ」
「へぇー、私もそこまで強くなれるかな?」
俺はルキナの頭に手を置いて微笑む。
「なれるさ、お前は俺よりずっと才能がある」
「ほんと?」
「ああ、本当だよ」
俺はそのままルキナの頭を撫でる。ルキナは頭を撫でてやると嬉しそうに顔を綻ばせる。
「じゃあ、そろそろ戻るか」
「うん!」
今回の手合わせで大体のルキナの実力も分かった。俺はどうやってルキナの魔法を伸ばしていくかを考えながらのんびりと歩いて街に戻ることにした。
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