第26話 魔導書と魔法


「で、ルキナはどう言った本が良いんだ?」


「うーんとね、私は水の魔法が得意だから水関係が良いな」


「……水の系統ですか、それならあそこにある魔導書が良いですね。ちなみに魔力量はどれくらいありますか?」


 俺たちはカーラの後を歩く。カーラの言う魔力量とはSからDで区分されている自身が保有している魔力の数値のことだ。冒険者になる時や、人にもよるが自分で測ることも出来る者もいる。


「ええと、確かBでした」


「優秀ですね。Bとなると中堅冒険者にすぐになれると思いますよ」


「え、本当ですか!?」


 ルキナの声が大きくなる。周りにいた魔導士たちの目が一斉にこちらに向いて気まずい。


「ルキナ、声」


「あ、ごめん。……でもお兄ちゃんと同じ中堅に、えへへ」


 ルキナは嬉しそうに顔を綻ばせる。俺と同じなのがそんなに嬉しいのだろうか? まぁ、慕われているのは分かるな。


「ちなみにカーラは幾つなんだ?」


 俺はふと疑問に思ったことを聞いた。カーラの魔力はどれくらいなのか気になったのだ。


「私はAランクですよ。残念ながらSには到底届きません」


「それでも凄ぇよ。その上こうやって俺たちの手伝いまでしてくれるからな。頭があがらねぇな」


「ふふ、どういたしまして。あ、ここですね。ここの上にある本が水系統の魔導書です」



 そう言いながらカーラは何かの魔法を唱える。すると本の一冊がふわりと浮いてカーラの手元にやってきた。


「これなんかどうですか? 中級魔法ですが汎用性が高く、色々な場面で使うことが出来ます」


 そうしてカーラはルキナに本を渡す。色は茶色で装飾などはされてなく普通の本と変わらないように見えるがこれが一般的な魔導書だ。


「じゃあこれを買うか」


 俺はそう言って店員の所へ行こうとする。するとカーラから後ろから声をかけられる。


「グレンさんは良いんですか? 何か必要な魔導書とかは」


「あー、俺は大丈夫だ。俺の場合は覚えたとしても魔力が少なくて使えないからな」


 魔導書の良いところはしっかりと読んで内容を覚えるとその魔法が使えること。悪いところは魔力が足りなかったら発動しないことだ。俺の場合は魔力が足りないから覚えた所で意味がない、と言うことにしている。


「……なら、私が魔力の消費が少ない魔法を教えますよ、このあと予定とか大丈夫ですか?」


「え? 今から?」


 俺はあまりの急展開に驚いて目を見開いてしまう。幾らなんでも急すぎないか? 


「……やっぱり迷惑だったでしょうか?」


 カーラの顔が少し不安そうな顔に変わった。やっばい、こんな顔されたら断れねえよ、断ったら周りの人に殺されそうだもん、魔導士っぽい人らがめっちゃ見てるし。


「じゃあ頼む。ルキナも良いか?」


「うん、私も良いよ。カーラさんの魔法とか見てみたいし」


 ルキナも素直に了承してくれたので俺たちはルキナの魔導書を買って店を出た。あと魔導書はやっぱり高かった。


「ここら辺で良いか?」


 俺たちは魔導書店から出て数十分ほど歩き、前にステラと来た緑の丘にいる。


「そうですね。まずはグレンさんの魔力量を調べます。ここに手を置いてもらえますか?」


 カーラは自身の魔法袋から白い水晶玉を取り出した。ちなみにルキナは少し離れた所で魔導書を読んでいた。


「分かった、確かこんな感じだよな?」


「はい、それで大丈夫です」


 俺が手をかざすと水晶から薄い数字が浮かび上がってくる。


「85……Cランクですね」


「やっぱりCか、まぁ分かってたけどな」


 この魔力数値はその値を超えればランクが上がる。Dなら70を超えればCに、Bは180を越えなければならない。上に行くほど振り幅がデカくなるのだ。


「魔力量は分かりました。では教えていきますね」


 カーラの右手に木製の杖が現れる。カーラはその杖を握り空に向かって魔法を放つ。


『フレアバースト!』


 上に放たれた炎の塊は細かく分かれて槍のような鋭い形状になり、それぞれの炎の槍が意思を持つように動いたあと、ゆっくりと消えた。


「すげー、この魔法はオリジナルか?」


「はい、この魔法は私が基礎から組み立てて自分で作り上げた魔法です。この魔法の利点は魔力をあまり消費せず、高い威力が出せます。しかしその反面、コントロールが難しいんです」


「なるほどな、しっかりメリットとデメリットがあるわけか」


 確かにあの魔法はすごい速度と数だった。それをカーラを全てコントロールしていたのだ。それだけであの魔法の難しさが良く分かる。


「確か、グレンさんは杖は使いませんよね?」


「そうだな、俺はソロだから常に両手は使えるようにしておきたい」


「分かりました。では、魔力を手に集中させて下さい。」


「分かった。……こんな感じか?」


 俺は手のひらにゆっくりと魔力を集めていく。じんわりと温かいものが手に集まっているのが分かる。


「そう、そうです。そのまま集めた魔力を分散させるイメージで撃って下さい」


「分かった。『フレアバースト』」


 俺は言われたままに集めた魔力を空に向かって放つ。するとカーラと同じ、とはいかないかなかった。バラバラの大きさの炎の槍はしばらく動いて消えた。


「そうですね、分散させた後は鋭く、同じくらいのサイズの物を増やすイメージの方が良いかも知れません」


「分かった……中々難しいな」


 俺は再び魔力を手に集める。次はもう少し速度と鋭さを意識しながら魔法を放とう。


「そうですね、そのまま槍を飛ばすイメージで撃って見てください」


『フレアバースト』


 俺は再び魔法を空に放つ。先ほどと比べれば良くはなったがそれでもまだカーラの精度には及ばなかった。やはり俺は精密な動作が必要な魔法はそんなに得意ではないと痛感する。


「先ほどと比べて良くなっています。このまま続けて行けばもっと良くなると思います」


「なら良かった。じゃあ次はルキナ……はまだ本を読んでる途中か」


 ルキナは真剣な顔で魔導書を読んでいた。俺はルキナの元まで歩いて声をかける。


「ルキナ、せっかくだからカーラに直接教えて貰ったらどうだ? 魔導書だけじゃ分からないこととか教えて貰えるぞ」


 俺はルキナの隣に座る。するとルキナは本を閉じて俺に視線を移した。


「そうだね、じゃあカーラさん。お願いしても良いですか?」


「はい、ではやっていきましょうか」


 ルキナはカーラの元まで行き頭を下げる。カーラは笑顔で快く引き受けた。俺はルキナの魔法の練習を見ながらのんびりと休むことにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る