第21話 街への旅


俺とルキナは村を出て街へ行くためにのんびりと歩いて行く。ルキナは村を出ることがほとんどないので、できれば空を飛ぶのは最後の手段にしたい。


「それにしてもお父さんはなんで急に許してくれたんだろう?」


「さぁ? でも何か父さんにも考えがあるんじゃないか?」


その考えが良いものか悪いものかは知らないけど。けれど憶測だけでそれを言うのは良くないから俺は黙っておくことにする。


「まぁ、街までまだ時間もかかるし、のんびりと行くか」


「うん! そうだね!」


「あ、そう言えば…ルキナは父さんに戦い方を教えて貰ったんだよな?」


「うん。そうだよ?」


「その時に、父さんは俺のことなんか言ってたか?」


「うん! 前にお兄ちゃんのことを聞いたら、お兄ちゃんは凄く強いって教えてくれたよ!」


「……」


俺は言葉を失った。自分から力は隠せって言ってたのになんで教えてるんだよ。本当に父は親バカである。


「ルキナ、街に行ったら俺の力が凄く強いとか言っちゃ駄目だぞ?」


「それ、お父さんも言ってた。なんで?」


「なんかな? 父さんが言ってたんだけど危険が及ぶから知られたら駄目なんだと」


俺はルキナにバラさないように言い聞かせる。ルキナはいい子なので多分聞き入れてくれるはずだ。


「よく分かんないけど、分かった! 誰にも言わないよ!」


「よしよし! ルキナはいい子だなぁ」


「えへへ! これ好きぃ」


俺がルキナの頭を撫でるとルキナは蕩けたような顔になった。これはあんまり人前で見せちゃいけない顔だな。

 俺は撫でながらそう思った。


「さてと、もうそろそろ夜になりそうだな。どうする? 飛んで行くか?」


「うん! 私も早く街に行きたぁい!」


「じゃあ飛んで行くか」


そうして俺がフワッと宙に浮こうとすると背中にルキナが抱きついてきた。俺は何をしてるのか分からなかった。


「おーい。ルキナァ? 何してるんだ?」


「んー? だって私まだお兄ちゃんみたいに空を早く移動出来ないし」


「ならしょうがないか。じゃあちゃんと捕まっておくんだぞ」


「はぁい!」


ルキナは俺の背中に力いっぱい抱きついてくる。俺はルキナの足に手を回し、おんぶする。そしてそのままゆっくりと空へと上がる。



ある程度まで上に上がると街の方向に飛ぶ。ルキナが苦しくならないように最初はゆっくりと飛び、徐々にスピードを上げていく。


「わぁ! すごい速い! お兄ちゃん凄ぉい!」


ルキナは俺の背中から上から地上を見て驚いたような声を上げる。


「どうだ? 上から見る景色も中々良いだろ?」


「うん! 上から色々な物が見えて面白い! あ! お兄ちゃん! あそこにワイバーンの群れがあるよ!」


「ん? おー、ほんとだ」


ルキナの指を指した方向に数十頭のワイバーンが飛んでいた。ワイバーンは龍とは違い、体もそこまで大きくなく”龍もどき”と呼ばれることもある。


「見えてきたな。もうそろそろ着くぞ」


「え? もう着くの?」


15分くらい空を飛ぶと街が見えてくる。街は夜でもそれなりに明るいのでわかりやすい。


「ほら、あの光っている場所が俺の住んでる街だよ」


「わぁ! なんか凄い綺麗だね!」


ルキナは街を見ると目を輝かせていた。確かにウチの村は自然が豊かな分、夜などは王都やこの街みたいに明るくない。


「じゃあそろそろ降りるぞ」


「分かったぁ!」


ルキナに降りることを伝えて街の近くでバレないようにゆっくりと地上に降りていく。


「ほら、もう下りても大丈夫だぞ」


「……」


「…ルキナ?」


俺が下りても大丈夫なことを伝えても無言で、手を話そうとしない。


「……下りたくない」


「えぇ〜?」


「このままじゃ駄目?」


「別にいいけど、お前は大丈夫なのか? 色んな人に見られるんだぞ?」


「別に良いよ」


別に良いらしい。ならもう俺から言えることは何もない。下りる気配もないし、このまま街へ入るかぁ。


「おぉ! グレンじゃないか!」


「久しぶり」


「本当にな! ん? 背中の人は誰だ?」


衛兵のおっちゃんは俺の背中の人に気づいた。おっちゃんは真面目な衛兵の顔になった。


「俺ちょっと前に実家に帰ってたんだ。背中のは妹のルキナ」


「こんばんわ。妹のルキナです」


ルキナは俺の背中から下りて丁寧に挨拶をする。すると衛兵のおっちゃんも関心していた。


「ほぇー! こりゃまた綺麗な妹さんだな。あの3人組に見つかったらまた追いかけ回されるんじゃないか?」


「冗談でもやめてくれ」


確かに、あの3バカならまた話を聞かずに襲ってくる可能性がある。やばいな、また追いかけられる未来が容易に想像出来る。


「じゃあ、あいつらに見つからないように気をつけろよー」


「あぁ。そうするよ」


「行こう! お兄ちゃん!」


そして街へと入ろうとした時に一度は下りたルキナが再び背中に抱きついてくる。仕方がないので俺はおんぶをすることにした。


「んー? ありゃ本当に兄弟なのか?」


衛兵のおっちゃんは後ろから2人を見て呟いた。グレンの対応は妹のそれだが、その逆に妹の方は兄弟以上の感情を持っているように見えたからだ。




俺たちは街に入る。街の中は街灯が並んでおり、飲食店、娼館、屋台など様々な店がやっている。



 この街は俺の村とは違い、昼と夜では全く違う景色が映る街となる。


「じゃあ、もう暗いしどっかで飯でも食うか。なにか食べたい物とかあるか?」


「うーんとね。パスタとか食べたい!」 


「パスタか、ここら辺でやってるとこあったかな」


俺は背中にルキナを背負ったままで街を回っていく。

 今の時間なら基本的にどの店もやっているが、できれば早く食べたいのが本音だ。


「こことかどうだ? 前に友達ときたけど美味かったぞ」


「わぁ! オシャレなところだね!」


俺とルキナは店の前にいる。ここは前にナインたちと一緒に飯を食った所だ。雰囲気もおしゃれで女性からの人気も高いらしい。



「……ねぇ、友達って女のひと?」


背中にいるルキナが尋ねてきた。心なしかいつもより声も低くて、手にも力が入ってる気がする。


「んー? いや、男友達と4人で食いに来たな」


「!!…そうなんだ! さ、お兄ちゃん! 中に入ろ!」


「はいはい」


ルキナは早く入るように急かしてくる。さっきまでと違い声もいつもと同じ明るい声に戻っていた。



俺たちは中に入る。流石にこのまま入るわけにも行かなかったのでルキナには悪いが下りてもらった。ルキナは膨れっ面になっていたが店の中までは流石に駄目だ。


俺たちは店のテーブルまで案内されてそのまま席に座る。席に座るとルキナが周りを見渡して、


「わぁ! お店の中も綺麗だね!」


「だろ? 前はこのカルボナーラ食べたけど美味かったな」


「へぇー! 私はそれにしようかな。お兄ちゃんは?」


「俺は……そうだな、これにするか」


俺はメニュー表に指を指す。俺が頼もうとしているのはナポリタンだ。前来た時はこれも気になっていたのだが結局はカルボナーラにした。


「すいませーん。カルボナーラ1つとナポリタン1つお願いします」


「はい、かしこまりました。そちらの彼女さんとのデートですか?」


「か、彼女なんて、そんな…えへへ!」


「あぁ、いえ、妹です」


「あ! そうなんですね! 失礼しました」


「………」


俺の言葉でさっきまで照れていたルキナは真顔で俺を見ている。でも兄弟で彼氏彼女に間違われるのは気まずいから訂正はしておかないとな。


俺はルキナの目を見ないようにする。だってさっきちらっとルキナの顔を見た時に目の光がなかったから怖い。


ルキナの顔をなるべく見ないようにして俺は料理ができるまで待った。


 頼むから早く来てくれ。


「はい! お待たせ致しました! ナポリタンとカルボナーラになります」


「さ、さて、注文も来たことだし食べようか!」


「…うん」


しばらく待つと注文が届いた。けど注文が届いてもまだルキナの元気が少しだけなかった。


「……!!…美味しい! これ美味しいよ! お兄ちゃん!!」


「そっか。それは良かった」


ルキナはカルボナーラを一口食べるといつもと同じように元気になった。本当に良かった。


それから俺も食べ始め、ルキナも美味しそうに食べている。


「……」


「ん? どうした?」


ナポリタンを食べているとルキナが俺を見ていることに気づく。正確には俺が食べているナポリタンをだが…


「しょうがないなぁ。ほら」


「……いいの?」


「こっちも食べて見たいんだろ?」


俺はルキナがナポリタンを食べたそうにしてるのに気ずいたのでフォークでナポリタンを巻いて差し出す。


 何年もお兄ちゃんをやっていたのでこれくらいのことは分かるようになっている。


「ありがとう! …うん! これも美味しい!」


「口にあって良かったな」


そして俺とルキナはお互いが注文した料理を食べ終えて店を出る。


「美味しかったぁ! もうお腹いっぱいだよぉ」


「あそこ結構量もあるもんな。そろそろいい時間だし、宿に行くかぁ」


「うん! じゃあおんぶして!」


「はいはい」


俺はルキナにおんぶして、いつもの宿屋に向かう。ここからはそれなりに遠いが歩いて10分くらいならまだましな方だ。


「ほら、ついたぞ」


「ここにいつもお兄ちゃんが泊まってるの?」


「そうだぞぉ。いつもはここでお世話になってるんだ」


俺とルキナはゴードンさんの宿の前にいる。ルキナは宿を見て少し不思議そうな顔をしたがすぐにいつもの顔に戻った。


そして俺はルキナを背中から下ろして宿の中に入る。


「久しぶりだな、グレン。2日間もどこ行ってたんだ?」


「あぁ、ちょっと実家に帰ってたんだ」


「そうなのか? ところで後ろの嬢ちゃんは誰だ?」


ゴードンさんは俺の後ろにいたルキナに気づいて、誰か分からず首を傾げている。


「あぁ、俺の妹のルキナだ。歳もレーナと同い年くらいだと思うぞ」


「初めまして! 妹のルキナです! 歳は15歳です!」


ルキナは笑顔で元気にゴードンさんに挨拶をする。ゴードンさんは驚き半分で関心半分と言った表情だった。


「ほぇー、元気で優しそうな子だなぁ。ウチの娘も同じ歳だし、良ければ仲良くしてやってくれ」


「はい!」


「じゃあ、ほらグレンの部屋と嬢ちゃんの部屋の鍵だ」


「大丈夫です! 私はお兄ちゃんと一緒に寝るので一部屋で良いです!」


「え? 一部屋で良いのか?」


「はい!」


何故か俺の同意がないのに部屋が1つになった。まぁ、俺としてはゆっくりと寝れたらそれで良いのでどっちでも良いけど。


「じゃあ、ほれ。これがいつもグレンが使っている部屋の鍵だ」


「ありがとな。じゃあ行くか」


「うん!」


俺とルキナはいつも俺が使っている部屋へと向かう。扉を開けるとそこはいつもとなんら変わらない部屋だ。


「ふぁ〜。じゃあ今日はもうそろそろ寝るかぁ」


「そうだね。私も少し眠たいかも」


今日はもう眠たいので2人でベッドで横になった。横になるとだんだんと瞼が、重くなるのが分かる。


あー、やべぇ。これはすぐに眠れるなぁ。


「ねぇ、お兄ちゃん」


「んー?」


俺が眠りに落ちかけた所でルキナに声をかけられた。けど今は眠たいのであんまり会話はできそうにない。


「さっき言ってたレーナちゃんのこと教えてね?」


「あぁ、明日な、明日」


「約束だよ?」


「う〜ん」


俺はそのまま眠りについた。最後はなにを話したかよく覚えていないが明日改めてルキナに聞くことにしよう。

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